エピソード24

 Time flies.
ティブロンに来てから、もうあっという間に二週間が過ぎた。

子猫のように体を縮めて怯えていた初日の不安はどこへやら、今ではすっかり、このメイドサービス付きのホテル暮らしに甘やかされて、どっぷり伸びきった私がいる。


ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ティブロン、ティブロン ホテル, ホテルライフ, パティオ, 贅沢,  バケーション, 屋外レストラン


シーツは毎日、ピーンと糊の効いた清潔な物と取り替えてくれる。お猿が床に散らばした紙屑も、昼には魔法のようにきれいに掃除されている。
ああ、幸せ‥。
これではダウンタウンのアパートメントに戻る時には大変だ。うーん‥。

 

 まあ、今でこそ偉そうにそんな暢気なことも言ってられるのだけれど、やっぱり最初のうちは大変だった。

ホテル暮らしの状態では、洗濯をするのにもいちいち大荷物を抱え、大通りを渡った所にあるコインランドリーまで行かなければいけない。
初めて使うその巨大なランドリーマシンの使い方がよく分らずに、機械にくっ付いている『英語』の取り扱い説明を、辞書を片手に端から読んでみたりもした。

またホテルの部屋で、家にいるのと同じ気分でパンツ一丁姿のまま昼寝をしていたら、留守だと思ったメイドが急にどかどか入って来て、掃除をしようといきなり布団をひっぺがした‥。

こんな『恥ずかしくて口にするのもためらわれるような失敗を並べろ』と言われたら、自慢じゃないけど、百科事典のシリーズ分くらいは軽く本棚に並んでしまう。
優雅なホテル生活も、裏を返せばこんな間抜けなハプニングの連続だったりするのは私の場合だけだろうか?

しかし、『慣れ』というのは頼もしい物で、最初はストレスの源でしかなかった毎日の不器用な驚きたちも、時間の経過とともに、いつしか新しい生活に振り掛けられるスパイスとして楽しみ始めた自分がいる。

 

 さて、ティブロン生活の始まりで慣れるのに大変だったことの一つに、お猿のデイケアへの送り迎えがあった。それには何とフェリーを使って、毎日ティブロンからサンフランシスコまで湾を渡って二往復する事になった。

観光気分ならいざ知らず、この初めてのフェリー体験、最初はなかなか勝手が掴めずに苦労した。
ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ティブロン, ティブロン フェリー乗り場, フェリー ゲート, マリーン, カモメ, 桟橋切符一枚買うのにも、ティブロンのフェリー乗り場には辛うじてそれと分る小さなゲートがあるだけだ。
最初は船に乗るチケットさえもどこで手に入れたらいいのかさっぱり分らなかった。

船の時間も朝と夕方の便だけしかなく、午後の最終便に乗り遅れたりしようものなら‥、それはもう、想像したくもないような大変な事になってしまう。

しかし、そんな事も慣れるにつれて、このサンフランシスコ湾のクルーズは、毎日の楽しみに変わって行った。

 

 毎朝早い時間、姫林檎を一つ手にもたせたお猿をストローラーにのせてホテルの部屋を出る。大通りを渡り、まだ人の姿も疎らな石畳の歩道まで出て来ると、そこからはゆっくり、小さな手を引きながら、船着き場まで歩いて行く。途中、大きな犬を連れてジョギングをして行く人たちが、ヨチヨチ歩きのお猿を見て、『ハイ!』と爽やかな挨拶を投げ掛けてくれる。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 子供, 女の子, ハト

船着き場までやって来ると、フェリーの到着を待ちながら、お猿と二人芝生のベンチに腰かけて、そこらに群がる人懐っこい鳥たちにポケットのビスケットを振る舞う。

カモメが群れ飛ぶ早朝の波止場にはまだ人の姿もなく、停泊する沢山のヨットのマストたちが、カコーンカコーン‥と澄み切ったサウンドを奏でている。

 

 一時間に一度、フェリーが船着き場に入って来る。
その船の到着の時間が近付くにつれて、ゲートの周りにも人が集まって来る。

このティブロンのフェリー乗り場、朝には、そののんびりとした田舎の風景には似合わない、シックなキャリアスタイルに身を固めた人たちが列を作る。
午前中にここを出航するフェリーの便は、湾を渡ると、サンフランシスコのビジネスの中心地であるファイナンシャル・ディストリクトのフェリー・ステーションに入って行く。その金融街で働く人たちが、このフェリーを、ティブロンからの通勤の足に使っているというわけなのだ。

ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フェリー桟橋に並ぶ人たちの姿は、きちんとセットされた髪に、仕立てのいいスーツをピシッと着こなした弁護士やドクター、エグゼクティブ風。
そんな乗客で埋まったフェリーのキャピンは、まるでアメリカ・キャリア社会の縮図を見ているよう。

しかし、その中に見るこの我が身の姿といったら‥。

仮住まいのホテル暮らしに持って来たヨレヨレのジーンズに、着古しの真っ赤なGAPのトレーナー。
仕上げにはワイルドなお猿が大五郎状態でくっ付いて‥。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フェリー

