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エピソード13
 七月も半分過ぎたサンフランシスコ。ここしばらくは少しづつ気温も上がって来た。


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‥とはいうものの、時々はまだ肌寒さを感じる日が続いている。
特にこの街は、寒流の流れる海のすぐ側という事もあって、場所によって気温もまちまち、どこへ行くにもジャケットは手放せない。

基本的に、サンフランシスコの街を歩く人たちの季節感というものはてんでバラバラで、そこには協調性の欠片さえも見られる事がない。タンクトップと短パンだけで道を歩いて行く人がいれば、夏なのにレザージャケットを着込み、その上にマフラーまで首に巻いてる人もいたりする。

そもそも彼らの体感温度という物からして、本当に驚く程バラバラのようだ。
白人の友人と車に同乗したりすると、こちらが凍える北極状態にいる時に、相手からは『暑いから窓を開けるよ』なんて汗だくで言われるミラクルワールド。そんな奴らは、もはや南極でペンギンとでも連れ合っていて欲しいものである。

七月と言えば、私が始めてサンフランシスコに来たのが丁度去年の今頃だった。
時間の経つのは本当にあっという間だ。

 

 今日は、久し振りにシェルターを訪れた。
そこで過ごした時間の中で、ドネーションから助けて頂いた服に加えて、自分が着なくなった服やベビー服を詰め込んだ大きな旅行バックを抱え、ミュニに乗ってそれらを返しに行って来た。

別に、ドネーションで貰った服なんて返さなくていいと言えばそうなのであるけれど、しかし、トランク一つでヘイワードから逃げ出して来た時、最初は着る物さえロクにはなくて、それをこんな風にして助けて頂いた服やベビー服は言葉に出来ない程有り難たかった。

あれから一年の時間が経って、今、こうして新しい生活を始めた自分がいる。
その時間の後ろには、今まだ実際にシェルターで暮らす一年前の『自分』がいるのだ。
そんな事を考えながら、やはり助けて頂いた服は全部返しに行く事にした。

 

 シェルターの場所はその秘密主義が完璧に守られていて、私も普段特別な用事が無い限り, 極力近付く事を遠慮している。
今日もそこに近付く程に、胸の中に複雑な思いがざわめいた。

シェルターの建物が見えて来ると、そこでは丁度、ボランティアの人たちが食料を中に運び込む作業の真っ最中だった。
手分けをして買い込んで来た食品を、車の中からバケツリレーをするようにして次々に中に運び込んでいる。

懐かしさとともに哀しみが胸に走る。
そこで過ごした過去の時間が頭にフィード・バックされて来た。

今なお暴力の犠牲になって、遠い異国の地で行く所もないまま、小さな子供の手を引いてシェルターに駆け込んで来るアジア人女性は後を断たない。
何ともやりきれない思いが過ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, シェルター, 家庭内暴力, 手, 母親と子供の手, ドメスティックバイオレンス, 愛情 る。

『日本人の女性が来週逃げて来るから、またこれから忙しくなるのよ。』
先日の弁護士とのミーティングで、通訳のヨーコさんの口からため息が漏れた。
大きなトランク一つに、まだちっぽけだったお猿の入ったカーシートだけを抱え、ただ必死でヘイワードから逃げ出して来た自分の姿がそれにダブる。

遠い外国の街でたったひとり、右も左も分からなかったサンフランシスコ。死んでしまいそうな心細さに押し潰されそうになりながら、シェルターのスタッフのピックアップを待ってジャパンタウンの冷たい階段に腰かけていたあの時の自分。

シェルターに入って初めての夜、見知らぬベッドにお猿を寝かせつけた後、トイレに隠れて思いっきり泣いた。悲しいのか、安心したのか、惨めなのか、やっと自分に戻れたのにホッとしたのか‥、全くこれから自分がどこへ向かうのかも見えない恐怖。ただ、その時に感じた、体が崩れ落ちて行くような不安を今でもはっきり覚えている。

 

 今、私はここにいる。
不安も恐怖も、あの時勇気を出して足を外に踏み出した瞬間が、こうして今、私が私でいられる新たな時間のスタートだった。

こんな風に笑ってコンピューターに向かえるのも、温かい部屋でビールを飲んでいられるのも、このとんでもなく遠い異国の地で私が出会えた小さな力の集まりのおかげだと言う事を忘れずにいよう
私もこれから有形なり無形なり、今までお世話になった事学んだ事を少しでもお返しして行きたい。非力ながらも、一年前の私と同じ状況にいる人たちの助けになっていけたら‥、そう思う。

 

 とにかく、トランク一で新たなスタートを切ったこの人生。前を向いて頑張るしかない!

明日はまた新しい一日が始まる。

 


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[2012/04/01 11:24] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード14
 今度の週末は、なんとクリスのコンドにお泊まりをして、日曜日までずっと二人で一緒に過ごす事になった。


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 土曜日の夕方、以前バーベキューで訪れたプレシディオの敷地内にあるボーリング場で、今度は彼の友人がバースデーパーティーを開くという。
「日曜日は久し振りにゆっくり休みがとれそうなんだ。ボーリングの後よかったら、そのまま家に来ない?前からずっと、僕が住んでるティブロンを君に見せたいと思ってたんだ。マリーンは初めてだろう?」
今まで時間を縫うようにしてしか会えなかったクリスと過ごす初めての長い長ーい時間。照れくさいのか嬉しいのか‥、何だか心がムズムズする。

 

 そんな素敵な週末の予定にワクワクしながら、土曜日の夕方は、少し遅れて、クリスと二人ボーリング場のドアを開けた。

入り口のホールに入るなり、そこにいたロシア人の若い女性が突然クリスに飛びついて来た。 柔らかなブルネットの巻き毛がパンチの効いたメリハリ豊かなボディーにかかり、何とも艶かしい雰囲気を匂わせた女性である。
『これは強力なライバル出現か‥?!』っと焦った次の瞬間、

「ハイ、ディアナ。ボーイフレンドのパーティーのホステスご苦労さん。
オフェールはどこ?」

固まる私の背中に腕を回しながら、クリスが彼女に挨拶した。

それから、むっと花の香りでむせ返る温室を思わせる強い香水の臭いとノンストップのロシア語訛りの英語に導かれながらレーンの所までやって来ると、そこはもう、あの『アメリカン・グラフィティー』の世界だった。

ビール、ピザ、フライド・諸々に囲まれて、濃いめの化粧の彼女たちを侍らせたでっかいガタイの男たちが、子供のように馬鹿騒ぎを繰り広げている。
普段、仕事場では颯爽とエリート然したドクター達が、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ボーリング, ボーリングレーン, スポーツ, プレシディオ, レジャー, 週末そこでボーリングのボールを握った途端、突然ハイスクールのティーン・エイジャーにでも変身してしまったかのように『ウオー!』だとか『ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!』だとか、自分の投げたボールに向かって奇声をあげながら、ピンが倒れたの倒れないのとスコアに対してマジに熱くなっている。
‥いつもながら、このアメリカ人の仕事と遊びの『劇的な』顔の切り替えには感心させられる空間だ。

日頃は穏やかなクリスも、今日は何故かボールを握るとエキサイト。一つ一つのボールの流れに一喜一憂の表情を見せながら、私の事などはそっちのけで隣のブラッドと張り合っていた。

ボーリングなど、子供の頃に二、三度やった事があるだけの私にとっては、何がそんなに彼らを熱くさせるのか?全く不可解な光景だ。
隣を見ると、やはりご主人のアダムをボーリングに取られた新婚さんのメイが『借りてきた猫』状態で苦笑していた。
ちょっとおいてけぼりを喰った私達。ヒートアップする周りの空気からはほんの少し隔絶された空間で、クスクス笑いを繰り返しながら、この狂った熱血漢ウワッチングを楽しんだ。

ボーリングがお開きに近付くと、時計の針はもう十時を廻っていた。そんな時間などはお構いなしに、皆はまだ熱気覚めやらぬ様子でレーンにタムロし騒いでいる。私の事を気遣ってくれたのだろうか、ゲームが終わると、クリスはさっさと皆に別れを告げて私達はその場を後にした。

 

 ドアを一歩出ると、外はもうすっかり秋の夜の静寂に包まれていた。
ポーチを下りて、闇の中に吸い込まれて行くような小道を歩き出す。
クリスがすっと私の手を取った。

サクサクサク‥。湿った芝生を踏みながら、冷んやりとした空気の中を二人並んで歩いて行く。まだ熱をもって火照っている、柔らかく繋がれた大きな手に時々キュッと力が入る。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 星, 夜空, 満天の星その度に、つい顔を上げて言葉を待ってみたりするのだけど、クリスはニッと微笑むだけで特別なにも口にしない。

そんなことを繰り返しながら歩いて行く内に、どちらからともなくクスクス笑いが漏れて来た。

重なった手のひらから、二人の宇宙が自由にお互いの体の中を行ったり来りし始める。
力を入れたり緩めたり。ほんわり幸せな気分に包まれながら、シンと静まりかえった薄暗い小道をクリスと並んでゆっくり歩き続けた。

 駐車場まで来ると、夕方そこにあった沢山の車の影は、もうほとんど消えてなくなっていた。がらんとした真っ暗な空間に、クリスの車だけがぽつんと残っている。
周りの様子もよく見えない暗いグラウンドの中を、ざくざく砂利を踏みながら車に近付いて行く。 助手席の前まで来たところで、クリスがさっとドアを開けてくれた。

室内灯の明りがポッと灯る。
優しく目に飛び込んで来た光の温度に、何だか心がほっとした。

車に乗り込むと、クリスはバックミラーを覗き込み、小さな室内灯の下で汗に濡れてくちゃくちゃになった前髪を整えた。そして私の顔を見てバツが悪そうにニヤッと笑うと、次の瞬間、その悪戯な瞳にふっと甘い影がさした。
大きな体がシートから乗り出し、唇に柔らかい息がかかる。

「フフフ‥。」

ちょっとだけ照れて微笑んだ後は、またシートベルトを締め直し、クリスはティブロンに向けて車のエンジンをスタートさせた。

 

 ゴールデンゲート・ブリッジを越えてマリーンに渡るのは、これが初めてだった

以前から、マリーンでは、美しい海と自然がゆったりと溶け合い、サンフランシスコの街とはまた違う時間が流れる場所だと聞いていた。

その話は本当だった。

ブリッジを渡り、車がマリーン・ディストリクトのフリーウエイに入って行くと、そこからはもう窓の外に散らばった光の粒で一杯になった。
ミッドナイト・ブルーに沈む空のカンバス一面に、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 夜景, サルサリート夜景, サンフランシスコ湾夜景今にも落ちて来そうな満天の星が幾万と光を放っている。
その足元では、星たちの光で編まれたタペストリーに優しく抱き包まれるようにして、夜のサンフランシスコ湾の風景が広がっている。

対岸線を縁どって、暗い海面の上に色とりどりの長い光の尻尾を落とす幻想的な光の粒たちを眺めながら、車はスピードを上げて走り抜けて行く。

クリスが毎日見る風景。 また一つ彼の視線に近付けた。

 

 ティブロンの出口を下りてそこから丘を少し登った所に、クリスのコンドはあった。
小高い丘から遥か遠くの対岸に見渡せる光の宝石箱を一望にしながら、車はゆっくり駐車場に入って行った。

「ようこそ、僕の小さな世界へ」
エンジンの音が止まると同時に、クリスが戯けて言った。
少し弾んだその声に、幻想の世界の中に見失いかけていた時間がまた動き出す。

クリスは、まだ半分夢の世界の中で漂っている私の頬にチョンと軽くキスをすると、さっさと口笛を吹きながらトランクの荷物の取り出しにかかった。
産まれた時からここで暮す彼にしてみれば、こんな現実の生活の中にあるのには美しすぎるティブロンの風景も、別段取り立ててどうこう言った物でもないのだろう。
彼のそんな人生の時間に、少しの羨ましさを感じた。

トランクの中から、使い込んだ革の鞄と私の小さなお泊まり用のボストンバックを取り出すと、クリスはそれを両手に持って、まだ幻想の余韻から抜け出せずにいる私を促すように外から助手席のドアを開けてくれた。
彼の後ろについて、玄関に続くデッキをコトコト渡って行く。
そうしていよいよ入り口のドアの前に立った時、鍵を開けるクリスの顔にほんの少しの緊張が走った。

そう言えばここ最近、クリスとの会話の中には『やれ漂泊がどうの』とか『掃除機の調子がどうだ』とか、そんな家庭的な話題がちょくちょく顔を出していた。
今日初めて私に部屋をご披露してくれるにあたり、ここ暫くは、毎晩遅い仕事を終えて帰宅した後、一人で部屋の掃除に精を出していた様子だった。

思わず顔に微笑みが走る。

「さあ、どうぞ。」

次の瞬間、ゆっくり目の前のドアが開いた。

 

 青白い月の光に照らされて、ドアの中には、まるで山小屋の中に迷い込んでしまったようなリビングルームが静かに横たわっていた。

ごつごつとした太い木の梁が通る高い三角天井。アンティーク煉瓦の暖炉。
正面の壁一面の大きな吐き出し窓からは、そこから張り出すデッキの向こうに、まるで一枚の巨大な飾り絵をみるようにサンフランシスコ湾の夜景がキラキラ瞬いているのが見渡せる。

丘の途中に引っ掛かるようにして建っているこの建物では、寝室は全部下の階に設けられているようだ。リビングルームの端からは、階下に下りて行く木の階段が続いている。

ゆっくりと促されるまま暖炉の前の大きなソファに腰を下ろすと、クリスはマントルピースの上からランプを一つ手に取って火を灯した。

「ライトの光はあまり好きじゃないんだ‥。お腹、空いてない?」

青白い光に染まった部屋に、優しいオレンジ色の光が揺れ始める。

「大丈夫。ボーリングの間にたくさんつまんだし。」

私の言葉にクリスはにっこり微笑んで、手に持ったランプを暖炉の上に戻した。そしてキッチンに入ると、そこからチーズの乗った小さな木のトレーとワインを持って出て来た。

「これで一息入れよう。」

1995年のマルゴー。彼はなかなかいい趣味をしている。

チューリップの蕾のようにぷっくり膨んだ薄いワイングラスの中に、濃いガーネット色をした美しい液体が注がれる。それと同時に、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ワイン, チーズ若い木の樽をバラの花びらで満たしたようなうっとりする香りがグラスの口からホワンと漏れた。

「乾杯!」

ロマンティックな乾杯の後は、心地よいソファにすっぽり体を預け、『キング・ラルフ』のビデオを見ながら二人で子供のように笑い転げた。

ランプの灯が動く度に、高い天井がゆらゆら揺れる。
暖かいオレンジ色の灯の中で様々な色に変わるグラスを、何度も二人で乾杯した。

髪に絡み付くしなやかな指の動きを感じながら、ワインに痺れる幸せな頭を厚い胸にくっ付ける。
トク・トク・トク‥。遥か遠くの湾の向こうに、ちらばる街の光が見える。
大きな体に包まれながら,暖かく深い海の底を漂っていく。

