エピソード25

 朝一番、電話のベルで目が覚めた。


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まだ夢の中に片足を残した状態のまま受話器を取ると、痺れた頭に張り切ったクリスの声が響いて来た。

「ハッピー・バレンタインズ・デイ、スイートハート!‥ごめん、起こした?」

突然飛び込んで来たテンションの高い声に不意をつかれ、頭の中でノロノロと言葉が纏まらない。そんな私の返事など待ってる暇もないといった風に、クリスがせっかちに言葉を続けて来る。

「今、クリニックに向かう車の中で、あんまりゆっくり話せないんだ。でも、今日は一日病院に入ってバタバタしそうだから、電話かけられる時に早めに君をつかまえておこうと思ってね。今日夕方会える?バレンタインのお祝をしようよ。」

‥バレンタインズ・デイ?
ああそう言えば、今日はもう二月の十四日。
最近の目紛しい生活の中では、そんな物を気にする事さえ忘れていた。
クリスもここ二、三日、難しい急患が入って病院に缶詰めが続いているとこぼしていた。 でも、ちゃんと気にしていてくれたんだ!
頭の中にかかった霧が一気に晴れて行く。

「今日は絶対!誰が何と言っても病院を五時に抜けて来る。どこかでいいワインでも開けて美味しい物を食べよう。」

ちょっと芝居がかった言い回しで、クリスが言葉を続けている。こんなに朝早くから、よくもそんなに飛ばしていられるものだ。

「いいよそんなに頑張らなくっても。最近あんまり寝てないんでしょう?今日は私がホテルの部屋で何か用意する。お猿もいるし、レストランなんかに出て行くよりはお互いリラックス出来ていいんじゃない?」

「そう?‥うん、そう言ってくれると有り難いな。六時にはティブロンまで戻って来れると思う。今晩はペイジャーもスイッチをオフ!君とゆっくり時間を過ごすんだ。あ、今ゴールデンゲート・ブリッジ越える所。電波悪くなるからこれで切るね。」

子供のように浮き浮きとした声でせっかちに用件を伝え終わると、クリスはさっさと電話を切った。‥まったくいつもながら忙しないヤツ。
時計を見ると、そろそろ七時のアラームが鳴り響く時間になっていた。

『バレンタイン・デーなんて気にしていてくれたんだ。』

ひとりでに緩んでくる頬を、両側から指で軽くつねる。
普段のクリスの殺人的なスケジュールを考えると、これはもう奇跡に近いような気がした。

この恋人たちの日『バレンタインズ・デイ』、欧米では日本のそれとは反対に、男性が女性に愛を告げる日となっている。サンフランシスコのキャンディー・ショップ、今日はどこも、朝から男性陣がつくる長い列で一杯に混合っている。

 

 夕方、日が暮れ始めた頃、お猿をピックアップしてファイナンシャル・ディストリクトのフェリー乗り場まで戻って来ると、いつもは静かなその桟橋が、今日はまるでお花畑にいるように沢山の花束で埋まっていた。 ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベイブリッジ夜景, フェリーステーション夜景, 夜景, 湾夜景

フェリーを待って列をつくる男性たちの腕の中には、大きな花束やチョコレートのお包みが大切そうに抱えられている。
海を渡って家に帰ると、それぞれにロマンティックなバレンタイン・ディナーが待っているのかな?

色とりどりに輝くイルミネーションのライトが鮮やかに、暗い海の上にベイブリッジを浮かび上がらせている。
建ち並ぶ高層ビルの窓々には無数の琥珀色の光の粒がちりばめられ、ほうっとため息を誘っている。

サンフランシスコの街中が煌めきながら、恋人たちの優しい時間を祝福してくれている。

 

 フェリーがティブロンの船着き場に着く頃には、もうすっかり日は落ちていた。
下船する乗客の流れに加わって桟橋に降り立つと、薄暗いゲートの片隅に、クリスの立っている影が見えた。

ドキンと心臓が強くうつ。

彼の腕には、桟橋から漏れるオレンジの灯に照らされて、街中のフラワーショップから買い占めて来たような巨大な薔薇の花束がずっしりと抱えられていた。

普段ならば、ちょっと近付くのも躊躇われるような、このドラマティック過ぎる光景。
しかし、今日一日、サンフランシスコ中の男性達の花とキャンディーにかける情熱に当てられてしまった後では、こんな風に私を待っていてくれた存在にたまらない愛おしさを感じた。

込み上げて来る照れ笑いを押さえながら、ゆっくりと桟橋を渡って行く。そしてゲートの前まで来た所で、そのまま磁石に吸い付くようにブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, バラの花束, ブーケ, 薔薇クリスの体を抱きしめた。

'happy valentain's day, sweetheart.'

むせ返る薔薇の匂いに息が詰まる‥。

 

 「マミー‥。セ‥チャ、ウキャキャ!」

‥と、そんなロマンティックな気分も束の間、今までストローラーの中で静かに座っていたお猿がグイッとクリスの足を引っ張った。突然聞こえた奇妙な音に、キスを交わしながら同時に吹き出してしまう。
二人一緒に見下ろされた顔を見て、お猿は嬉しそうに小さな腕をバタつかせると、後は満足したように、言葉にならない音で何かおしゃべりを始めた。

クリスの瞳が優しく笑う。

'this is for you. young lady.'

ロマンティックにそう言って、花束から薔薇を一本抜き取ると、それをお猿の手に渡した。

'and this is for you, mommy'

気軽な調子でぽんと花束を私の腕に渡すと、クリスはストローラーのハンドルを握りホテルに向かって歩きだした。

花束は驚く程重かった。

すっかり日も落ちた船着き場。
フェリーが最後の乗客を乗せて桟橋を離れて行く。
海岸線は静寂に包まれ、ただ、暗い海に張り出したイタリアンレストランのデッキから流れるざわめきが、夜の港に気だるい活気を漂わせている。

海から吹く風はまだ冷たい。横を歩くクリスの腕にぎゅっと頬を埋める。そうして大きな胸の柔らかな温もりと腕いっぱいの薔薇の香りに包まれながら、ゆっくりゆっくりホテルに向かって歩いて行った。

 

 ホテルに着いて部屋のドアを開けると、今度は私が幸せのピックリをあげる番。

「ああ、いい匂いだ。」
クリスが鼻をヒクヒクさせながらドアを閉める。

部屋の中は、今日一日の私の奮闘のにおいで満ちている。お猿のお迎えにサンフランシスコへ向かう前にセットを済ませたテーブルが、美味しい物で埋まって行く。

コーンとマッシュルーム入りのトマトソースでブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ディナーテーブル, ロマンティックなディナー, キャンドルライト, レストラン, 記念日, 特別の日, お祝い, ロマンス, 恋人コトコト煮込んだ素晴らしく柔らかなチキンのお皿の横には、野菜をたっぷり加えたカントリー風シチューが湯気をたてる。

そんな洋風料理の隙間には、アスパラをサラッとお醤油でソテーしてカツブシをふりかけた日本の一皿。

チーズは二、三種取り混ぜて、色合いのアクセントに山盛りのフルーツを真ん中に置いて、クリス持参のシャンパンのコルクをポンと空けると、早速ディナーがスタートした。

人工的な明りは消して、部屋中をキャンドルの灯でいっぱいにする。
薔薇の香りに包まれた空間に流れる静かなシャンソン。
柔らかな会話。クリスとお猿の笑い声‥。

この優しい時間が永遠に続けばいい。

 

 「マリーンの方に移る気はないの?」

ワインのボトルも終わりに近づき、丁度空っぽになったお皿にお代わりのチキンをサーブしようと席を立ったのと同時に、すっかりリラックスした様子のクリスがそんな事を聞いて来た。

「僕達の付き合いって、君がティブロンに来てから随分楽になったような気がするんだ。あんまり現実的な話で悪いんだけど、やっぱり、ゴールデンゲート・ブリッジ越えたダウンタウンで会うのとマリーンで会うのとじゃあ気分的にすごく違うよね。」

「‥‥‥。」

唐突な話の切り出しに、返す言葉が直ぐに出ない。そのまま大鍋のチキンを突きながら少し言葉を考えてみた。

マリーンで暮らす。
正直、今までの生活の中で、そんな事を考えてみる機会は全くなかった。
漠然と『マリーンはいい所だなあ』と思う事はあっても、実際自分がそこに住むということになると、これはまた全然別の話だ。
夢を見るのは簡単だけど、現実問題、このティブロンやそのお隣のミル・バレー、もう超高級住宅地のエリアになっていて、庶民には逆立ちしても手は出ない。‥と思う。

しかしクリスの言うことも一理ある。
『恋に距離は関係ない』なんていうのは、時間とエナジーを持て余していた学生時代のファンタシー。実際社会の中に組み込まれれば、それなりに色んな制約が産まれて来る。

ダウンタウンにいる頃は、忙しいスケジュールの隙間を縫うようにして、ゆっくり二人で時間を持てるのも月に何度かあればいいといった状態だった、しかしこのティブロンに来てからは、車で2、3分という距離が朝の早いクリスを安心させるのか、仕事の帰りに夜遅くでもちょくちょくホテルに立ち寄って、リラックスした時間を過ごして行くようになった。
シフトの具合で時間が合えば、朝、船着き場に車を置いて一緒にフェリーでサンフランシスコまで渡る。そしてまた帰りはフェリーステーションで待ち合わせをして、一緒にティブロンまで帰って来る。
今まで二人の間にはなかった新しい時間の接点たちが、自然に顔をのぞかせて来た。

それに加えて、今、私の中にもマリーンに対する憧れが少しづつ膨らみつつある。
いつかはこの時間を忘れた美しい土地で、穏やかに海を見ながら暮らせたらどんなに素敵なことだろう。

マリーンの中でも、一番サンフランシスコ寄りのサルサリートの方に場所を捜せば、まだ可能性も全くゼロではないような気がする。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, サルサリート, ボートハウス, アーティストライフ, ヨットハーバー, マリーン, アーティストの生活

サルサリートは若いアーティストたちが集まる街。
海岸沿いのストリートには沢山のギャラリーが顔を並べ、週末になると、ちょくちょくアート・フェスティバルなども開かれていたりする。

あんまりお金を持たないアーティストたちでも、船着き場の一角にボートを改造した家を造り、またそれらが集まって独特のクリエイティブなアーティスト集落を形成していたりする。

「ちょっと考えてみる。今すぐってわけにはいかないけど。ビザの手続きとかコートだとかで、まだダウンタウンにいた方が便利な事が色々あるからね。でも考えてみるよ。マリーンに来るなら車の運転も練習しなきゃあ。」

私の言葉を聞いて、大きく切ったチキンの一切れをモングと口に放り込むと、クリスは嬉しそうにニッコリ笑った。

 

 食事が済むと、後片付けをする私の横でしばらく興奮してはしゃいでいたお猿が急にコトンと寝入ってしまった。クリスがひょいと、その平和な身体を抱き上げてベビーベッドに運んで行く。
軽い旋律を奏でていたシャンソンが、クリスのお気に入りのブルースに変わった。
気だるいスローなエレキギターの音に、空気の色が変わって行く。

‥と、洗い物をする私の体が、後ろからふわっと抱き上げられた。

「ちょっと‥、まだお皿残ってるんだよ。」

そんな言葉など聞かないふりで、泡だらけの手が髪をつかむのも構わず、クリスはそのままベッドルームまで歩いて行くと、まるでクッションでも置くようにして私を小さなベッドの隅っこに座らせた
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しなやかな長い腕が、まるで迷子になるのを恐れる小さな子供のようにぎゅっと私の体を掴んでいる。
外ではERのドクターとして疲れ知らずに走り回るクリスが、二人っきりになった途端、こうして赤ん坊のように甘えて来る。

何とも言えない愛おしさがじんわり胸に滲みて来た。

重たい体を腕の中に抱き包みながら、静かに頭を撫でてみる。
柔らかな髪が指に絡み、そしてすぐにサラサラと解けて行った。

 

 五分もすると、もう眠っているのかリラックスしているのか‥、まだ、私の腰にしっかりと両腕をまわして目を瞑ったままのクリスから、クークー安らかな息が聞こえ始めた。そんな様子を見守りながら、別にこれといってする事のない私は、指にあたる柔らかなブロンドの髪で小さな三つ編みを編み始めた。

『フフフ‥。』

そういえばこの明るい髪、ここ最近ではすっかりお猿の『被害』に曝されている。

クリスが食事に寄る日には、夕方三人でホテルの横のスーパーにお買い物に行く。そんな時のお猿のお気に入りはクリスの肩車。
背の高い彼がお猿を肩に乗せると、彼女はクリスの髪を『手綱』代わりにムンズと掴み、そこから見える高い目線がとてもお気に入りのご様子。
時々あんまり興奮して、肩の上で髪の毛をぶんぶんに引っ張りまわしたりするものだから、その度にクリスは、『もうちょっと加減して掴んでくれよぉ!髪の毛無くなったらママからも嫌われちゃうだろう!?』なんて、まだ言葉も話さないお猿に冗談とも本気とも分からない泣き声で頼んでいる。
二人の顔が頭に浮び、思わず『クック』とお腹が笑った。

クリスがふっと片目をあける。
『どうしたの?』とでも言うように眠たそうに頭に手をやると、彼はそこでニヤリと笑った。

'bad girl'

ゆっくり体を起こしながらパタパタと軽く頭を払うと、その不思議な色の三つ編みは、すぐにサラサラと解けて行った。

何度か髪を掻き揚げて頭を元通りに整えた後、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 薔薇クリスは両腕で私の肩をぐいっと掴んだ。

むせ返るような薔薇の香りを嗅ぎながら、大きな体が覆い包むように重なって来る。

私の中に、またクリスを感じ始める。
欠け落ちた体の半分が一つにくっつき、全ての隙間が満たされていく‥。

 

 二月の真ん中にあるバレンタイン・デー。
ティブロンで過ごす時間も、もう半分終わってしまう。

過去と未来の幕間を漂よう時間の中で、沢山の扉が開いて行く

 

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[2012/04/27 08:12] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(2) | page top↑
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コメント:
素敵なエピソードがたくさん♪
クリスさんとその後どうなってしまうのか
Happy endであることを祈りつつ・・・
毎回続きを楽しみにしている私です。
[2012/04/28 05:55] URL | Sweetie #EGzluE3Y[ 編集] | page top↑
Re: タイトルなし
Sweetieさん、ありがとうございます。
しばらくコンピューターがクラッシュして更新できなかったのですが、また復活です。
Sweetieさんもよい週末をお過ごしくださいね。

Hiroko
[2012/04/28 06:07] URL | Hiroko #faSP5sZQ[ 編集] | page top↑
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