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エピソード3
 あまりの反響の大きさにすっかり気も退けてしまい、誰に返事を書くでもなく放っておいたネットのアドに、初めて、ちょっと気になるメールが舞い込んだ。
1日置いてそれに返事を書いてみると、『彼』からは、その日の内に写真付きの返事が来た。


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 サンフランシスコの大学病院でERドクターをしているというその男、送って来た写真を見ると、『クリス』というスマートな名前の響きとは似合わずに、何だかおっきなメガネをかけた、とぼけた顔の男だった。

そして、これがまたなかなかの知能犯。

一応、アドには、年令は私と同じ『三十代』という希望を書いていたのだけど、それに対して『彼』が書いて来たことは、『三十九才、射手座』。‥ん?ちょっと待てよ。今がもう十二月の始めだから、『射手座』であれば、十一月末の生まれでない限り、今月中には四十の大台に乗るんじゃないか。 うーん、全くやられちゃったねって感じ。
ブロンド、青い目、186センチ。まあ、他では軽く私の理想をクリアーなので、 歳の部分はちょっとだけ目を瞑ってOKとする事にした。‥なんて。

それから『彼』とは、メールの交換が始まった。
毎日、何気ない言葉を交わしながら、お互いのバックグラウンドを話して行き、そしてついに、よりにもよって、年も終わりの大晦日の晩、初めて実際の対面をする事になった。‥と言っても、そんなデートなどといったロマンティックな物からは程遠く、単に『彼』のオフィスで、顔を合わせるというだけなのだけれど。

実は、これまで何度か、『一度ゆっくり食事でも』というお誘いは受けていた。しかし悲しいかな、ERドックという職業柄、せっかく予定をたててはみても、直前になると、いつも『待ってました』とばかりに急患が押し寄せて来てボツになる。‥といったことの繰り返し。それで結局、いつまで、こうしてだらだらと、出会いの風船を萎ませるよりは、いっそ、いきなりブラインドデートなどとは畏まらずに、まあ、とりあえずは一度だけでも、実際に顔を合わせる機会を持とうじゃないかという事になった。
大晦日には、お猿も正月ビジテーションで父親の所に行ってしまう。 

 

 『アポイント』の時間は、『彼』の仕事が一段落つく夕方遅く、もう、日もとっぷり暮れた後だった。言っては悪いが、一般人の私にとって、こんな時間の病院訪問、何だか『見えないはずの物』にばったり出会ってしまいそうな、おどろおどろしさがあったりする。全く、最初の顔合わせからこんなことになろうとは‥。ちょっと、先行不安なヤツである。

病院に着くと、予め、Eメールで受け取っていたディレクションのメモを頼りに、静まり返った裏通りにあるエントランスのドアを開けた。

そこにいた、ヒョロ長い黒人のガードマンに不振な目で見られながら、突き当たりのエレベーターに乗る。二階でエレベーターのドアが開くと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト,すぐ正面が受付のカウンターになっていた。

明かりも落とされ人気のないフロアーでは、非常口のサインだけが、ぼわーっと無気味に薄明るい光を放っている。

『いったい、こんな空っぽの空間のどこに、まだ働いてる人がいるのかしら?場所、間違がっちゃったかなあ‥。』

心細さが膨らんで来る。

その時、空っぽだった受付に、でっぷり太ったフィリピン人のナースが顔を出した。せかせか棚を掻き回しながらお目当てのファイルを手に取ると、後は、フロアーにぽつんと立つ私の姿などには目もくれず、急いでまた奥に引っ込もうとした。

「あのー‥。」

これを逃すと大変だ。すかさず彼女を捕まえて、『クリス』の居場所を聞いてみた。
もう、一般受付けもとっくに終わっているこんな時間に、患者でもない女性がこんなところにうろちょろと入り込んで来るなんて‥。彼女から向けられる不振な視線も、当然といえば当然だ。