 

 日曜日の朝は、ゆっくり朝寝坊をして、遅いブランチをヨットハーバーのカフェでとった。

ブランチから帰って来ると、ドアの前に一人の背の高い男が立っていた。
駐車場に入る車の中から彼の姿をのぞき見る。
顔がクリスにそっくりで、向こうも助手席の窓から顔をのブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, イケメンぞかせる私の様子を興味深げな表情で伺っている。

「ハイ、ジェス」

そうやってお互いを伺う私達を横目で見ながら、先に車を降りたクリスはその男に声をかけた。そしてそのまま助手席のドアまで歩いて来ると、私の肩に腕を回して、

「これ、弟のジェス。後一人ボビーっていうのが中にいるんだけど、彼が一番下になるんだ。」

と紹介してくれた。

その言葉が終わるのを待たずに、満面の笑顔を顔に浮かべたジェスが握手の手を伸ばして来た。

「君の事は随分前からクリスから聞いてたんだ。やっと本人に会う事が出来て嬉しいよ。よろしくね。」

柔らかい握手を交しながらその穏やかに澄んだブルーの瞳と目があうと、ほんの少し緊張で手が震えた。 モデルと役者をやっているというこのジェス。これまた透き通るように『綺麗な人』。全く神様というのはどうしていつもこう不公平なのだろう‥。

「今日はさ、久し振りに撮影オフとれたんで、天気もいいし釣りにでも行こうと思って誘いに来たんだ。ウエストマリンまでちょっと足延ばさない?」

何だか初めて会う私の緊張などお構いなしの、このあっけらかんとした気さくな態度‥。そんな所『業界』の見え隠れするジェス君だった。

そういったわけで、それからの昼下がりは三人で、ウエストマリンの湖まで鱒釣りに出かける事になった。
話が決まると、早速皆は、ジェスのバンに乗り込み出発した。

 

 湖までは、半時間程のドライブだった。途中通り抜けて行くフェアファックスの街は、季節違いの桜に似た小さな白い花で一杯に埋まっていブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 森の家, フェアファックス, マリーンた。

木立の間からはカラフルなペンキで塗られたキュートな家たちが恥ずかしそうに顔をのぞかせている。 そんな小さなダウンタウンの風景を楽しんだあと、車は湖へと続く深い森の街道へ入って行った。

湖に着く頃には、初対面のジェスともお互いすっかり打ち解けて、もう昔から知っている友人のようにくつろいだ気分で話をしていた。
『ジャパニーズって、寿司とうどんの他に何か食べてるの?』
車を降りてからは、ジェスがとばす冗談とも本気とも分らない冗談に皆で笑い転げながら、湖の畔を釣りのポイント目指して歩いて行った。

澄みきった空気の中、見渡す限り、真っ青な空と輝く緑が続いていく。
そんな雄大な景色の中を、見上げる程に長身でブロンドの『美しい』兄弟にエスコートされる気分。
‥それは案外『最高!』だとか『幸せ!』だとかそういったロマンティックな物ではなくて、

『ああここに今、到底場違いなこの自分の姿を映し出してくれる鏡という物が存在しなくて本当によかった。』

なんて間抜けな事を心から感謝してしまったりする、意外に冷静で謙虚な物だった。

 

 暫く湖畔を歩いた後は、途中から優しい木漏れ日が漏れる木立の中に進路を変えて、そこから更に水辺に沿って少し行くと、ジェスのいう『秘密のポイント』にたどり着いた。

皆で腰を落ち着けた後、今日釣り糸を垂れたのは結局ジェス一人だけだった。
クリスと私は、その鯨さえも釣らんばかりに張り切る彼を茶化しながら、波打ち際の木陰に座って時間を過ごブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 森の中の湖, 湖畔, 湖, 木立, ロマンティックな風景した。

着かず離れず優しい瞳で色んなジョークを並べながら、さっぱり当りの無いフィッシングを楽むジェスに、時々クリスがアドバイスを投げ掛ける。
すぐ森が迫る柔らかな湖畔の陽射しの中で、二人が顔を寄せ合うように釣り針のチェックを始めた時には、思わずその透き通るような姿に、昔見た映画、『リバー・ランズ・スルー・イット』の美しい風景が重なった。

 

 この日の釣果はゼロだった。

日が暮れかかる頃、皆で空っぽのバケツを持って、楽しく過ごした時間を惜しみながら湖を後にした。
今日一日、美しい湖畔の風景の中にすっぽり抱かれて過ごした時間は、何よりも贅沢で、心に沢山の栄養を貰った気がした。

今までばたばたやって来た小さな自分に、束ぬ間のお休みを貰えた盛り沢山の週末。

明日からまた,頑張るぞ!

 


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[2012/04/02 12:35] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード15
 今日はまたベビーの親権を巡るコートで、遥々ヘイワードまでかり出された。
この裁判もシェルターにいる頃からのらりくらりと‥、考えてみれば、もう一年近くも時間は経ってしまっている。
『ほんとにもういい加減にしてくれないかなあ‥。』
といった所が正直な気持ちだったりする。


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ところで何故こんなにコートが長引いてしまっているのかと言うと、それもまたフレッドが、しょっちゅう何かにつけて『事』をコートに持ち出してしまうからなのだ。
結局シンプルにすむ話が、何故だか彼を通過する毎に、どんどんややこしい方向に枝葉がのびていく。

最近では、もうこの彼の執拗さにもアメリカ人のコート好きにもかなりうんざりといった所である。

まあ、途方もなくてんでバラバラの価値観をもった人々が、自己主張をぶつけ合いながら一つの社会を作っているこのアメリカでは、何か問題が起る度、こういったコートの判事のような、第三者的で絶対的な立場を持った人間が中に入って結論を出して行かなければいつまでたっても陣取りゲームの繰り返しとなってしまうのだろう。
もちろん各言う私も、こんな風にまだまだコートで侃々諤々やっているうちは、偉そうなことを言える立場ではない。

 

 さて、今回の協議のテーマは、『ベビーの週末ビジテーション・スケジュールの変更と調整』だった。

しかしまたフレッドも止めておけばいいのに、一旦ヒアリングが始まると、それにこじつけしつこく親権の変更を持ち出して来た。そしてまた飽きもせずに、私がアル中だとかドラッグ中毒だとか『どこからそんな話が出てくるの?』状態の阿呆な話をべらべら判事の前に並べ立て始めた。

今回後ろの公聴席では、すっと背の高い中国人の女性が静かにコートの様子を見守っていた。どうやらそれは、最近できたフレッドの新しいガールフレンドのようだ。
そんな彼女にアピールするかのように、スーツを着込み、弁護士よろしく大袈裟な身ぶりで得意の『お殿様理論』を繰り広げる彼の姿。言っては悪いが、それはまるでどう見ても、二流役者の下手な一人芝居を無理矢理に見せられているような感じだった。

結局、そんな阿呆らしい程にドラマティックな弁論ごっこも、『だから、それがビジテーションのスケジュールを決めるのに、いったいどんな関係があるの?』と、最後には少々苛つき気味の判事の一言で幕を下ろされた。またまた結果は『ママさんチーム』の勝ちである。
おまけに今度は、その馬鹿馬鹿しい一人芝居がかえって判事の反感を招いたようで、その後は、殆どこちらの弁護士が話す必要もなく判決はあっさりと出てしまった。

ヘイワードコートでは、最初から同じ判事が、通しで私達のケースを担当している。
今まで何度か繰り返されて来たコートを通して、もうこの判事でさえも、何やらこのフレッドの自己中心的なはちゃ滅茶加減にはいい加減呆れ気味の様子なのだ。

 

 頭痛を引き起こす程に馬鹿馬鹿しかったコートを終えてサンフランシスコへ戻るバートに乗り込むと、一瞬ぽんと気が抜けた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, バート

窓の外に流れていく景色が、ごちゃごちゃとした田舎の風景から、少しずつ整理された街の風景に変わって行く。
車内に乗り込んでくる乗客の姿も少しづつ洗練されて行く。

空気の変化を感じながら、サンフランシスコに帰って行く自分にほっとした。

『もうあんなヘイワードなんかで、ビクビクしながら暮す自分はここにいない。』

今にも摘み取られそうな頼り無い存在の危うさは、全て過去に置いて来た。

 

 フレッドの、童顔で笑うと子供のようになる笑顔‥‥。
ヘイワードの生活にも、まだ最初の頃には沢山の優しい思い出がある。

当初は日本で始める約束だった結婚生活。結局フレッドの都合で私がアメリカに来なければいけなくなった時でも、そんな彼の屈託の無い笑顔に、これから二人で作って行く未来に何の疑問も持つ事は無かった。

それから少しの時間が過ぎて、いったい何がいけなかったのだろう‥?

段々お互いの存在に慣れるにつれて、その柔らかだった笑顔が、どんどん太々しい怒り顔に変わって行くのにそんなに時間はかからなかったような気がする。フレッドの私に対する扱いはまるでメイド以下となり、'bitch!' 'stupid!'‥三ヶ月もすると、私が何か機嫌を損ねる度に彼の口から汚い罵りの言葉が飛んで来るようになった。

仕事や外で嫌な事があると、帰って来るなり、暗くて狭いリビングのソファにドカッと座りあれこれ嫌味を並べ立て始める。そうして一通り気が済んだ後は、私が用意した食事をテーブルごと床にぶちまけて、そのままベッドルームに籠って何時間もコンピューターゲームに熱中し出す始末。そんな時私が何か声をかけようものなら、また、'shut up!' 'you don't know anything!' 'fuck!' など、途端にヒステリックに叫び出して全く手がつけられなくなってしまう。

しかしそんなフレッドも、一通り感情の爆発が済んでしまうと、次の日には花などを買って帰って来ることがよくあった。捨てられた子犬のように怯えた顔で私の機嫌を取って来る優しいグリーンの瞳を思い出す。

結局、彼も可哀相な男なのだと思う。
自分の中にある感情があまりにも大き過ぎる為に、自分でもコントロールを持て余している。

こんな風に話すとアメリカ人の友人からは、『だからあんたは甘いのよ』なんて呆れ顔で言われた。しかし、私は誰でも根本的な心の底では人を傷つける事に喜びを見い出す人間はいないと信じている。

フレッドの場合も、私に対する彼の思いが、まるで小さな子供が母親にべったりと愛情をせびり取るような形で現れてしまったのだろう。自分の求める物が得られなかった時には、地面に転がり手足をばたつかせて泣き叫ぶ子供のように、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 絶望, 家庭内暴力, ドメスティックバイオレンスそれが大人の彼にこんがらがった形で現れてしまった。
彼自身、自分のそんな理不尽な感情をコントロール出来たらと願っていたのではないかと思う。

そんな思いの中で、出来るなら二人の生活を守って行きたかった。
時間が彼の中にある不安定なものを落ち着かせて行ってくれるのだとしたら、もう少し、ジッと我慢して待ってみようと思っていた。もう既に、私達の間には産れたばかりのベビーがいた。これは何にも代えがたい、二人で生活を作って行く『意味』だった。

しかし、そんな願いも、それから殆ど時間が経つ事も無く、結局自分が幸せな偽善者でしかない事実を思い知らされる事となった。

フレッドの、そんないい時と悪い時の繰り返しの差がどんどんひどくなる一方で、私の忍耐の糸もどんどん擦り切れて細くなり、そしてとうとうある日の夕方、『ベビーの服の着せ方が悪い』と、私の首根っこを引っ付かみ体を宙に釣り上げる彼に向かって、

「もうこのままでは、あなたとは一緒にいられない‥。」

小さな声が口から漏れた。

結果それが、私達の最終幕の幕開だった。

 

 私が彼から離れようとしていると感じるや否や、フレッドは、その頃まだ産まれ立てのほやほやだったお猿の親権を意識したのか、あらゆる狂った事をやり始めた。

彼は以前、私の前に一度結婚していた事がある。その前ワイフとの間にも一人男の子がいるのだけれど、前回の離婚の時にはその子の親権を、彼はいっさい取ることが出来なかったという。

そんな事があって、今回彼としてはどうしてもこのベビーの親権が欲しかったようだ。

今まで度重なるコートを通して感じた事は、カリフォルニアで離婚をすると、母親によほどの問題が無い限り、父親がどんなにコートで争おうとも、子供と一緒に暮らして行くフィジカルな親権は母親に行くように出来ている。そして父親には,週末などを子供と一緒に過ごすビジテーションの権利が与えられる。
考えてみれば悲しい話だ。

しかし、そうは言っても彼の場合やり過ぎなのだ。

私が離婚を言い出した途端フレッドは、コートに持ち込む時の『資料つくり』をするように、その『よほどの母親の落ち度』という物をでっち上げ始めた。
お陰様でそれからの私の生活は、もう未だかつて体験した事が無い程スリルとサスペンスに満ち溢れた時間の連続となった。

 

 ある晩遅く、いつものように、私は一人静かにベッドでベビーにミルクを飲ませていた。そこに突然乱暴にドアがノックされたかと思うと、ドカドカと二人のごつい警察官達が無遠慮に踏み込んで来た。あまりの出来事にすっかり怯え切る私に向かって、厳めしい顔をした彼等から矢継ぎ早に早口の英語の質問が飛んで来る。不躾な彼らの話をよく聞いてみると、何とその時の私には、ベビーを殺そうとしているなどというとんでも無く馬鹿げた容疑が掛けられていたらしかった。

その時は何とか、拙い英語を駆使しながら必死で受け答えをしたものの、暫くすると、今度は子供の虐待を取り締まる機関のCPSからケースワーカーが呼ばれ、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, マリオネット, パペット, 家庭内暴力, ドメスティックバイオレンス, シェルター『調査が終了するまでは、ベビーと二人っきりにするのは危険だ』などとして、危うく私の生活の全てがフレッドの家族の監視下に置かれそうになったりもした。

今でこそこんな話も馬鹿々しいと笑い飛ばせてしまえるが、その時の私といえば、まだ英語もよくは聞き取れず、実際自分の身に何が起っているのかさえもはっきり分かってはいなかった。
あのままでいたら、結局最後にはフレッドに、今頃はもう気違い女としてどこかの精神病院にでも隔離されてベビーにも会わせてもらえない状況にいただろうというのも、必ずしも大袈裟な冗談ではない。

幸いにして、そのCPSから行くように強要されたカウンセラーが日本人だった。そして彼女は、こういった見境のない白人のアジア女性に対する虐待問題に慣れていた。
フレッドにしては皮肉な事に、結局これがキュー出しとなって、私は最悪のフィナーレから救い上げられることが出来たのだ。

 