二人が放つオーラには、ただでさえベビー連れなんて、増してやアジア系なんて殆ど皆無の船内では、心なしか、周りの乗客の頭の上に『?』のマークが飛んでいる。

‥まあだからと言って、別にこのフェリーの中で婿捜しをしているわけではないのだから、お天道様は許してくださるにちがいない。

 

 フェリーがティブロンの小さな船着き場を出航すると、それからサンフランシスコまでは二十分程の航海が楽しめる。

青く深く広がる海原の面に、バシャバシャと二本真っ白な飛沫の尻尾を描きながら、船は悠然とサンフランシスコ湾の中を進んで行く。
遠くの方には、マリーンとシティーを陸路で結ぶゴールデンゲートブリッジが、頭を霧の中に隠しながら、オレンジ色の美しい姿を海の上に浮かび上がらせている。
ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, アルカトラス, アルカトラス刑務所, サンフランシスコ湾, フェリー, ベイエリア, 観光,

ブリッジが後ろに小さくなると、今度は荒んだアルカトラス刑務所の廃虚が残る小さな島が見えてくる。
あの、アル・カポネも収容されていたという、昔、沢山の憎しみや哀しみがぎゅっと詰って動いていた過去の空間のすぐ横を、今はこうして、幸福な人たちを乗せたフェリーがのんびりと行き過ぎる。

そんな航海を楽しみながらサンフランシスコに到着すると、そこからはチャイナタウンの坂を抜けるバスに乗り、お猿のデイケアまでたどり着く。

彼女を預けた後はまたフェリーに引き返す。
しかしティブロンまで戻るフェリーに乗るのには、今度は今来たファイナンシャル・ディストリクトのフェリー乗り場ではなくて、それより北の、フィシャーマンズ・ワーフのフェリー乗り場へ向わなければいけない。
サンフランシスコからティブロンに戻るフェリーは、朝はフィッシャーマンズワーフ、夕方はファイナンシャル・ディストリクトから出ているのだから、間違いないようにしなければまたとんでもない事になってしまう。

 

 フィシャーマンズワーフからティブロンに向かうフェリーも、やはり一時間に一本の割合で港を離れる。
最近ではフェリーの出航を待つ間、港に面したバーガーショップで軽い朝食を取るのが日課となった。

シックスティーズのダイナーの雰囲気をそのまま残したバーガーショップ。
観光客で毎日賑わうフィッシャーマンズワーフの中心にありながら、朝はその中途半端な時間の為か、いつ行ってもお客さんで混雑している事がない。
ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フィッシャーマンズワーフ看板, 観光, フィッシャーマンズワーフ 朝からかかる、気だるいロカビリーのダンスナンバーをBGMに、濃いコーヒーを啜り、ただぼーっと港を行き交う船を眺めて時間を過す。
何日か続けて通う内に、もう中のスタッフたちとはすっかり友達になった。

ドアを入って席に着くと、何を言う前から、ぱりっと白いシャツに蝶ネクタイを締めて、腰にはピシッと長細いエプロンを巻いたウエイターのジェフがコーヒーをテーブルに運んでくれる。

「おはよう。天気いいね。」

「うーん、でもまあ、あんまり毎日代わり映えしないね。今日は何か特別にする事でもあるの?」

何でもない平凡な会話の裏側が、居心地のよい一日の始まりで満たされる。

オープンキッチンのカウンターの中では、コックのエリアスが毎朝飽きずに玉子とベーコンを焼いている。ベーコンがカリカリに焼ける匂いが、寝ぼけ眼の胃袋にカウンターパンチを効かせてくれる。
出来上がったお皿をジェフにバトンタッチした後は、次は私のお皿を作る番。
注文のビルを確認すると、彼は私に目線を向けて戯けた様子でスペイン語で何か言った。
最近では、注文した料理に添えて、お皿の片隅にプチトマトやソーセージといった可愛い『おまけ』が付いて来るようになった。

船に乗り込む時間が近付くと、観光客の流れに乗りながら、防波堤に沿ってゲートまでゆっくり歩いて行く。列に加わり搭乗開始を待つ間、時々日本語が耳に飛び込んで来る。懐かしいサウンドに目が走り、ジッとその顔を眺めてしまう。
そこにある空気の中に日本を探す。

彼らは日本のどこから来たのだろう?そしてまた、どこに帰って行くのだろう?
私もいつかはお猿を連れて自由に日本に帰れる時が来るのだろうか‥?