「オーケー。ここでちょっと待っててね。」

ニコリともしない愛想のない声でそう言うと、彼女は、また忙しそうに奥へと引っ込んだ。

シーンと沈む空間の中、堅い椅子に腰掛ける。
まるで悪い夢でも見てるようだ。

 

 そうして座って待つことしばし、間もなく、奥からパタパタと忙し気なスリッパの音を響かせて、背の高い男が顔を出した。

「ハイ、お待たせ。こんな所まで来てもらうことになってしまって悪かったね。でも、やっと会えて嬉しいよ。」

にっこり笑って握手の手を差し出す『彼』の姿といえば、ヨレヨレの白衣に首から聴診器をぶら下げて、何ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ドクターだか極めて平常心のご様子。
こちらは初めてのご対面に向けて、日頃し慣れないアイラインまでバッチリ、気合いを入れてやって来たのに‥。

あまりのその拍子抜けに、お陰で緊張も吹き飛んだ。

「さっき、また急患が運び込まれてね。今までちょっとバタついてたんだけど、丁度少し落ち着いたとこでよかったよ。ホント、こんなとこで申し訳ないなあ。こっち、奥に僕のオフィスがあるから、そこでコーヒーでもいれるよ。」

気さくな笑顔に、さっきまでの心細さが消えて行く。
初めて実際に顔を見た『クリス』は、そのぼろぼろのいでたちの割りにはハスキーな声で柔らかく話す、暖かい印象の男だった。

 

 さて、それからオフィスに腰をおろし、いざ話を始めようと口を開いた途端、机の上のブザーが鳴った。クリスが苦笑いでそれに答え、何やら指示を出して行く。それが片付き、『さあ、今からゆっくり話を始めよう』‥と思うと、今度はドアがノックされて、そこからナースが顔を出した。そして、忙しそうにカルテを差出しながらクリスに指示を仰ぎ始める。
普段、男の言い訳にしか聞こえない『忙しい』という言葉も、この男に限っては本当のようだ。

その後も、容赦の無い呼び出しはひっきりなしに続き、『ブー』とか『リーン』とか『ピピピ』とか、しょっちゅう、そこここから何かの音が、モグラ叩きのモグラのように、小さなオフィスに鳴り響いた。
その度に、『ちょっと待ってて‥。』っと、クリスはあたふた部屋を出たり入ったり‥。

『いったい私、この大晦日の晩に、こんな所で何やってんの?』

明るすぎる蛍光灯の下、一人でボーッと取り残されながら、思わずプッと吹き出した。

そうして忙しい『面会』の中、お互いの『自己紹介』を済ませると、その後は、話も早々に切り上げて、私はその場をお暇する事にした。

 

 タクシーが病院に到着すると、クリスは見送りに、一緒にエントランスまで降りて来てくれた。

「今日は会えてよかったよ。」

降りて行くエレベーターの中、『サンキュー』の握手を交す。

「実は、ネットのアドなんて見たのは初めてだったんだ。 夜勤で手があいた時、何となく眠け覚ましに覗いてみてね。見て行く内にブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ロマンス, 握手, 手『シャパニーズ』っていう文字が目に入った。それで君に連絡をとってみようと思ったわけさ。
日本という国には、ずっと前から興味があったんだ。
これから色んな話が聞けたらうれしいよ。よろしく。」

穏やかに見下ろされる青い瞳を感じながら、大きな手にそっと触れる。
重ねた手のひらから、ほんわり優しさが滲みて来た。

 

 アパートメントの部屋に戻ると、しばらく窓辺に腰掛けて、ぼんやりと外に瞬く街の光を見つめていた。

‥と、ふいに遠くの方から新年を祝う花火の音が聞こえて来た。

一年の最終の時間。
産まれて初めて、たった一人で迎えた大晦日。
でも、なぜか淋しさを感じない。

今日はぐっすり眠れそうな気がする。

時計のハリが十二時をまわる。
少しづつ世界が広がり始める。

 

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[2012/03/21 13:40] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
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