 カウンセリングの一通りのセッションを終えると、彼女はフレッドの『メンタルアビューズ』を指摘して、シェルターの番号を手渡しながら私に直ちにそちらへ逃げる準備をするようにと言った。私にとってはそれが初めて『シェルター』という物の存在を知る切っ掛けだった。
この虐待の問題についても、それまで身体的な虐待がある事は知っていたが、しかし『メンタルアビューズ』などといった精神的な虐待があるなんて事は考えても見なかった。フレッドとの生活の中で、何かがおかしいとは思っていた。しかし、それが何であるのかなんて、自分では全く見当もつかなかった。

その後しばらく、カウンセラーからもらった番号のメモは鞄の中にしまい、どうしたものかと迷う日々が続いた。フレッドも一旦爆発はしてしまったものの、またここ暫くは、思い直したように自分がやった事に対して平謝りで謝って来ている時でもあった。
それに正直なところ、実際友人なんて一人もいない異国の地に、まだ産まれて四ヶ月にも満たないベビーを連れて、一人ぼっち飛び出していくのはとても恐かった。

しかしそんな小康状態も、その後長くは続かなかった。

暫くは人が変わったように優しかった彼も『喉元過ぎれば熱さも忘れる』。また段々と日が経つにつれてそのお天気加減にも雲がさして来た。

そしてそれからそう間を置く事も無く、とうとう最後に私の背を押してくれるその『事件』は起きてしまった。

 

 最後の日曜日、その日はもう、朝からフレッドのご機嫌には嵐が吹き荒れていた。
一日中私の事を汚い言葉で呼び続け憂さを晴らしているような時間が過ぎていた。

しかし、そんな彼も夕方になると少し気分が回復した様子で、ベビーをお風呂に入れるので『直ちに』風呂を用意するようになどと言い出した。彼の言葉に従って私がバスタブに湯を張ると、彼はただそれにゆっくり浸かってベビーの用意が出来るのを待っていた。

キューが出たのはその直後。

ベビーの入浴の用意が整いバスタブの中の彼に手渡そうとしたその瞬間、急に彼女がぐぜり出してフレッドに手渡すのが少しもたついてしまった。それが彼の『お気』にとても触ってしまったらしい。またネチネチと忌ま忌ましい様子で'jesus christ'だとか'disgusting'だとか、私の事を罵り始めた。

ここまでくれば、もうこんな男はノー・サンクスだ。
私の中で、何かが『ブチッ』と音を立て切れた。

'stop talking like that'

(そんなふうに言うのは止めてくれる?)

引き攣る顔を押さえながら、出来るだけ冗談めかした調子で、私は彼の裸の肩を軽くはたいた。

その途端!

フレッドは、火のついた猛獣のように物凄い勢いで怒り出した。
そのあまりの剣幕ぶりに、その瞬間、私は彼が狂ってしまったのではないかと思った。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 手, 人差し指, 忠告, 家庭内暴力, 命令, ドメスティックバイオレンス

素っ裸の状態で、突然『ウオーッ』と湯舟から立ち上がったかと思うと、そのままタオルも纏わずに電話に向かって突進して行く。

'we are over!'
'you lose everything with this!'

物凄い形相で私の顔を指差しながら罵倒の言葉を並べたて、そして電話の所まで行くと、これまた素っ裸のまま、'i will call police'なんて、もう受話器を取り上げボタンを押し始めているではないか‥。

その時の私といったら、もういったい全体何が起っているのかさっぱり分らず、すっかり怯えて、ただただ彼に警察を呼ばないでくれと泣いて縋るのが精一杯だった。

結局、シェルターにはその次の日に電話をした。

 

 逃げ出して来て暫くは、突然異国の地で一人ぼっちになった心細さに潰れてしまいそうだった。これからの生活を考えると、果たして私の選択は正しかったのか間違っていたのか‥。
一緒に連れて来たベビーは腕の中で無邪気に笑っている。
大きな責任に、ただもう踞って泣き出したい心境だった。

しかし、いざ足を一歩前に踏み出したならば、もう戻る場所は残されてはいない。
その後は否応無しにまた次の一歩、そしてまた一歩と,足を前に踏み出し続けるしかないのだ。。

そうして自分の背を押しながら、毎日新しくぶつかる課題たちに必死で取り組んで行くうちに、今やっと、あの時決心しておいてよかったと思える場所までたどり着いた。

もちろんこれは私独りで歩いて来た道ではない。

こんなドタバタ喜劇の閉幕に、私は『知識』と『人のコネクション』が、イザという時、どれだけ自分を守ってくれる厚い鎧を作るのかという事を身に滲みて学んだ。
『求めよ。されば与えられん』これがアメリカという国だ。
手を伸ばせばそこで、必ず何かを掴む事が出来る。 反対に言えば、求めなければ、自分が動かなければ、ここでは何も変わらない。

今、ここに来るまでに、シェルターの他にもサンフランシスコの『のびる会』、ロスアンジェルスの『アジアンヘルプライン』の情報網、他、色んな機関に助けてもらった。
彼らのコネクションに出会う事が出来ずに、もしもあのままフレッドの所に留まり続けていたらと思うと、‥ちょっと考えたくはない。

 

 今でもフレッドとは、こうしてコートだのビジテーションだのと頻繁に顔を会わす状況は続いている。でも、今はちゃんと自分の『位置』がわかる。

まだヘイワードの生活にいた頃の自分といえば、言葉もろくに理解できず、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ピューマ, 檻, 猛獣, 監視, 自由, 野生, 独立心, 動物園, ヒョウそして外を出歩くのにも躊躇ってしまう荒んだ環境の中で、最終的に頼りにするのがフレッドしかいなかった。

変な例えではあるけれど、そこでは、街の動物園に隔離されたアフリカサバンナの動物たちの気持ちが分かるような気がした。

どんなに彼らが強くて独立心の旺盛な生き物であっても、生活範囲とシステムの全く違う『この社会』に連れて来られてしまっては、その鋭い牙もこの社会を支配する人間達に管理され、鎖に繋がれたまま檻の中で大人しくしている他彼等に生き延びて行く術はないのだ。

幸いにして、私はそこから逃れるチャンスを掴むことが出来た。
新しく出会った沢山の人たちが、私が差し出した手を、皆で柔らかく引き上げてくれた。

自分の話をきちんと聞いてもらえる、自分の言葉を真剣に受け止めてもらえる。たったそれだけの事なのに、いつの間にか心の奥で凍り付いていた物は溶け出して、それまで忘れていた、自由の中にある自分の存在への自信を取り戻す勇気がわいて来た。
今ならもう、以前のあの『怪物』も、ただの弱い者イジメしか出来ない臆病者だという事がよく見える。

『時間』というのは天才的な物語のコンポーザーなのだと思う。

一年前、ヘイワードを逃げ出してサンフランシスコに向かった時、私の手の中にはたった一つのスーツケースと四ヶ月になるベビー、そして不安と絶望だけがあった。
それからひとときの時間を潜りぬけて、今、私はここにいる。

まだまだ見知らぬ街での珍生活、毎日バラエティーにとんだ問題の中で時には迷子になったりもするけれど、それでもここでは『私は私』でいる事が出来る。

 

 いつの間にか、バートはサンフランシスコのパウエル駅に到着した。
スーッと目の前でドアが開く。

ホームに降りてふと周りを見回した。
『自分の街の風景』に心がほっと安心する。
もうあの頃の悪夢はここでは繰り返される事はない。

 


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[2012/04/03 04:48] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード16
 仕事に憑かれて、ここ暫くは連絡も途切れがちだったクリスから、嬉しいEメールを受け取った。久し振りに次の日曜日、ゆっくり休みがとれると言う。その週末を土曜日の夜から、またティブロンで一緒に過ごさないかというお誘いだった。

もちろん即OKだ!


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 土曜日の夕方は、遠足を待つ子供のようにわくわくしながら、彼が仕事を終えて来てくれるピックアップを待った。
もう外でのディナーには遅い時間だったので、お迎えが来るのを待つ間、ティブロンに着いて一緒に摘める物をチョンチョンと料理して弁当箱に詰めた。
そしてそれを、パリッとアイロンをかけた一番お気に入りのナプキンに包み終えた時、同時にインターフォンのベルが鳴った。

バスルームに駆け込んで、大きな鏡で全身の姿をチェックする。

『うん、なかなかいい感じ!』

自分に気合いを入れるように呟くと、急いでお泊まり用のバックをひっ掴んでエレベーターを降りていった。

 

 ドアが開くと、エントランスのすぐ外に、クリスが車を降りて待っていてくれるのが見えた。
久し振りに見る彼の姿は‥、何だかまたボロ雑巾のように疲れ果てて見える。
しかし、その大きな眼鏡の奥では、相変わらず悪戯な深いブルーの瞳が笑っている。

「オゲンキデシタ?」

「ハイ。アナタハイカガオスゴシデシタカ?」

重いドアを開けるなり、照れ隠しの言い訳をするように、二人戯けて大袈裟なハグとキスを交した。
久し振りのハグが、時間の空白を埋めて行く。

「ずっと、君のこと考えてた。」

「会いたかった!」

そう言って身体を離して姿勢を正すと、今度はクリスは少し背を屈め、ゆっくりキスをしてくれた。

 

 車がまた、ゴールデンゲート・ブリッジを越えて行く。

窓の外の街頭の灯が、ハンドルを握る大きな手を一瞬一瞬浮き出させては、後ろに飛んで消えていく。普段ならとってもロマンティックなティブロンまでのドライブ。しかし今夜は、テープから流れる甘く切ない歌声も、クリスの耳には全く届いてないようだった。

さっきから彼は、まるで十年も会ってなかったように、空白の時間にあった心の葛藤物語を、また本気とも冗談とも取れない口振りで話し続けている。小さな男の子が母親の愛情を確認するように私に向けられるクリスの瞳。温かい物が胸に走る。

フリーウエイを降りて丘をのぼって行く途中、スーパーに立ち寄って、ワインと朝食の材料を手に入れた。
夜も遅く人も疎らな店内を、二ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, マーケット, 果物, 外国スーパー, グルメ, ティブロン, リンゴ人並んで思い付くまま、野菜や玉子、ベーコンなどをカートの中にポンポン放り込んで行く。何だかもう、一緒に暮らす二人のオママゴトのようだ。

買い物を済ませてレジに行くと、イヤにテンションの高いヒスパニックのお兄ちゃんが、レジをうちながら私達の顔を交互に見てウインクした。ポーカーフェイスの下に隠している、心がスキップするような思いをのぞき見られたような気がして、思わず一瞬顔を伏せた。

スーパーを出て大通りに戻ると、そこからはまた丘をのぼり、遠くに見えるダウンダウンの宝石箱を見渡しながら車は駐車場へと入って行った。

 

 エンジンの音が止まると同時に、クリスの家の玄関のドアが開き、金曜日から泊まっているという二番目の弟のボビーが顔を出した。
ガタガタとデッキを渡ってこちらの方へやってきながら、先に車を降りたクリスと二、三言葉を交わした後、私の方に向けて軽く挨拶の手をあげて『ハイ』とぎこちなく笑った。

ロサンゼルスで法定弁護士をやっているというこのボビー、前に会った末のジェスの甘くてほんわかしたムードとは対照的に、何だか厳めしい顔つきをして、ちょっと攻撃的な印象さえ受ける男だ。
クリスのこの三兄弟、顔は皆よく似ているのに、このボビーだけは、目と髪の色が濃い茶色だ。身長も私と同じ位で、アメリカ人にしてはおチビさん。
一見見る性格も、身のこなしの優雅な二人に比べて、このボビーには、せっかちさんが服を着て、どことなく『刑事コロンボ』を思わせるような不器用さが漂っている。

こんな『突然変異』も、遺伝子のご愛嬌といった所なのかしら?
そんなことを考えながら、ボビーと軽い握手を交す。
大きな手のひらからは思いがけず、クリスと同じ暖かさが私の手に伝わって来た。

 

 その夜は、ボビーも交えて、まだほんの少し季節の早い暖炉に火を入れた。
きりりと冷えた、クリスのとっておきのシャルドネが注がれたグラスを持ってソファの腕にもたれると、おどけるように、クリスもぴったりと私の横に座った。
巨大なソファの端っこで団子のように固まる二人。そんな私達を見て、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 暖炉, 暖炉の火, ロマンティック, 安らぎ, 暖かさ, 薪, 火サイドソファのボビーが笑う。
そうして腰を落ち着けた後は、クリスとボビーはただ昔話に熱中し始めた。

柔らかなセーターの肩にもたれながら、ぽかぽか顔にあたる暖炉の火が心地よい。
話にポーズが空く度に、クリスが思い出したようにグラスに冷たいワインを注ぎ足してくれる。

少しずつ痺れ始めた感覚の中で、目の前の二人のそっくりな顔が、絵の具を塗り替えたダブルのクリスに見えてくる。ステレオで耳に響く『二人のクリス』の穏やかな声とパチパチ弾ける炭の音が、だんだんシンクロし始める。

自分が今、過去にいるのか未来にいるのか‥。そのままうつらうつら‥いつの間にか記憶は薄れていった。

 

 次の朝目が覚めると、もうベッドの隣は空っぽだった。
何やら上の階にあるキッチンから、タマゴとコーヒー、ベーコンの焼ける、三拍子揃った素晴らしい匂いが流れて来る。

『ああ、しまった!』

大急ぎでベッドの足下に落ちていたクリスの大きなシャツをひっかけて、まだ少し痺れた頭を抱えながら階段を上ると、

'Good morning, sweetheart'

私の足音を聞いて、キッチンから出来たてのプレートを持って出て来たクリスが爽やかな挨拶をくれた。

「ごめんね、寝坊しちゃって‥。」
「いいんだ。さっき僕も、ママから電話もらって起こされただけなんだから。」

何気ない挨拶を交しながら、ふとクリスの肩に目がとまる。
テロンと薄いシルクのロープの下に、張った肩のシルエットが透けて見える。
薄れかけた夕べの記憶の中、胸の上に重ねられたがっちりとした体の重さが鮮明にフラッシュバックして、思わずどぎまぎ目を伏せた。

そんな私の様子を見てクリスは穏やかな瞳で微笑むと、澄ました顔でテーブルの上のカップにコーヒーを注いだ。

 

 「さっきママから電話で、ボビーもLAから帰って来てることだし、今日今から家族で集まろうって事になったんだ。君も僕の両親に会ういい機会だと思わない?」

テーブルに着いて、フワフワのスクランブルエッグをブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 朝食, ブレックファースト, 目玉焼, タマゴ, ホットケーキ, パンケーキ, ベーコン, コーヒー, 朝, 一日の始まり, 一日のスタート, グルメ, 生活ひとくち口に頬張りながら、クリスがそう切り出した。