胃の底がクッと小さくへこむ。

 

 夕方、またお猿をサンフランシスコに迎えに行く時間には、ティブロンのフェリー乗り場はその表情をガラリと変えている。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フェリー, ティブロン, サンフランシスコ湾,  海上交通, 船
午後の船着き場には、フェリーに乗る人たちに交じって、サンフランシスコから帰って来る家族を出迎える人たちも集まって来る。

少し早めに仕事から帰って来たパパが船を降りてくるのを見つけるや否や、やんちゃなチビたちが一斉にゲートに駆け寄って行く。

またこの子供たちというのが、まるでもう、すっぽりそのまま子供向けのファッション誌から抜け出たように可愛いらしい。

イッチョ前にストリート風に着崩たダボダボのスエットシャツからは、小鹿のように弾ける細長い手足がニョッキリ付き出している。クリクリふわふわの金色の巻き毛の下からのぞく天使のような悪戯盛りの瞳には、つい目が吸い寄せられて行く。

体をよじ登る子供たちにモミクチャにされながら、パパとママは、柔らかな午後の光の中で百年分のハグを交わす。
うーん‥、これはもうまるで、完璧な程に美しいファミリー映画のワンシーンを見ているよう。

‥しかしここで一つ、私の胸には大きな疑問がわき起こる。

こんなロマンティックな風景の中で『何を無粋な』と叱られるのを覚悟で言ってしまうと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 坂井浩子, ひろこ, hiroko sakai, hiroko, ファッション,  ボーグ, モデル, ファッションモデル, セレブ, スーパーモデル, 美しさの秘密,はたして、この非現実な程に洗練されたママたちの美しさはいったいどこから来るのだろう?
毎日、こんなにヤンチャな子供たちに『揉まれて』いるはずであるのにも関わらず、お肌はツルツル、しかもそのスラッと白くて細い腕には、まるで『一度もベビーなど抱いた事はありませんことよ。オッホッホ!』なんて余裕で微笑んでいるかのように、どこにも余分な筋肉など付いていない。

自慢じゃあないが私など、お猿を産んでからというものは、毎日米袋といい勝負をする重たいヤツを腕に持ち運び、夜中は夜中で何度もミルクに起こされて、暫くは寝るのも忘れて女を捨てきったような生活を送っていた。
おまけに小さな脳みその成長につれて、今度はそれに、なんとも独創的な悪戯が加わってくる。
そんな毎日の忍耐修行のお陰様で、今では額にもうっすらと皺が一本刻まれたような始末である。

似たような状況の中で、このブートキャンプ‥じゃくて、育児の苦労を潜り抜けて来た筈の彼女達、いったいどこに、そんな瑞々しさが沸いて来る余裕の源があったりするのだろう?

 

 とまあ、最初は七不思議だったその謎も、しばらくティブロンでの生活を送る間にその手の内が見えて来た。

ここティブロンでは頻繁に、ヒスパニックの女性たちが、何だか『どう見てもそういう遺伝は不思議だぞ』状態の明るいブロンドの子供たちを連れて歩いているのを見かける。
最初のうちは単純に、『いやにティブロンという場所は、昼間はヒスパニックの主婦が多いなあ』なんて思っていた。
『白人の女性は皆キャリア思考を持って、昼間はシティーへ働きに行ってしまうのだろう。やはりヒスパニックの女性たちの方が、キャリアよりも家族の繋がりを大切にしているものなのかしら?そんな所にも人種の差が出て面白い物だなあ。』
‥なんて、自分なりに勝手な解釈を作り上げて納得していた。

しかし、程なくそれは、全く的外れな勘違いであるということに気がついた。
実はこの子供連れのヒスパニックの女性達、何を隠そうその実体は、お金持ちのお子様のお世話をする『ナニー』だったのである。

お陰様で全ての謎は、水戸黄門の印籠の前に落着した。。
あのフェリー乗り場で見るママたちの美しさを支えていた秘密兵器は、こういったナニーたちの存在だった!

ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, カッコウ, ベビーシッター, 義母, ナニー, お人好し, 子育て, 養子, 鳥, 自然, 母親, 子守り, 疑問, 里親

日頃のワイルドなチビたちの世話はナニーやメイドたちに任せ、自身はエリート夫の社交の華を勤めるべく、アートや文化を慈しみフィットネスに励む毎日。
‥失礼しました。

まだまだ世界は自分の知らないことで満ちている。

 

 自分の顔を鏡に映してみる。
そこには、今まで私が歩いた時間のすべてが描き出されているような気がする。

あり余るお金に囲まれて、美味しい物だけを食べながら優雅に生きて行けることに憧れたりもするけれど、私は私、お猿のたった一人の母親として、毎日彼女が繰り広げていく様々な表情を、ひとつひとつ、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 手, 愛, 母性, 母親と子供の手, 幸せ, 幸福, 家族, シングルマザー, 愛情, 親子, 子育て, 母一緒にこの手に感じていける距離というのが、自分にとっての丁度いい幸せ具合だと思う。

十人十色。自分の世界は、自分が一番心地よく過ごせる色で塗って行こう。
そうして時間を広げていく限り、たとえちっぽけな世界でも、その中では決して自分を見失って迷子になったりする事はない。

毎日海を渡る。

全ての生命が海から産まれて来たように、今、私の時間もリセットされて、このティブロンの深い海からまた新しい枝葉がのびて行けばいい。

 

スポンサーサイト

いろんなブログが一度に探せるぶろぐ村ランキングはこちらです♪ 〜Enjoy

[2012/04/25 08:23] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
<<エピソード23 | ホーム | エピソード25>>
コメント:
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:
トラックバック URL
→http://hifromsanfrancisco.blog.fc2.com/tb.php/25-ddeed972
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |