エピソード27

 二月もあと何日かで終わる日、ティブロンでの生活にさよならを告げて、またダウンタウンのアパートメントに帰って来た。


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 今度の部屋は、以前のストリップシアター『ミッチェル・ブラザーズ』のネオンが煌めく大通りに面した側ではなく、ちょっと怪しげなゲイ関係のショップが並ぶポークストリートを見下ろす建物の裏側になった。

部屋の広さも狭くなり、日当たりも少し悪くなった。
しかし、そんな事も気にならない程、何より家賃が遥かに安くなるのは有り難い。

建物の裏側になるというのもそう悪い事ばかりではないようだ。
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しかし,戻って来た建物は同じだというのに、前とは全く違った部屋で生活が始まってしまうのは、実際おかしな気分である。
以前の暮しの中にあった習慣が抜けきれずに、ロビーではつい当たり前の顔をして、今ではもう人様の物となった部屋のポストにカギを突っ込んでみたりする。
エレベーターを降りる階にもいちいち混乱するありさまで、何だか毎日がパラレルワールドの中にいるようだ。

まあ、今はまだ、何もかもがバラバラで落ち着かないこの状態も、時間と共に、飛び出したあちらこちが削られて行き、また新しい生活の形が作られて行くのだろう。

 

 そうして、最初は混乱の連続で再開したダウンタウンの生活も、部屋にある段ボールの山が整理されるのに従って、以前ここにあった通りの時間が、少しだけ形を変えて、また同じように流れ出した。

フレッドとのコート・バトルも再開した。移民局のビザのプロセスも相変わらずで、指紋登録だ、労働許可証の更新手続きだと、毎日何だと追われる時間が過ぎて行く。

毎朝、お猿の『遊ぼうコール』で目が覚める。 ベッドを抜け出した後は時間と追いかけっこをするように、バタバタ二人分の用意を整え部屋を出る。
エントランスのロビーでは、もうすっかり親しくなった新しいガードマンのアレックスと挨拶を交わし、それからお猿をデイケアまで送って行く。
トムとヒワイダとその子供たち。彼らのいつもの朝の笑顔が、一日の始まりを楽しく元気にしてくれる。

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夕方仕事を終えた後は、またデイケアからお猿をピックアップして、スーパーの袋を山ほどぶら下げたストローラーのハンドルを押しながら、ゆっくりポーク・ストリートを帰ってくる。

ごちゃごちゃと忙しい街並。
人々の活気。
ティブロンで過ごした束の間の時間が過去の想い出に変わって行く‥。

 

 今日は、最後の段ボールを片づけた後、やっとその後ろから出て来たコンピューターを接続した。
久し振りにゆっくり中を開いて見て行くうちに、未整理のまま、今までやりっぱなしに放っておいた日本の母親や友人たちに書いたEメールが、山のように出て来てしまった。

モニターの中、あちこちに散らばる手紙たちに、宝もの捜しを楽しむようにわくわくしながら目を通して行く。時間を忘れて、夢中で日付け順に並べて行く内に、そこには思いがけず、自分さえもが忘れていた時間の記録がくっきりフィードバックされて残っていた。

『色んなことがあったなあ‥』

メールに残された時間をたどりながら、様々な『今』が鮮やかに目の前に蘇ってくる。幸せに微笑んだ時間。恐怖に震えて過ごした時間。不安で泣いていた時間。愛に満たされた時間‥。
そこにある沢山の物語を読み進みながら、ほろ苦い思いに包まれる。

 

 サンフランシスコに来てからの二年半という時間の中で、私は今まで生きて来た百年分の勉強をしたような気がする。

日本にいた頃は当然のように,その自分が生まれ育った社会の中にある生活がずっと続いて行く物だと思っていた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 時計, 時間, 歴史, 生活, 時の流れ, 思いで, 文字盤, 忍耐, 希望
しかし、それが突然、唐突に、全く異質の場所に放り込まれ、今度は言葉さえもおぼつかない状況の中で、目の前にいる相手が怒っているのか、喜んでいるのか、何かを要求しているのか、単に話しているだけなのか‥、そんな基本的な事でさえも自分の勘だけを頼りとしながら、たった一人で切るしかなかったゼロからのスタート。