「えっ‥?」

まだ眠りから覚めきらぬぼーっとした頭に、突然のカウンターパンチが入る。
そう言った後のクリスといえば、私の戸惑いなど気にするでもなく、『玉子食べたら出発だからね。』なんて、もうさっさと自分のお皿を済ませ時計を見ながら外出の用意なぞ始めている。
『‥ッちょっと、あんた両親に会うって‥。』
アメリカ人の彼には、そんな『儀式』も日本人程構えた物でもないようだ。

結局楽しみにしていた、久し振りに二人っきりで過ごす『甘い週末の時間』は思いっきりボツになった。そして、そんな事にガッカリしている暇もなく、朝食がすんだ後は、お皿を洗う時間も惜しんでばたばたと部屋を出発した。

いつもは海沿いに輝いて見えるサルサリートの風景が、今日はひどく平らに見える。
いきなり朝から飛び込んで来たこの『大仕事』。
胃の中ではさっき食べた玉子とベーコンが、激しいタップを踏みながら暴れまくっているようだ。

「僕の家族は噛み付いたりしないよ。心配しないで」

ハンドルから手を離し、クリスがすっかり無口になってしまった私の頬をキュッと摘んだ。
それはそうなのだけど‥。

 

 ヨットハーバーまでやって来ると、もう先に来たお父さんとボビーが私達が着くのを待っていた。駐車場に入って行きながら、クリスが奥にとまっている大きな黒いスポーツカーを指差す。一瞬背中にゾクゾクとした物が走り抜ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ヨットハーバー, ヨット, マスト, マリーン, レジャー, サルサリート, ベイエリア, 海, 夏けた。

車が停車するのと同時に、外からボビーが助手席のドアを開けてくれた。

「ハイ、今日のご機嫌はいかが?」

ほんの少し戸惑いながら私がドアの外に出ると、クリスも運転席から降りて来た。

緊張でカチカチに固まった私の肩をすっぽりと自分の腕に包み込むと、丁度また同じように、その真っ黒なスポーツカーの助手席からゆっくりと降りて来ているお父さんの方へ向かって歩き出した。
ボビーが横で、何だか妙にニコニコしながらその様子を見守っている。

「パパ、紹介するよ。彼女‥。」

そうして目の前に並んだのは、クリスとボビーとお父さん、年とカラーのバージョン違いのそっくりな三つの顔だった。

思わず口の端が緩む。
ふっと気分が楽になった。

息子が突然連れて来たこの異国から来た女性に少し戸惑いの混った笑顔を見せながらも、お父さんは、その分厚い手で柔らかく握手を交してくれた。
まるで、サンタクロースと『船長さん』を足して二で割ったといった感じの真っ白な髭に埋もれた穏やかな瞳‥。

『クリスが年をとったら、こんな顔になるのかしら?』

少し笑ってしまうようなモンタージュ映像を、そこに見ている気分がした。

そう言えば、『小さい頃、パパが日本からのフライトのお土産に、ブリキの玩具を買って来てくれるのがとっても楽しみだったんだ。』なブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ブリキ, ブリキのおもちゃ, 玩具, レトロ, 懐古んてクリスが前に話してくれた。

今でこそ、このおっとりゆったりのお父さん、若かりし頃は国際線のパイロットとして世界を股にかけて飛び回っていたそうだ。
その影響か、その頃からクリスも朧げながら、この『東の果ての国日本』に大きな興味を感じていたそうだ。
ブリキの玩具と遊ぶ小さな『クリスぼうや』の姿。ふっとまた、口の端が緩んだ。

今日のイベントは、このサルサリートのヨットハーバーからクリスのヨットで、サンフランシスコ湾のセーリングに出かけるということだった。
海での船遊びは、まだ日本にいる頃、福岡の海ノ中道から友人のクルーザーで釣りに出たくらいしかない。当然、白い帆を張ったヨットに乗るのはこれが初めての体験で、心が子供のようにワクワクした。

 

 ゆっくりとしたスピードでヨットが湾の中に出て行くと、息子たちはお父さんの指示に合わせて、慣れた手付きで一斉に帆を張り出した。
力強くロープを引くたび歯を食いしばって力を込めるクリスの顔に、とても生き生きとした男を感じる。 いつもの疲れ果てたボロ雑巾のような姿はそこにはない。
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真っ白な補がピンと張られると同時に、ヨットはどんどん加速して、水の面を滑るように走り始めた。
湾の中程まで出ると、強くなる風と船体にぶつかり砕ける波に、ヨットは必死で自分のバランスを取るように右に左に揺れ出した。
テキパキと船の上で動き回る二人の息子たちに比べて、私といえば、『海に落ちると危ないよ。』なんて、お父さんからはすっかり子供扱いの状態だ。

その言葉に従って、皆の邪魔にならないように大人しくヨットの真ん中に座って海を眺めていると、突然船からすぐ手の届きそうな海面に、ヌーッと何か大きな物が浮かび上がって来るのが見えた。

思わずぎょっと目が釘付けになる。
まるでそれは、大きさといい形といい、何か黒い人間の頭のようだった。

『こんな所で素潜りをしている黒人がいる!』

しかしそれにしては、その頭は妙にツルツルと光っている。

もう一度よくその姿を観察してみると、それは何と‥、野生のアザラシが泳いでいる姿だった。
今まで動物園でしか見た事のなかったアザラシが、ヨットの横で気楽に泳いでいたりする風景‥。うーん、さすがカリフォルニアである。

突然現れたこのアザラシにすっかり目を奪われてしまっている私に、クリスが分厚いスエットシャツを投げてくれた。そして最後に引っ張っていた帆のロープを固定し終わると、私の横にぴったりと体をくっつけて腰を下ろした。

「寒くない?大丈夫?」

陸から離れる程に風も冷たくなって行く。さっきお父さんから下りるように注意されたヨットの縁のベンチには、今はボビーが猫のように丸まって、シャツのフードをすっぽり被って座っていブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, サンフランシスコ湾、ゴールデンゲートブリッジ, 海, ヨット, 夕焼け,夏る。

見渡す限り銀色に輝く海原の中を、ヨットは静かなシルエットを描きながら風に乗って進んで行く。

遠くには、抜けるように青い空と海の境目に、深い朱色のゴールデンゲート・ブリッジが鮮やかなコントラストを浮かび上がらせているのが見える。

何もかもが美しく溶け合う風景が、ゆっくりゆっくり後ろに流れて行く。

二時間程そうやってのんびりとサンフランシスコ湾の中を周った後、ヨットはまた、サルサリートに向かい頭を返した。

 

 船着き場が見えて来ると、今度はそこで、クリスのお母さんとジェスが船の着くのを待っていた。初めて会うお母さんは、さすがに三人の腕白坊主を育て上げたお母さん、静かな貫禄を滲ませたながら、まるで昔の学校の先生のようにテキパキと言葉を話すとても品のいいご婦人だった。

目がやはりクリスに似ている。
凛としたその姿勢の中にも、彼女の瞳だけは何故か悪戯っぽく笑っていた。

家族の顔が全員揃うと、その後は皆で、ヨットハーバーのすぐ横にある中華レストラン、『北海漁村』の飲茶ランチを取る事になった。

マリーン・ディストリクトといえば、普段ベイエリアの中でも白人が中心に住んでいる場所で、この地区でアジア系の人達を見かける事はそう多くない。しかし、この『北海漁村』はそんなマリーンの中にありながら、いつも沢山の中国人のお客さんで賑わっている。それだけ本格的な中国料理をだすレストランとして知られているようだ。

入り口のドアを入ると、まずデーンと三層に重なった巨大な水槽が私たちを出迎えてくれた。中にはまだ生きているロブスターや名前も知らない魚たちが泳いでいる。
ヨットハーバーに面した海側の壁は全面がガラス張りになっていて、ヨットのマストが所狭しと並んでいる深いブルーの海を眺めながら新鮮な海鮮中華を楽しめるようになっている。

ランチにはまだ少し早い時間だというのに、フロアーはもうお客さんで一杯に埋まっていた。
黒いスーツに蝶ネクタイ姿の姿勢のいいウエイターたちが、テーブルの間を滑るよう行き交いながらテキパキと飲茶の料理をお客さんに勧めている。
テーブルに通されると、早速私達も、その飲茶形式で運ばれて来る色んなお皿の物色に取り掛かった。

 

 程なく目の前の巨大な丸テーブルが、素晴らしく美味しい匂いに満たされたお皿で一杯になった。 その幸福な眺めに、緊張でギクシャクしていた私の怪しい動きにも、少しずつ油がまわり始める。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ディムサム, 中華料理, 中華, 飲茶, 蒸篭, グルメ, 中華レストラン, チャイナタウン
クリスの家族は、もう特別に私の事など意識するわけでもなく、各々が好きな事を話しながらお箸の食事を楽しんでいる。
ボビーのLAでの生活、クリスの仕事、お父さんの体の調子の具合‥。優しい会話が流れて行く。

時々ジェスが向いの席から手を伸ばして、新しく運ばれて来た料理を勧めてくれる。私の椅子の背に腕をまわし、いつになくリラックスした様子で話すクリスの横顔は、もうすっかり、ヤンチャな男兄弟の『あんチャン』の顔になっている。
彼の口から飛び出してくる砕けた言葉のサウンドが、とても優しく懐かしい。
ほんの少し、またクリスの秘密を垣間見た気分がした。

家族の団欒のテーブルに、ぼんやり私の日本の家族の顔が浮んで来る。
今頃日本は、蝉時雨の真只中だったりするのだろう‥。

 


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[2012/04/04 11:25] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード17
 家賃が上がった。

それも信じられないくらい‥。


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 朝、まだ眠気のさめやらぬぼーっとした頭でポストを開けると、レンタルオフィスから何かの通知の封筒が入っていた。

「エーッ、何だろう?先月の家賃はちゃんと払ったよなあ‥?」

ぶつぶつ独り言を言いながら封を開け、中身を読んでびっくり!

'Dear resident' なんて優しい書き出しではあるものの、その後には思いっきり太字で、『再来月から、家賃を$350上げるからよろしくね!』 なんて事が、爽やかにさらっと書いてあるではないか。

『おいおい、ちょっと待てえ!$35の間違いじゃあないのオ?』

果無い期待の中で、何度もそのお知らせを読み返してみた。‥しかし、しっかり『桁』は間違ってはいなかった。とほほ。

寝惚けた頭に心地よく残っていたコーヒーの余韻も一瞬にして吹き飛び、かなり朝からショックな気分。もうコーヒーを飲みなおす気にもなれやしない。
何だか二倍に損した気分になってくる。

とにかく、ここサンフランシスコの家賃は高い。
まあこれは家賃だけに限らずに、生活費全般に於て言えている事なのだろうだけれど。

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ちなみに言うと、ウチのアパートメントなんて決して贅沢しているわけでもなく、日本で言うワンルームタイプの小さなステューディオを借りている。
それでも今現在の家賃で$1095!

その金額でさえ、今は爪に火を灯しながら払っている状態なのに、このお知らせによると、再来月からはさらに$350プラスの$1450になるという。
いったいこんな金額、誰が払えたりするのだろう‥。
ショックもここまで来てしまうと、もうただヒトゴトのように感心してしまう他しょうがない。

しかし、言わずもがな、実際にはこんなひと事のように暢気な事を言って感心している場合ではないのだ。
最近、ここサンフランシスコで見慣れてしまった風景の一つに、気楽なホームレスの『乞食』の存在がある。段ボールの切れ端に、半分ふざけたようなニコちゃんマークと『ハングリー!』なんて書いたプレートを持って、足元に置いた紙コップと一緒に一日中そこらの道端に座り込んでいる。

これがまた、若者も結構いたりしてしまうのだから驚いてしまうのだけれど、正直こんな通知を手にした日には、外のストリートでうろつく彼らの姿も、『明日は我が身』に思えてくる。

 

 ところで『若者のホームレス』といえば、毎日お猿のデイケアの送り迎えに通るちょっと怪しめのゲイのストリート、ポーク・ストリートでは、もう『そこに住んどんのかい!?』といった感じの若者たちが、いつ通っても、同じ店先にたむろして座り込んでる。
隅っこには毛布や布団も置いてあったりして、朝の早い時間などにそこを通ると、カップルで抱き合いながら汚い布団に包まって寝ていたりなんかする。

ちなみに、三日前の朝にはこのカップル、おそらく店の主人から苦情でも出たのだろう、チャリのポリスにしっかり尋問されていた。しかし次の日にそこを通ると、今度は隣の店先に場所を移して同じ事をやっていた。うーん、なかなか‥。

そんな彼らをみていると、いつも不思議に思う事がある。
それはいったいそのホームレスもどきのスタイルを、本当に貧乏でやっているのか、それともお金持ちの道楽息子・娘たちが、少し遅れた反抗期の中、趣味でやっていたりするものか、実際計りかねる物がある。

まるで60年代後半のヒッピーの現代バージョンのような格好をして、パッと目には汚いのだけど、よく見ると、さり気なく被ったキャップなどが、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ホームレス, 若者のホームレス, 若者, 文化, ファッション, 流行, ヤングの流行, 今時のファッションなかなか彼ら独特のファッションへのこだわりを示している‥ようにも見える。

中には立派な闘犬用の首輪をはめた大きなボクサーを一緒に連れているヤツもいたりして、見方によっては、究極のストリートファッションと呼べるような呼べないような?

そんな彼らを一絡げにして原宿なんかに立たせてみると、その独自性と怪しさが、かえってお洒落に映ってしまうような感が無きにしもあらず。
うーん、謎は深まるばかり‥。

 

 ‥だからァ、そんな風に悠長に、ホームレス観察にかこつけた現実逃避などをしている場合じゃないのだ。
ぼやぼやしてるとそんな謎など解けないままに、確実に彼らの姿は『明日の我が身』の姿になる。

早速部屋へ戻るなり、このアパートメントを紹介してくれた日本人のエージェントに電話をかけて泣き付いてみた。
しかし、そこでさらりと言われた事は、このサンフランシスコの家賃、今はどこでも日本のバブル状態に習って、どんどんどんどん‥『おーい!いい加減にしろ!』ってな感じで上がりまくっているのだそうだ。ウチなんてまだいい方だそう。うーん‥。

しかしそうは言っても、たった一部屋のアパートメントに、月々$1450の家賃?
こんなことって、一体お天道様が許してくれることなのだろうか?

 

 そんな朝一番のびっくり箱で始まった今日の一日、午前中にはお猿のデイケアの更新で、カソリックチャリティーの事務所を訪れる日だった。
面接が始まって開口一番、今朝受け取りたてホヤホヤのそのシュールなお知らせをビーシーに見せてみた。

ちなみにこのフィリピン人の彼女、血液型を言うと、私は勝手に『絶対にO型だ』と思っている。何だか妙にあったかいド迫力のあるおばさんで、何がその迫力かと言うと、例えばこのビーシー、時々澄ました顔をして 'bull shit' などと悪態をかましてくれるのだ。
『確かここ‥、彼女がいるのは厳格なカソリックの集まりであるはずでは?』
最初はそういった疑問の中、ビーシーの口から過激な言葉が飛び出すたびに、全ては私の未熟な英語の聞き間違いのせいで、何か違った単語がそういう風に聞こえてしまうのだろうと思っていた。
しかしどうやら私の耳は、やはりちゃんと正常に機能していたようである。
今日もこのお知らせを手にした途端、彼女の口からは華々しく『その言葉たち』が何度も連発して飛び出して来た。

 

 面接が始るや否や、今日もビーシーは熱かった。

一通り、その私が差し出したお知らせに目を通し終えた後、彼女は、息も荒く奥に引っ込んだかと思うと、直ぐにまた、分厚い電話帳と様々な機関のパンフレットを両手一杯に抱えて戻って来た。
そうしてその資料の山と一緒に一番奥の大きな机の前にデンと腰を落ち着けたかと思うと、そのまま手当り次第、あちこちに苦情の電話をかけ始めた。

受話器に言葉をぶつけるようにして話す彼女の『ドスコイパワー』を間近に見ていると、その電話の向こうにいる人たちに同情の念を禁じ得ない。

そうして何本か立て続けに公共の相談機関に電話をした後、彼女は、今度は直接アパートメントの事務所に電話をかけた。電話を受けたマネジャーが言うには、今朝通知を出してから、事務所にはもう中国人の住人達から嵐のような苦情の電話が鳴り続けているのだそうだ。

ウチのアパートメントの建物は、ダウンタウンの中でもセキュリティーのシステムが整っていて、結構ー私を除いてはーお金を持っている感じのアジア系の住人が多く住んでいる。エブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, レントサイン、部屋探しントランスですれ違うのも、半分以上は日本人の学生やアメリカ留学中の韓国人、中国人などである。
しかし、そんなバラエティーに富むアジア系住民たちの中で、文句を言いまくっているのが『中国人に限って』というのはなかなか面白い。お国柄によって,こうした問題への反応も様々に違うようである。

‥まあそんな無駄話はさておいて。

こうして話を聞いていく内に、結局このサンフランシスコの家賃の上昇率というのは、1978年以降に建てられたアパートメントについては法的規制が何も無いという結論に行き着いた。
それを確認するとビーシーは、まるで私よりも落胆した様子で受話器を置いた。

 

 結局今日の調査の中で、問題の解決は何も得られることはなかった。
しかしその裏側で、私の心が得たものはとても大きなものだったと思う。
ひと事なのにも関わらず、これ程一生懸命になって自分を助けてくれようとするビーシーの姿を見ていると、人として掛け替えのない、大切な何かを教えてもらえたような気がした。

サンフランシスコに来てから私の生活は,様々な人種の人たちと関わらずには毎日を送れなくなってしまった。
最初のうちはその肌の色や習慣の違いに、毎日泣きたくなる程の疎外感に悩まされる日々だった。

しかし、そんな手探りの戸惑いの中でも、日々接点を重ねて行くうち、異質な外側の殻の下にある根っ子の部分は、案外私の中にある物からそうかけ離れてはいないということが見えてきた。

暑さを感じる、寒さを感じる。空腹を感じる、眠たさを感じる。
怒る、笑う、喜ぶ、泣く。
そして誰かを愛して行く‥。

どんな人間の中にもまずそうやって、共通に感じ合える芯がある。

フィリピン人でも日本人でも、マライ人でもパプアニューギニア人でも、皆、その中心には『感じる』というものを持っていて、そこから伸びて来る枝葉たちが、ただ単に、表面に現れて来る様々な違いを作り出して行っているに過ぎないのだ。文化や背景の違いの中で表現の仕方や感じる量が変わるとしても、結局中心の基本には、皆が同じ物を持っている。

漠然とそんな物が掴めて来ると、肩の力がふっと抜けた。

そうして一つハードルを越えてしまえば、今度はかえってその違いが面白くなって来る。そこまで来ると、後はもう、ただ自然に息をしていればいブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 旗, 各国の旗, いろいろな国の旗, ホテル入り口, 観光, 人種, 世界, 人種のるつぼ, 人種のサラダボールい。

何しろ、このサンフランシスコの街のように、これ程様々に異なる人種がそれぞれ独自のスタイルを守りながら一所でごった煮のようにして共同の生活を作り出している都市は、まだまだ世界にはそう多くはないのだから。

アラビアンナイトのようなベールで顔を隠した中近東の女性が黒ずくめの民族衣装で横を通り過ぎても、誰も珍し気に振り返って見る人はいない。白人女性がスキンヘッドで決めていようが、ゲイのカップルが男性どうしで仲良く手を繋いで歩いていようが、それは皆その人たちの自由だと受け止める寛容さがここにはある。

 

 今までになく『熱かった』今日のミーティング、ふと気がつくと一時間の枠は大幅に延長してしまっていた。ランチタイムを削っては悪いと、肝心のデイケアの話もそこそこにバタバタ帰り支度を始めた私に向かって、ビーシーが最後に思い出したように言った。

「ああ、そうそう‥、今度はあんたが『チャンネル4』に電話してごらん。」

『チャンネル4?』

それは何かと聞いてみたら、今サンフランシスコで人気のあるテレビ番組の一つで、一般視聴者から寄せられた社会の苦情をオンエアで話し合う番組なのだそうだ。

「ああそれよりも、あんたそんなに美人さんなんだから、もうこんな問題で頭悩ましてるよりは、家賃払ってくれるリッチなボーイフレンドでも見つけたほうが早いんじゃないの?」

「‥‥。」

こんなことを真顔で勧めてくれる愛すべきビーシー。
それでも一応『厳格な』カソリック組織のケースワーカーなのである。うーん‥。

 

 さて、明日からはアパートメント捜しを始めよう。

毎日一つ、未知のドアが開いて行く。

次に自分を待っている新しい何かにドキドキしながら、このサンフランシスコの時間を歩いて行こう。

 


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[2012/04/06 13:14] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード18
 一年も終わりに近付いて、また街が華やかに浮き立つ季節がやって来た。

中でもこの十一月の終わりにあるサンクスギビング、日本ではまだそう取り立てて大騒ぎする事のないホリデイだけれど、アメリカ人にとって、この日は一年のフィナーレを飾る大切な祭日となっている。


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最初にアメリカに渡って来た清教徒達が、原住民からこの土地でとれた食べ物を分けてもらい厳しい冬を乗り越えた。それに起源を発したこの祝日は、アメリカの祝日にしては珍しく宗教色が無く、毎年十一月の第四木曜日、人々は家族と集まって神の恵みに感謝しながらディナーを共にする。

サンクスギビングが近付くと、街はもうターキーの話題で持ち切りだ。
もしかすると、アメリカ人は、サンクスギビングのターキーの焼き具合に命をかけると言っても過言ではないのかもしれない。テレビからラジオ、雑誌まで、腹に詰め物をしたターキーの焼き方で一杯になる。

そして本番の当日は、街中が朝からターキーを焼く幸せな匂いに包まれる。

 

 ところでターキーといえば、私はサンフランシスコに来て初めて、あの肉々しい丸のままのターキーがお店に並んでいる姿を見た。
それは鳥肉などと言う可愛らしい物ではとてもなく、異様にでかくて生々しくて‥。
果たしてこんなに大きな鳥を切ったり焼いたり、今までチキンの『分解』さえもろくにした事のなかった私にとっては、想像しただけで、もう残酷過ぎて気絶しそうな代物だった。

料理番組の画面の中では、ブロンドの髪を結い上げた美しいインストラクターが、顔には爽やかな微笑みを浮かべながら、ターキーのお腹に手を突っ込み何やらブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, クッキング, 料理番組, サンクスギビング, アメリカの主婦, 主婦, ターキー, 料理, キッチンバキバキやっている。 その彼女の綺麗な顔とやってる事のあまりのアンバランスさに、日本人の私の目にはどうしてもそれが何とも異様な光景に映って仕方がない。
出来ればこの先、永年アメリカで暮して行く事になったとしても、この『生のターキーに触る』という究極の作業だけはとてもご勘弁願いたいなどと密かに祈ってしまうここ最近の私だったりする。

ちなみに、こんな事を考えるのは私一人ではないようだ。
サンフランシスコで暮す周りの日本人主婦たちも、やはりターキー料理の主導権は、皆アメリカ人のご主人たちに引き渡してしまっているようである。
まあバーベキュー大好きの彼らのこと、これはまたこれで結構楽しんでやってくれたりはしているようだ。

サンクスギビングが近付くと、『うちのターキーを食べに来ない?』と、あちこちからターキー自慢のお誘いがかかる。ただしこれは、『うちのダーリンのターキーを食べに来ない?』と言ったニュアンスが正解である。

時が経つのは早いもので、私がアメリカに来てから、もう今回で三度目のサンクスギビングを迎える。

 

 さて、今年のサンクスギビングは、朝一番に、このホリデイを父親側で過ごすお猿をフレッドの手に渡す事から始まった。

先週彼女には、このサンクスギビングのパーティーで着る赤いベルベッドのドレスを買ってあげた。そしてそれから暫くの間、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベビードレス, 子供服, ベルベットドレス, 女の子, サンクスギビングその小さなドレスは入り口のハンガーに掛けておいた。
お猿はもう、それが自分の物だと知っていて、毎日ドレスの前に立ってそれをジーッと眺めては、指を指したり手を叩いたり‥。

今日、お迎えの朝、彼女は初めてのドレスに手を通した。それはもうとてもとても喜んで、何時までもその柔らかなスカートの裾をヒラヒラ翻しては遊んでいた。

『あんなに小さいのに、もうちゃんと女の子してるんだ。』

今までちっぽけなベビーでしかなかったお猿が、初めてのドレスに頬をピンクに染めてはしゃぐ姿を見ながら、一瞬、嬉しいような、でも私だけが時間の中に取り残されて行くような、きゅんとした思いが胸の中を通り抜けた。

フレッドが到着すると、おろし立てのドレスを身に纏い、彼女はカーシートの中で幸せそうに微笑みながらパーティーへと出発した。
アパートメントの先の角を曲る車を見送りながら、ドアを閉める時に見た、お猿の笑顔と赤いベルベットのドレスが目の前に浮かぶ。
優しい気持ちが身体いっぱいに満ちて来た。

ママとして、ちゃんと用意を整えて彼女を送り出してあげられた事が、何だかとても嬉しかった。あのちっぽけな存在を守って行く『母親』という役目が自分の人生の中に与えられた事に、小さな誇らしさを感じた。

見送りを終えて部屋に戻ると、ドアの中には、ついさっきまで彼女が遊んでいた痕跡が散乱して残っていた。何かが急にスポンと抜け落ちたような思いに、胃の奥でキュッと冷たい淋しさがはじけた。

しかし今は、そんなおセンチに浸っている時ではない。

そこら中に散らばった玩具たちを、片っ端から手につかんでは大きな木の箱に投げ入れて行く。脱がっせっぱなしに床に放っておいた小さなネグリジェを洗濯かごに放り込み、彼女が食べ散らかした後をきれいに拭き取って行き‥。そうしてお迎え前の準備でバタバタ忙しかった残影がきれいに片付いてしまう頃には、私のおセンチな気分もすっかり吹き飛んでしまっていた。

 

 さて、部屋が綺麗に片付いた後は、ジャケットを引っつかみアパートメントのドアを出た。

「ああ、今日もいい天気だ!」

エントランスのドアを開けるなり眩しく目に飛び込んで来た陽射しに、ポケットのサングラスをさぐる。
頭の上には雲一つ無く、どこまでも澄み渡った青空が続いている。
取り出したサングラスをチョンと鼻にのせ,大きく息を吸い込むと、吹き抜けていく爽やかな風を感じながら通りに足を踏み出した。

毎日お猿のデイケアに通うカリフォルニアストリートの坂を少し登ると、日本人の初老のゲイのカップルが開いている品のいいフラワーショップがある。アジア情緒あふれる花たちで埋まった深草色のエントランスホールが、サンフランシスコの一角に、控えめでほっとする和の趣を添えている。
しかし、そんな落ち着いた店の雰囲気とは対照的に、表の看板の隣には、虹色のポーダーが入る大きなゲイの旗が誇らしげに掛けてある。

今日のお店番は、小柄な方のご主人だった。

「本当を言うと、今日は祭日で店を閉めようと思っていたんだけどねえ‥。サンクスギビングのお花の注文がいくつか入っちゃったので店を開ける事にしたんですよ。」ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ホオズキ, ほおずき

京都のアクセントが少し混じった柔らかな口調で微笑みながら、サンフランシスコで目にするのは珍しい、鮮やかな朱色のほおずきと菊で花束を作ってくれた。

夕方には何と、クリスの家族のサンクスギビングディナーにおよばれしている。実は今こうして作ってもらっている花束も、彼のお母さんへ持って行くプレゼントなのだ。

前回、夏のサルサリートのセーリングで彼のファミリーの中に突然放り込まれてしまった時は、まるで行き当たりばったりのピアノの発表会のステージで演奏を強要されたような気分だった。今回はその汚名を返上すべく、朝からこうして用意万端、気持ちの準備を整えて事に臨んでいる次第である。

 

 窓から見える空が少しずつ一日の終わり色に染まり始めた頃、クリスのお迎えを告げるインターフォンが鳴った。
いつものようにさっとバスルームに駆け込んで、全身の姿をチェックをする。
鏡の中には今夜のおよばれを意識した、普段とは全く違う顔の自分が立っていた。

きちんとまとめた髪にかっちりととした黒のパンツスーツ。
何だか他人を見ているようだ。
おまけにまた、このダブルシックの大きな花束。

『ちょっとやリ過ぎかなあ?』

今までクリスの前ではしたことがない格好。

『いったいこんな私の姿を見て、彼はどんな風に思うのだろう?』

そう考えると、ほんの少しの不安が胸に走った。

しかし、今となってはもうゆっくり着替えなどしている暇はない。ドキドキしながらエレベーターに乗り込みエントランスまでおりて行くと、いつものように、クリスが車の横に立って待っていてくれるのが見えた。

私の姿を確認すると、クリスは少し言葉に間を置いて、それからにっこり微笑みながら花束ごとすっぽり私の身体を抱き締めてくれた。
'You look gorgeous! sweetheart.'