神のお計らいとはよく為された物で、それでも私には、毎日守って行かなければならない小さな存在が与えられていた。 手探りの混乱の中で自分自身もみくちゃにされながら、それがどれだけ私を強く、忍耐強くしてくれたことだろう。
自分のためには乗り切れないことでも、自分が守る物のためなら乗り切れる。

 

 人生を生きて行く強さというのは、いったいどこから来るのだろう?

それは私にとって、『時間という物は点ではなくて、線で繋がっている』ということが理解できたことだったと思う。

時間は常に流れている。
私たちは、常に移り変わって行く流れにのりながら、その時々に自分の船が遭遇する物たちに右往左往しているだけなのだ。
川の流れの中に石を投げ込むと水は濁る。 しかし、水が流れ続けて行く限り濁りはだんだん薄まって、また澄んだ流れが戻ってくる。要は、どれだけ水が濁ったときに、未来を信じて、その流れの中で泳ぎ続けて行ける知恵と強さを持っていられるかが大切なのだと思う。

こんな簡単なことが、なぜ今まで分からなかったのだろう?

 

 どんな人の人生にも、苦しい時がある。悲しい時がある。

一時の『嵐』の中に閉じ込められて、全てのものから目を背け、ただ闇雲の中でもがき苦しんでいる間は、その自分で止めた『点』でしかない時間に全ての可能性を閉じ込めて、絶望し、嵐はいずれ通り過ぎてしまう事を思い出す気力さえ失ってしまう。

だが、時間は流れて行く。

『もうダメだ』なんて思ったとしても、そんな思いは、流れ続ける『時間』のフィルターにかけられて、次に季節が変わる頃には、案外ぶ厚い小説の、たった何行かのエピソードに変わっていたりするものだ。

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しかし、その暗闇を這いずり回った痛さや苦しみの記憶が、出口を抜ける頃には予想以上に大きならくだの瘤となって、これから歩いて行く道々で必要な知恵や勇気を与えてくれる。
そして次の瞬間には、今度は驚く程幸せなドアが、思いがけず目の前でパッと開いたりもするのだから人生は面白い。

『自信』という文字は、自分を信じると書く。

自分が乗り越えた困難や苦労の中で学んだ知恵や勇気が、未来に向かう時間の中で、自分を信じる強さを作って行ってくれる。

そんな風に考えると、これからもまだ困難がテンコ盛りであろう人生にも、一人で立ち向かって行くのがそれ程恐くなくなって来る。

人生という物はそれほど捨てた物でもないと思う。
そこから学んで行く物たちが、未来の勇気を作って行く。

 

 私はサンフランシスコで、掛け替えのない物を手に入れた。

これから一緒に時間を生きて行く小さな存在が、私に大きな勇気をくれる。
自分の為には頑張れなくても、このちっぽけな宝物を守る為にはどんな事でも出来そうな気がする。

一年後の自分は想像出来なくても、一年後の娘の事は想像する。
その為には、一年後の私がいなければ一年後の彼女はいないのだから。

これからもサンフランシスコで暮して行く。

毎日開けるドアの中には、まだまだ思いもよらないストーリーが沢山隠れていたりするのだろう。

 

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 今日、バスの窓からこんな言葉が見えた。

"today is the first day of the rest of your life"

「今日は、今から生きて行く人生の最初の日。」

全ては私が年老いた時、『ああ、あの時はこんなだったねえ‥。』なんて、笑って話せる時が来たら素敵だなと思う。

 

 また明日、サンフランシスコで目が覚める。

today is the first day of the rest of your life.

 

〜 完 〜

 

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[2012/04/30 13:25] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
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