今ではもう、何度となく通り慣れたゴールデンゲート・ブリッジ。
この巨大な橋を渡るたびに、幸福な何かが私を待っていてくれるような気がする。

車がブリッジに差し掛かる。

鮮やかな朱色をした橋の支柱が、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベイブリッジ, 橋, サンフランシスコ湾, 観光夕暮れの空に向かって吸い込まれていくようにすーっと真っ直ぐ伸びている。

遠くに霞む島影をバックに、湾の中にはヨットの白い帆が浮かんでいる。
橋の歩道では、スピードを上げて通り過ぎる車を横目に、幸福な観光客たちの笑顔がのんびりと行き交っている。
暮れかかる陽射しの中、海も山も、ブリッジも人の笑顔も‥、そこにある全ての物が、ゆっくりと黄金色に染って行く。

 

 クリスのコンドに到着し、車のドアを開けた途端、辺り一面からもう素晴らしく美味しい匂いの洪水が押し寄せて来た。
あまりに素敵な不意打ちに、一瞬頭がくらくらする。

ターキーの焼けるこうばしい匂いの先導に続きクランベリーの酸っぱいソース、パンプキンパイのクツクツ泡立つ甘い甘い匂い‥。そんな魅惑的な匂いたちが、両手を広げて『早くテーブルにおいでよ』と誘ってくれているようだ。

高い丘の斜面に引っ掛かるようにして建っている家々の窓たちが、今日は一年の収穫を祝う感謝際の喜びに満ち溢れている。

美味しい匂いに鼻をムズムズさせながら玄関に続くデッキを渡って行くと、クリスがさっとドアを開けてくれた。中からうわあっと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, サンクスギビング, ターキー, グルメ, クッキング, 料理息の詰るような汁っぽいターキーの肉汁の匂いが溢れ出す。思わずゴクリと咽が鳴った。

自然に緩んで来てしまう顔を必死で押さえながらドアの中に一歩入ると、部屋の中では、キッチンとダイニングテーブルの間を忙しそうに行き来しているお母さんと、それを邪魔しているのか手伝っているのか、これまたキッチンでごそごそと何かをしているお父さんの姿が見えた。

リビングのソファでは、何だか妙に擦り切れたスエットシャツを着たジェスが、手持ち無沙汰にBGMのCDを選んでいる。

クリスのファミリーは、LAにいるボビーを除いて、皆このティブロンのご近所さんに住んでいる。今年は私がお邪魔をするというので、このサンクスギビングのファミリーディナーはクリスのコンドでやる事になったそうだ。

 

 私達が到着した時には、もうテーブルはお母さんの手料理で一杯に埋まり、部屋中が家族の暖かい空気に包まれていた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ターキー, サンクスギビング, ごちそう, パーティー, サンクスギビングディナー, グルメ, 贅沢, レストラン, 特別の日, 祭日

「ママ、ちょっと遅れちゃって‥。手伝えなくてごめん。」

玄関のドアを入りながら、ひょいとキッチンの入り口に顔を突っ込み『ただいま』の挨拶を告げた後、クリスは持って来た大きな花束をリビングのガラステーブルの上に優しく置いた。

「花瓶あったかなあ?」

それから少し間を置いて、キッチンからお母さんが真っ白な陶器の花瓶を持って出て来た。そしてクリスの横に恥ずかしそうに立っている私の姿に気がつくと、にっこりと微笑んで挨拶をくれた。

「これ、私のアパートメントの近くにある日本人がしているフラワーショップで作ってもらったんです。」

「まあ、ありがとう。何てユニークな花束なの。」

そう言って花束を手に取りながら、お母さんは、そのツンと上品に尖った鼻で菊の匂いを嗅いだ。期待通りに、不思議な形をした鮮やかな朱色のほおずきを、彼女はとても気に入ってくれた様子だった。

花束を開いてその形を一本一本楽しむように手に取りながら、透き通るように白い円筒形の花瓶に活けて行く。ふっくらとした手が暖かい。
その手の動きに、活け花をする日本の母親の姿が重なった。
今頃どうしているのだろう。会いたいな‥。

 

 部屋の中にはもう、バーカウンター越しに漏れるキッチンの明かりと、大窓から入って来る陽の落ち時の弱い光だけしかなくなった。その薄暗くくすんだ空間の中で、暖炉の火だけがパチパチ小さな音をたてながら優しく揺らめいていブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ランプ, ランプの灯, 安らぎ, 団らん, ロマンスる。

ディナーの用意が整うと、クリスは暖炉のマントルピースの上から磨き込まれたランプを一つ手に取った。

テーブルの上には、まだ湯気のたっているターキー、ポテト、とうもろこし、ベリー類のお皿‥、アメリカでとれる限りの大地の恵みが集合して私達が席につくのを待っている。

ふあんとオイルの匂いが鼻をかすめ、テーブルの真ん中にポッと優しい灯が揺れ始めると、同時にキッチンのライトが消えた。

 

 厳かな光の中で、サンクスギビングのディナーは始まった。
皆がテーブルに揃うと、早速お父さんは、テーブルの真ん中にどんと置かれたこんがり狐色のターキーを、慣れた手付きで全員のお皿に切り分けてくれた。

「うちのレシピの秘密はね、ターキーを焼く時には胸から焼いて、途中ひっくり返すのがコツなのよ。」

得意な顔でそう言いながら、お母さんが私にウインクをくれる。

アメリカでこのターキーの焼き方というのは、各々の家庭が独自の『コツ』を持っているのだそうだ。日本で代々家族に受け継がれて行く、おせち料理のお雑煮のような物だろう。
そう説明してくれるお母さんの顔が、彼女のお母さん、お婆さん、時代を越えて受け継がれて来たファミリーの味へのプライドに溢れている。

「そうすると、肉汁が逃げないでお腹の詰め物にしみ込んで行くでしょう?そしてまた、ひっくり返した後にお汁が胸の方に落ちて行くから、胸の部分もパサパサしないで焼き上がるのよ。」

確かにもうこれは彼女の言う通り!

一口ターキーを口に入れてその弾力のある肉を噛んでみた途端、歯の間から口の中に、何とも言えない暖かくてジューシーな肉汁がほとばしるように溢れ出た。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, グルメ, ターキー, サンクスギビング, お皿, 食事 その感動にはただただ言葉を失って、無意識に沸き上がる笑顔でもう首を横に振るしかない。

口の中の肉を飲み込むと、その余韻に浸る暇もなく、今度はクリスが注いでくれた、これまた彼のとっておきの赤ワインを舌の上で転がした。

ターキーに赤ワインなんて、今までは考えもしなかった。確か学生のときに、ワインは肉と同じ色の物を会わせる方がいいと習ったような記憶がある。
しかし、朝からコルクを抜いて空気と馴染ませていたという程に癖のあるその赤ワイン、程よいボディーで少しだけ樽の香りがする。一口含むと、その液体は舌の上でサラサラとほどけ、まったりと口の中に絡み付いていた肉汁を洗い流しながら咽の奥に消えて行った。世界中の美味しい物を一人占めしているような贅沢な気分に言葉も無い。

 

それからはもう、ただただ味への感動に酔いしれながら、面倒臭い英語の会話などはそっちのけにしてガツガツと食べ続けた。そんな食べっぷりに感心して、テーブルを囲む家族の皆が次々に、『これも試してみろ』と私の前にお皿を突き出して来る。
クリスが横でその突き出された大皿から、少しづつ料理を私のお皿に移してくれる。

アメリカ人の男性には、こういったパーティーの場で連れの女性にサーブをする習慣を持つ人が結構いる。まあこれも人各々の育ち方や考え方次第で、全部が全部というわけではないのだけれど。
これってしかし、何だか女性がする日本のお酌の習慣に似ているような気がしないでもない。ちなみにこちらでは、ワインを注ぐのも男性の役目。

慣れというのは恐ろしいもので、最初は少し抵抗があったこの習慣も、今ではクリスと食事をする時には、女性が自分からぬっとテーブルのお皿に手を伸ばしたりするのは何だかお行儀の悪い事のように思えて来た。
そしてこれも最近では、実は結構気に入っていたりする。
ご馳走してくれる彼に女性として、きちんとエスコートされている自分を感じる。

‥まあそんな難しい事で理屈をこねるのは後回し。

今はとにかく、目の前に次々と盛られる美味しい物たちを、口に運ぶのに大忙し。

 

 食事が一段落着くと、ランプの炎が優しくゆれるテーブルの上で穏やかな会話が流れ始めた。ジェスが次に撮影に入る映画の話を得意げに始める。クリスが後ろでそれを茶化す。お父さんとお母さんが最近行ったヨーロッパ旅行の話。そこにはいないボビーの近況。所々聞き取れない英語の音さえ、今はすべてが心地よい。

‥と、ふいにテーブルの下でギュッと手が握られたのを感じた。
突然の小さな刺激にはっとして横をむくと、それまで隣で話に熱中していたはずのクリスがこっそり私にウインクをした。
ワインの酔いでしびれた頭に、悪戯な刺激が優しく優しくエコーする。
テーブルの下で絡ませた指に、思わず同時に微笑みが漏れた。。

「あーあ、自分もキャロルを誘えばよかったな。」

向かい側のテーブルで最後のマッシュポテトをつつきながら、冷やかすようにジェスが言う。

『キャロルがいたら、もうちょっとましな格好をしてたのかな?』

すかさず切り返すクリスの言葉に、テーブルを囲む皆が笑った。

テーブルの真ん中では、シナモンの香りの湯気がたつアツアツのパンプキンパイが切り分けられた。

 

 一通りディナーが終了した後は、皆で暖炉の前に場所を移し、ゆっくり食後酒のブランデーを楽しんだ。
甘いオベラの旋律に抱かれながら、上質のワインとたらふくのご馳走でもう真直ぐに座っているのもきつかったお腹の具合が落ち着いて来た頃、そろそろパーティーはお開きの時間へ近づいてきた。

「今度また皆で集まるのはクリスマスね。クリスマスのターキーを焼く時には、あなたも私の横で見てなさい。教えてあげるから。」

お母さんのそんな『ありがたい』お言葉に顔を少々引き攣らせながら、クリスの腰に腕を回して玄関のドアを出て行く幸せな笑顔を見送った。

ひとの影が消えた後、部屋の温度が急に下がった。
まだパーティーの余韻の残るがらんとした空間の中で、ほっと息がつけたような、ちょっと置き去りにされてしまったような、‥。しかし、そんなおセンチな気分もすぐに、ふあんと後ろから包まれた大きな胸の中に溶けていった。

競うようにクリスと光の粒を見渡すソファに駆け込んでいく。
柔らかなチャコールの匂い。
パチパチ燃え続ける炭の音と、低く低くものブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 暖炉, 暖炉の火, 薪, 火, 家族団らん, 幸せ, 幸福悲し気げに響いてくる歌声を聞きながら、あたたかい息を耳に感じ、大きな身体の重さの中にまた自分が溶けていく。

 

 一番初めにアメリカにやって来た清教徒達が、新しい土地で厳しい時間を乗り越え、最初に収穫した物たちで神への感謝を示したというこのサンクスギビング

まだまだ私の生活といえば感謝際には程遠い混沌の真只中。
しかし、とにかく顔を上げて進んで行こう。道は先に続いている。

パチッとはじけた炭の間で遠い過去の時間から、誰かが微笑みをくれたような気がした。

 


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[2012/04/07 12:50] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード19
 最近、寝ても覚めても私の思考を支配して、どうしても頭から離れてくれない事がある。それは『恋煩い』だとかいうそういう甘ったるい幻想の類いではなく、極めて現実を直視して、とにかく早急に解決の糸口を見つけなければいけない巨大な課題なのである。


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言うまでもなく、ここで言うこの『巨大な課題』とは、十月に突然冗談のように釣り上げられてしまったアパートメントの家賃の事だ。
普段は『出来るだけ脳天気に暮そう!』がモットーの私でも、なかなか神様というのは、そういう人生嘗め切ったヤツを放っておけない性分らしい。
最近ではもう、何だか今までに溜まりまくっていた『ツケ』でも払うように、私の人生の上には、次々とこの『課題』とやらが降り掛かって来る。

 

 そんなわけで、ここしばらくはアパートメント探しに追われる日々が続いていた。
インターネットのサイトから近所のスーパーの掲示板まで、もう来る日も来る日も情報を見て回った。

しかし、こんな可愛い盛りに加えてうるさい盛りの『おまけ』の付いたシングルマムでは、無条件でルームメイトになってくれようなんて奇特な輩は、やはりそういるものではない。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 部屋探し, 新聞広告ちょっと条件があまい所で連絡を取ると、女性目当ての男性だったり、二部屋を四人でシェアだったりで、これではまるで違法難民の収容キャンプだ。

アメリカ映画の中に見る、シュールな程に豪華な部屋とは裏腹に、とにかくここサンフランシスコでの住宅事情というのは、最早、『日本の家はウサギ小屋』などと笑ってられる状態ではない。広めのワンルームを厚いカーテンで仕切り、それでルームシェアをしている人たちもいたりするのだから。

そもそもここ最近のサンフランシスコの家賃上昇は驚異的で、ダウンタウンでも、大きな会社が毎日の様に郊外のほうへどんどん流れ出しているという。ちなみに、あのカソリックチャリティーでさえも、来月からはもっと家賃の低い場所に事務所を移転するそうだ。

 

 こうして、前に進めば進む程どんどん後ろに下がって行ってしまうような間抜けなリサーチをくり返す中、私のメールボックスに、見覚えのない名前で一通のEメールが入って来た。 開いてみると、それはしばらく前にネットの『ルームメイト募集』の掲示板に書き込んでおいたアドへの返信だった、

『サウスサンフランシスコにある戸建ての家の一室に入ってくれる間借り人を捜しています。家賃月額$600、光熱費込みで如何ですか?南向きに大きな窓あり。庭付き。地下鉄まで歩いて五分。』

もう、明日からでも入りたい涎垂物の条件だ!
早速、このメールの送り主にその先を問い合わせてみた。

返事は即、その日の夕方に返って来た。

『私は日本人の血を半分持ったアメリカ人です。しかし、小さい頃に養子に出され、自分の中にある日本の部分を知らずに育ちました。掲示板であなたのアドを見た時、小さなお子様をお持ちになって困っていらっしゃる日本人の助けになる事が出来たらと思い、空いている部屋のオファーをする事にしたのです。クレイグ』

うーん、なかなかいい話ではないか。

しかし、‥ん?
最後まで読んだ所で、そのお尻に付いている名前に目が止まった。

『クレイグ』?

そう、このオファーの主、どうやら男性のようなのだ。‥と言うより、ハッキリ言って男性である
この部分だけは単純に、『いい話』と喜んでばかりはいられない物がある。
まあ、異性のルームメイトを持つなんて事はそれ程特別な物でもないここサンフランシスコでの住宅事情。この場合も一般的に、大家が男性だからといって特別に神経質になる必要もないのかもしれない。

しかし、やはり今一つ尺然としない物が残る。

それから二三日、頭が禿げるかと思う程に考え込み、また、アメリカ生活に慣れた友人達にも相談しまくった結果、やはり、この目の前にぶら下がったニンジンは無視出来ないという結論に達した。
この『クレイグ』には一度直接会ってみて、話を聞いてみる事にした。

 

 面接に指定された時間、少々緊張した面もちで、シピックセンターの一角にそびえ立つ連邦裁判所の建物の前を歩いて行くと、遠くに見えるブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, サンフランシスコ フェデラルコート,  シビックセンター, 連邦裁判所エントランスに、一人の品のいい紳士が立っているのが見えた。

巷で見る、カジュアルなカリフォルニアのドレスコードとは違い、仕立てのよいダークスーツに身を包み、少々近寄り難い雰囲気さえ漂わせている。
こちらを気にする目線から、すぐにそれがクレイグだとわかった。

 

「はじめまして」

「やあ、御機嫌いかがかな?」

お互い向き合える距離に来た所で、まずは軽く握手を交す。
目の前に立った彼は、四十半ばの割と小柄な男性だった。

日本人の血を半分持つというわりには、すっと通った高い鼻筋、髭の濃そうながっちりとしたアゴ。一見するとその顔つきは、どちらかと言えばヒスパニックに近いようで、日本人の部分はあまり感じることはできない。
ゆっくりと言葉を話し、一見おっとりした性格のようだが、眼鏡の奥には視点の定まらない神経質な目が光っている。

入り口で簡単な自己紹介をすませた後は、いよいよ彼の後について連邦裁判所の建物の中へ入った。
このクレイグという男、仕事はコートの書記官をしていて、私の懸念を察してか、この初顔合わせの場所を公的な自分のオフィスにセッティングしてくれたのだった。

ニコリともしない二人のでっかい警備員たちにチェックを受ける私のバックを横目で見ながら、入り口のセキュリティーチェック・ゲートを潜る。エレベーターで十七階までのぼると、そこからは細長い廊下が続いていて、分厚いガラスの覗き窓がはまったドアに突き当たる度、一々IDカードを通して暗証番号のボタンを押さなければ先へ進めない。

そんな厳しい警備の様子を見ていると、『果たして私のような一般人が、こんな風にノコノコ入って来てもいいのかしら?』なんて、少々不安な気持ちになった。

しかしそんな懸念も、極めて平常心ですたすた前を歩いていくクレイグの背中には伝わってはいないようだ。廊下でスレ違う、これまたカッチリとしたスーツに身を固めた彼の同僚達も、笑顔で挨拶を投げ掛けてくれる。
このスパイ映画のような警備の厳しさと、そこにいる人間のラフさとのギャップが、どうも今一つよく分らない不思議な空間だったりする。

そうして迷路のような長い長い廊下を一番奥まで歩いて行くと、その突き当たりがクレイグのオフィスとなっていた。

 

 ドアを入るとまず、沢山の本と書類のファイルでぎっしり埋まった壁一面の巨大な本棚が目に飛び込んで来た。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 本棚, 書斎, 本向いの壁には、風格のあるオークの机がどっしりと置かれ、その横に、真っ黒で不思議な形をしたタイピングの機械がちょんと置いてある。
いかにも書記官のオフィスといった雰囲気だ。

促されるまま部屋の奥へと進み、窓を背にした黒い革張りのソファに腰をおろすと、続いてクレイグも向いのソファへ腰かけた。そうしてお互いに腰を落ち着けたあとは、少しの緊張を打ち消すように、静かにクレイグが話を始めた。

「ちょっと前に新聞を読んでいたら、サンフランシスコの若者達の生活追跡の記事が載っていてねえ。」

そう切り出しながら、窓から入って来る光が少し目に強いといった様子で鼻にかけた眼鏡をかけなおすと、彼はまた言葉を続けた。

「そのお尻にあったウエブサイトのリンクで行き着いたサイトを眺めていたら、君のアドに行き当たったというわけさ。
メールにも書いていたと思うんだけど、僕の半分には日本人の血がまじっている。でも物心がついた時にはもう既に今の儀父母の元にいたから、僕には全く日本の背景が無いんだ。
そんなわけでずっと今まで、何か日本に関係する物に携わりたいと思ってた。
こうやって今回、偶然とはいえ君と接点を持てたという事は、僕にとっても大きな意味のある事だと思うんだ。」

そうして静かに話す顔が、ここで一瞬ふと曇った。

「一年前、二十年連れ添ったドイツ人の家内を亡くしてね‥。その後はずっと長い間飼ってた犬が一緒にいてくれたんだけど、それも最近死んでしまった。それからは何だか急に家が空っぽになってしまってねえ。仕事から帰って来てもガランとしたドアを開ける毎日だろう。それで、誰か話し相手に間借り人でも捜そうかとしていた矢先に君のアドに行き当たったとういうわけなんだ。」

穏やかな口調で話を続けるクレイグの顔を眺めていると、何だかこの話を検討してみるのも悪くはないと思えてきた。
もちろん、このアメリカで直ぐに他人を信じてしまうのは危険な事だと言うことはわかっている。しかし、今日こうして彼の話を聞きながら身の回りを見せてもらった限りでは、少なくともこのクレイグ、連続殺人の次なる獲物を探している訳ではないだろう。
とにかく何より『ベビーOK、ダウンタウンから車で十五分、月々の家賃も超お目玉$600』。こんな奇特な条件なんて、これからそうそう出会える物ではない。

とりあえずその日は、次の週早々にでも実際に家を見せてもらう事にして、クレイグのオフィスを後にした。

 

 今の心境を例えて言うなら、まるで究極の空腹の中、目の前に置かれたツヤツヤとした林檎を食べようかどうしようか迷っているような気分だ。
外からそのプックリとした形を見ているだけでは、中身が瑞々しく美味しいのか、それとも皮の下はカスカスで半分腐りかけているのか分からない。

まあ、不安や疑問は尽きないけれど、とにかくまずはこの林檎を手に取って、匂いを嗅いでみる所から始めよう。そしてそれでOKであれば、ちょこっと隅を齧ってみるのもかまわない。このままじっとしていても来月の家賃の請求書はやって来る。

小さな『運試し』に肩を押されながら、このクレイグとのご縁、これから少しづつ前に進めて行ってみようと思う。

 


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[2012/04/18 14:53] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード20

 いよいよまた、年が代わり行く時間がやって来た。
アメリカで迎える静かな一年の終わりも、今年でもう三回目。

まあ『静か』とは言っても、それはただ日本のような伝統行事が無いだけで、毎年何かしら、終わり行く年を締めくくり、また新しい年を迎える準備をする出来事は起って来る。

去年の大晦日には、初めてクリスと顔を合わせた。
それから開けたこの一年、たくさんの思い出がそこに産まれた。
初めて握手を交した手の温もりが、たった昨日の事のように感じられる。そしてまた遠い昔の記憶にほどけていく。

無数の果無い記憶の欠片たちが時間の流れにのりながら、私の宇宙にちりばめられていく。


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 さて今年の大晦日は、何とあのクレイグと、お猿を連れてカーメルまでの一泊ドライブ旅行をする羽目に陥った。

十二月始めの初顔合わせ以来、この半月の間、彼とは主にEメールを通してお互いの状況を話して来た。そうして様子を見て行く内に『これは何となく大丈夫かな』という気がして来た頃、実際彼の家を見せてもらい、そしてそれからまた暫く迷いに迷った末、結局ついにクレイグの家に入居する事に話を決めたのだった。

正確に言うと、今まだ現在のレンタルオフィスに一ヶ月前の退去届けを出さなければいけないので、実際彼の所に移るのは再来月の二月以降のこととなる。

一旦そうして話が決まると、掃除などの家の仕事の分担といった具体的な話が少しづつ話題に上るようになってきた。そんな話を進める内に、クレイグが、私が間借りを開始するのに当面必要とされる家具たちを、カーメルに住む彼の両親の所から借りて来ようと言い出した。

最初この計画を聞いた時には、正直、かなりの躊躇があった。
いくらこれから間借りをして一緒の家で暮して行くとはいっても、大家との一泊旅行だなんて、やっぱりちょっといただけない。
しっかり『×イチ』入ったこの身でも、厚かましくも言わせてもらえば、これでも『また』、れっきとした『嫁入り前の娘』なのである‥のかな?

しかしまあ、よくよく彼の話を聞いて行くと、ご両親の家のお隣には彼自身の家もあって、『一緒にステイしても、ちゃんと独立したプライベートな空間は確保出来るから。』という事だった。 それにまあ、私の新生活に使う家具をお借りしに行くわけなのだから、そうそう嫌だと言ってばかりもいられない。

結局、こうして最後には、半ばクレイグに押し切られるようにして今回のカーメル行きはスタートした。

 

 カーメルという場所は、映画『フォレスト・ガンプ』のモデルとなったレストランもある海岸線の観光地モントレーの隣にあって、いわゆる、お金持ちがゆったりと住む豊かな地域になっている。

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正直言って私自身、この芸術の街カーメルには、前々から密かな憧れを持っていた。

だがしかし、実際こんな形で訪れる機会が来ようとは。
予測のつかない運命の気まぐれさ加減には、感謝すべきか迷惑すべきか‥。

 

 カーメルへと向かう当日。
朝早く、クレイグが大きなレンタルトラックを運転して、お猿と私をピックアップに来てくれた。

「おはよう。用意は出来てる?」

「おはよう。早いね。」

朝の早い時間だというのに、不自然な程に爽やかな笑顔を浮かべるクレイグと挨拶を交した後は、アクビをかみ殺しながら、運転席と助手席の間にドンとチャイルドシートを据え付けて、その中にお猿を座らせると、自分もさっさと助手席に乗り込んだ。

私の重い気持ちなどどこ吹く風で、お猿はとってもご機嫌だ。

そうして用意が整うと、早速トラックはカーメルに向けて出発した。

 

 いざ街を抜け出して、まだ車の流れも少ないフリーウエイをトラックがスピードを上げて走り出すと、それは思いの外快調なドライブとなった。
スコンと晴れ渡った空の下、全開の窓から吹き入る風にロックのボリュームを大きく上げる。チャイルドシートの中では、お猿が大きく身体を揺すりながら、リズムを刻んでもがいて‥‥いや、踊っている。

フリーウエイをしばらく行くと、窓を通り抜ける空気の匂いが変わった。

草の匂い、土の匂い‥。遥か遠くの空に溶け行く小麦色の草原で、牛たちがのんびり草をはんでいる。
思い切り大きな深呼吸をする。
広大な自然にかけられた魔法で、出発前のぎこちない空気も、優しい笑顔に塗り替えられていくような気がした。

二時間程フリーウエイを走った後、車は右に逸れてカーメルへと続く出口を降りた。

まるで印象派の画家たちのブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 海, 海岸, ビーチ, カーメル, 自然カンバスの中にでも迷い込んでしまったかのような青い海。
この世のすべての美しい言葉を集めてもまだ語りきれない壮大な海岸線の風景に抱かれ、しばしの間現実を忘れる。

海岸線をしばらく走り、最後にトラックは、真っ白な砂浜に臨んで立つ大きな家の門の中に吸い込まれるように入っていった。

 

 エンジンの音が止まると同時に、家の中からは待ちかねたように、クレイグの両親が出迎えに顔を出してくれた。

今はもう、美しい海を眺めながら静かなご隠居生活を楽しむお二人。
昔はドクターをしていたという朴訥なお父さんに、これまた昔は女優をしていたという見事なプラチナブロンドの髪をしたお母さん。二人で一緒に歩いた長い長い時間が素敵なハーモニーを奏でている老夫婦の姿がそこにあった。

それぞれがクレイグと大きなハグを交し、そしてトラックの横に立っている小さなお猿と私の姿に気が付くと、これまた顔中を皺クチャにして微笑みながら、この『一人と半』の客人を、まるで古くから知る友人のように暖かく家の中に招き入れてくれた。

 

 一通り挨拶がすんだ後は、まずは荷物を解くために、客間のある離れに通された。
今回は仕事の義務のようにして、クレイグについて、殆どカルガモ状態でこのカーメルまでやって来た。しかし、実際ここについてからは見る物全てに圧倒された。

玄関に足を踏み入れると、そこはもう黄金時代のハリウッド映画の世界だった。

エレガントに装飾されたホールを右に折れて、細かいカットグラスの細工の入った大きな一枚硝子がはめ込まれたドアを通ると、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, カーメル, 贅沢な家そこからは建物に沿って、細くて長い階段状の屋外通路が下りていた。
竹の生垣で仕切られた通路には、まるで山林の遊歩道を行くような安らぎに満ちた木漏れ日が落ちている
階段の一番下は、どうやらまた家の中に通じているようだ。

ドアを出ると、ひょいとクレイグがお猿を肩車してその坂を下り出した。小さなボストンバックを持ってその後に続く。
私たちについて、お母さんがとても可愛がっているという大きなドーベルマンのベルも、まるで道先案内でも務めるように一緒に坂を下りて来た。

客間のドアは、坂を途中まで下った所にあった。
それは一見、まるで古びたキャンプ場のバンガローにでもあるような素朴な木の造りになっていて、そのポッテリとしたノブに手をかけると、何となく腰を落ち着ける場所を見つけたようでほっとした。

しかし、そのドアを開けるや否や目に飛び込んできたのは、もはや私の一瞬の安堵などせせら笑われてしまいそうな、これまた贅沢でゆったりとした異次元の空間だった。

海に向かって壁一面に張られたガラスの出窓から、美しい海岸線の風景が一望できる。モダンな三角錐の暖炉を真ん中に据えて、イタリア調に趣味よくコーディネートされた居間の奥には、総大理石張りのジャグジーバスのついた寝室が二つもあり、そこにはそれぞれ、真っ白なレースのカバーが掛かるふっくらとしたキングサイズのベッドが置いてある。バーベキューパーティーも猶にできる広いデッキの角からは、メイドルームへも行き来でき、またそれでさえもが、ダウンタウンの私の部屋と同じくらいの広さがある。

うーん‥。
今全く、このサンフランシスコの『メイドルーム』の家賃にも途方に暮れる毎日を送る私が、果たしてこんな所でこんなことをやっていてもいいのだろうか?

「ちょっとママたちと話す事があるから、荷物解いたらここで待ってて。僕は隣にある自分の部屋にステイするから、君たちはここを自由に使ってくれていいよ。」

客間の説明を一通り終えると、クレイグはベルを連れて、そそくさと坂を上って行った。

さっきからお猿は、スプリングのきいたベッドによじ登り、大喜びで奇声をあげながらトランポリンを楽しんでいる。私もやっとクレイグから解放されて気分も少しリラックス。解きかけの荷物は放り出して、お猿と一緒にベッドの上に飛び乗った。

まあいろいろ考えたところで、同じ時間を過ごすのだったら、この際、思いっきり堪能させて頂かなければ損である。
私は今、憧れのカーメルにいる。ここにいる少しの間、現実の時間は鞄にしまって硝子の靴を履いてみるのも悪くない。

 

 コン、コ、コン‥コン、コン‥

フカフカのベッドの上で、子犬のようにお猿とじゃれあうこと半時間。外からドアがノックされた。

「大体何を運ぶかは今ママと話して来たよ。ベッドは確保したし、机とドレッサー、後はスタンドライトといったとこかな?これから海側のメインリビングで皆でランチをとるから出ておいで。もう荷物は落ち着いた‥?」

手にしたメモを見ながらそこまで言うと、ドアを開けた私を見て、クレイグがプーッと吹き出した。
ハッとして自分の姿を振り返る。
ああ‥。お猿と我を忘れてはしゃぎ過ぎ、髪はボサボサの爆発状態、鞄もまだリビングの床にドンと開いたまま、中身がそこらに散乱している。

「君たち一体、何やってたの?」

『しまった!』と慌てまくる心の動揺の上に極めて平静を装いながら、

「ああ、大丈夫よ。荷物なんて後でも整理出来るから。」

澄ました顔を繕ってぐいっとお猿を引っ付かむと、手櫛で髪を整えながら、階段を下りて行くクレイグの後について部屋を出た。

クレイグの背中が笑っている。お猿もつられて‥わけも分からないくせに笑い出す。大きな笑い声のエコーの中で、何だかバツの悪いような楽しいような‥。トボトボと階段を下りて行きながら、いつの間にか私も笑っていた。

 

 下りて行く階段の終点は、またレトロな細工のされた硝子ドアのついた、母屋のメインリビングの入り口となっていた。

中に足を踏み入れるなり、すかさずベルがソファの陰から飛びついて来て、ドンと無遠慮にそのぶっとい前足を私の胸にかけたかと思うと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ドーベルマン, 犬生暖かい舌で顔中をベロンベロンとナメ出した。

ついさっき会ったばかりにもかかわらず、これ程までに旺盛な愛情を私達に示してくれるベル。ドーベルマンにしてはとても大きな体つきで、こうして立つと、軽く私の身長程もある。

穏やかな顔付の首には細い金のネックレスをかけ、見るからに『普段からいい物を頂いています』と言わんばかりにコロコロと美しい毛づやをしている。

最初はベルが近寄る度に、顔を強ばらせながら私にピッタリくっ付いていたお猿も、この超博愛主義者のベルの熱烈歓迎振りには直ぐに打ち解けてしまったようだ。数分もたたないうちに、もうこの半人と一匹は、同じ目線で、仲良くその広大なリビングルームを駆け回り始めた。

太い一本柱に区切られた奥のダイニング・コーナーでは、きれいにセッティングされたテーブルを挟んで『あーでもないこーでもない』と何やら真剣な面もちで話をするお父さんとお母さんの姿が見えた。

「ニューイヤーのパーティーの、メニューの相談をしているんだ。」

後ろからクレイグが、小さな声で教えてくれた。

「ママは、パーティーをアジアン・テイストでコーディネートしたいんだって言ってた。今日のランチもそのための試食スタイルで作ってるみたいだから、後でシャパニーズの君の意見も聞きたいなんて言ってたよ。」

‥うーん。これ程のお宅のホームパーティーに、私の意見など烏滸がましい。
私が提案出来る日本のおご馳走なんていったら、『豚カツ』だとか『すき焼き』だとか、所詮そんな庶民的な物が精一杯。‥ま、それはそれで私のおご馳走には違いないのだけれど。

お猿はさっきからベルについて、ヨチヨチ夢中で隠れんぼを楽しんでいる。このとてつもなく広い空間の中では、クレイグが前に腰を下ろしたフルサイズのグランドピアノでさえ、玩具のように小さく見える。

取り合えず私もダイニングからは少し離れて、彼らの美味しい会議が終わるのを待つ事にした。

スクリーンの女優を気取りながら、フンワリとしたスエードのソファに腰を下ろす。
二階の高さまで吹き抜けたガラスの壁を透して、真っ白な砂浜が見渡せる。

ああ、今日もいいお天気だ。

 

 程なく、メニュー会議にも一段落がついてランチの時間が始まった。
テーブルの上には所狭しと、私が見こともないーお母さんが言われるところのー日本料理が並んでいる。
楽しい食事が始まった。

‥っと言いたいところだが、実はいざ、その上品にセットされたテーブルを前にしてしまうと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, グルメ, レストラン, テーブルセッティング, ごちそう, 特別な日の食事, パーティー立ち上がってその場を逃げ出したい衝動に駆られた。

こんなゴージャスな空間で、それも、今日初めて顔を合わせた人たちと囲む畏まったテーブル。正直なところ、それは食事を楽しむというよりも、まるで一流ホテルでテーブルマナーの講習か何かを無理矢理に受けさせられてるような心境だった。

お上品にセットされた銀のシルバーウエアたちは、ツンとしたお鼻を天に向けている。目の前に並んだ『珍しい日本料理』たちも、まるでデパートの食品売り場のディスプレイを見ているようで、味など噛み締めている余裕はない。

今日はお猿を連れて来て、本当に正解だった。
まだ小さくて何も分かってはいない彼女、緊張で固まる母親を横目に、さっきから一応、『ちょっと何だか違うぞ』モードに入ってはいるものの、極めて平常心を崩すことなく彼女流の素晴らしくマイペースなテーブルマナーを披露しながら、ぐわしと目の前にある食べ物を鷲掴みにして楽しそうにお口へ運んでいる。

彼女が何かする度に、お母さんの気がそちらへ向く。
お猿の事を『スイート・ハート』と優しく呼んで、とろけるような瞳で次々に美味しい物を彼女のお皿に入れてくれる。
お猿が笑うと、お母さんもお父さんも一緒になって微笑む。
優しい空気に緊張の糸が緩んでいく。

そんな笑顔をながめていると、ふと、去年、孫の顔を見に日本からやって来た父と母の顔が浮かんだ。
まだちっぽけでムシのようだったお猿に、未だかつて見た事もないデレデレの大親馬鹿ぶりを発揮していた彼らの姿が目の前の老夫婦にだぶって来る。

今の私の状況といえば、グリンカードの申請手続きの真只中。移民局の面接すらもまだいつになるのかは分からず、とにかくカードがおりるまではアメリカを出る事は許されない。そんな拘束中の身では、両親にとって初孫で、たった一人の孫である彼女の成長も、遠路はるばる、彼らがサンフランシスコにやって来る時にしか見せてあげる事が出来ない。

きゅっと胃の底が絞られて、心の中で小さく『ごめんなさい』と呟いた。

 

 さて、そうしてどうにかランチの時間を切り抜けた‥じゃなくて、終えた後は、お猿を連れて、海岸線を散歩してみる事にした。
海に面したこの巨大なリビングルームからは、中庭を抜けて、直接海岸へ出て行けるようになっている。

ワシワシと庭を覆い、そこら中にびっしりと生えているドクダミのようなそうでないような草を踏みながら砂浜まで出て来ると、空気の色と匂いが変わった。

ザザーン‥ザザーン‥

寄せては返す波の音をバックに、潮っぽい風が時折思い出したように、砂浜に咲く花たちの頭をそよがせて行く。
昔、古いカフェの壁にみたような、色褪せて、ほんの少しぼかしのフィルターのかかった優しい風景の中を、ヨチヨチ歩きのお猿の手を引きながらゆっくりゆっくり歩いて行く。

お猿はもうさっきから、目につく物全てが嬉しいようだ。
砂浜に落ちた流木の欠片を拾っては笑い、自分の背の高さ程もある黄色い花の頭を覗いてはまた笑う。
時折空気のリズムを変えるように強く吹く潮風の動きにも、またその小さな手をパチパチたたいてにっこりと笑う。

砂浜をしばらく歩いて行くと、海岸に添う唐草の茂みに、細い入り口があるのを見つけた。先はどうやら向こうの崖に続いている。
ちょっとそこで立ち止まり、お猿と顔を見合わせた後、そこからは少し冒険をしてその横道に進路を変えてみる事にした。

蔓が絡まった小道の入り口を、かき分けるようにゆっくり中に入って行く。
遠くまで見渡しのきく砂浜から離れ、その頼り無く続く細い細い進路を進んで行くに従って、まるで、柔らかく色褪せた若草色の迷路の中に迷い込んだ錯覚に陥った。

左右、腰の高さまでびっしりと茂る蔓の間からは、突然ピーターラビットが飛び出して来てもおかしくはない。淡いパステルに色づけされた小さな花たちが、こんもりとした蔓草のベッドを飾っている。

絵本のページをめくるようにどこまでも優しく続いて行く風景の中を、お猿の小さな手を引きながら夢中で前に進み続けた。

 

 茂みを抜けると、今度は地球のテッペンに立つような開けた丘の上に出た。
そこから小道は、野の草で覆われたなだらかな崖縁に沿って続いて行く。
崖の足元に目を落とすと、思わずハッと息を呑んだ。
そこには信じられぬ程に澄み渡った湖が、まるで神の手で描かれた神聖な絵画を見せるように、そこにあるすべての物たちを逆さまに映し出しながら悠然と横たわっていた。

‥とその時、

「ほら、あそこを見てごらん。」

突然後ろから聞こえた太い声に、幻想のシャボンが弾けて消えた。

私も相当に失礼なヤツだけれど、この素敵な散歩の道中、クレイグが一緒について来ているなんて事は、もうすっかり頭の中から消え去っていた。
何だか一瞬にして夢の世界から現実の中にスポンと掴み戻された気分だ。

本来なら、ランチの後の散歩の時間は、お猿と二人っきりでこのどこまでも美しい海岸線を歩きたかった。しかし、そこで当然のようにしてついて来るクレイグを断わるよい言い訳も見つけられないまま、結局こうして、小石の入った靴を履いて歩き続けなければいけないような散歩の時間が始まったのだった。

ガックリと興醒めした思いで、彼が指差す湖の向こう岸に目をやった。そこには乗馬柵のついたグラウンドを備えた大きなコテージ風の建物が、静かに湖畔に影を落としてたたずんでいるのが見えた。

「あの建物は、クリント・イーストウッドの家なんだ。元はホテルか何かだったんだけど、彼が買い取って自分の家に改造したんだそうだよ。彼はここの市長もやってるからね。」

スクリーンで見る大スターの生活が、ここでは『ご近所さん』のお話になる世界。まだまだこの世の中は、私の知らないことで満ちている。

思いがけない発見に、落ち込んだ気分もやや持ち直し、しばらくそこで湖の風景を楽しんだ後は、またそこから道を折り返し、迷路を抜けてゆっくりと来た海岸線を戻って行った。

海辺の家が見えて来ると、道中、子供のように砂の上の平たい石を拾っては波の中に飛び石させて遊んでいたクレイグが、

「これからダウンタウンまで出てみようよ。カーメルまで来て街のギャラリーを見ないで帰るなんて事はないだろ?丁度ママから頼まれた小包もあることだしね。」

と、既に自分の中にあったプランを、さも『今、ふいに思い付いた』といったような素振りで誘って来た。

まあ、これには私も全面的に大賛成。
‥この見境のない現金さが、今の私の経緯のすべてを説明してくれているような気がするのは否めない。

 

 海岸線を離れると、車は大きな家が悠然と並ぶ閑静な住宅街の中に入って行った。

のびのびと枝を伸ばした緑の樹々に覆われた美しいヨーロッパ調の家々が,童話の中に迷い込んだような優しい風景を作っている
丁寧に手入れをされた庭の中には、天使のような子供たちの笑顔がのぞいている。

ドライブが街のメインストリートに近付くに従って、のどかな通りも少しづつ華やぎを増して来た。

通りの両側には、ぽってりとカラフルなペンキで塗られたアメリカの昔情緒あふれる店たちが顔を並べ始め、石畳の歩道には、ウインドウショッピングを楽しむカップルや家族連れ、行き交う人々の幸福な笑顔が満ちてくる。
サラサラと心地よい風が吹き抜ける気取らない店先のベンチでのんびり読書にふける人、街路樹が落とす柔らかな木陰で大きなナップサックを下ろしてひと休みする観光客のカップル、トロンとした目で買い物から出て来るご主人を待っている犬たち。ゆっくり流れる時間の中で、皆が思い思いに自分たちの時を過ごしている。

玩具のような郵便局にクレイグの『口実』が詰まった小包を出した後は、私達もお猿をのせたストローラーを押しながら、ゆっくりと歩道を行く人たちの流れに加わった。

『芸術家の街カーメル』という名を誇るように、ストリートには軒を列ねて様々な種類のギャラリーが並んでいた。
その一つ一つのドアの中に足を踏み入れるたび、まるでウサギの後を追い掛けて『不思議の国』の穴の中に迷い込んだ錯覚を見る。

美しい蝶の羽根をした風車が回っている。太陽の代わりに光り輝きながら空に浮かんだ巨大な玉子の殻の修復に、神話の中の人々が木の足場を組み働いている。
薔薇の花びらの中には小さな妖精が眠り、大きなマザークロックの文字盤からは、沢山のスライド映像をバックにして過去と未来に繋がる階段が伸びている。

神から人間に与えられた一番貴重な財産という物があるのだとしたら、それは『想像力』に違いない。この空間で確信する。

 

 ‥とその時、

「ハニー」

カウンターパンチを食らわすように、『また』幻想の背後から、太い声が土足で割り込んで来た。
しかも『ハニー』‥‥?‥??????
言わせてもらうが今の所、この私をハニーと呼ぶのはクリスただ一人だけだ。
一体全体何がどうした事なのだろう?

疑惑で顔を引き攣らせながら、恐る恐る、隣に立ったクレイグの顔に目を向けてみた。

「ハニー、この絵はうちのリビングの壁にピッタリだと思わないかい?
来月が君の誕生日だろう?
そこでどうだろう。この、$12、000の絵をそのお祝にするってのは?」

「‥‥?」

呆気にとられてジーッと顔を見つめる私に、彼はニヤリと笑ってウインクをした。

「冗談だよ!冗談!君があんまり真剣に絵を見つめているもんだから、ちょっと辛かってみたくなっただけさ。」

そう笑いながらもクレイグの手は、私の腰に回っているじゃあないか!
次の瞬間、背中中の毛穴が総立ちになり、体の中にゾワゾワとした物が走り抜けた。

冗談の通じないヤツで申し訳ないが、これにはすっかり気分も動転してしまい、ギャラリーを出た後はもう周りの風景など目には入って来なかった。ただ、小さなベビー連れの彼と私が通りを行く人たちの目にどう映っているのかを考えると、一刻も早く、その場を離れたい思いに駆られた。

 

 ランチと同じで、素敵だけれど味の分からない夕食が済んだ後は、飲みに出ようとしつこく誘って来るクレイグを断って草々に客間へ引き上げた。

熱いシャワーをさっと浴びると、その後はさっさとベッドにもぐり込んだ。
お猿は彼女なりに楽しい一日を満喫したのだろう。ベッドに入ると直ぐにストンと寝入ってしまった。そんな平和な彼女に対して、私はフカフカの布団の中で、なかなか眠りに落ちて行けない。

大窓から射し込む月の明かりが部屋の中を薄青く照らしている。
すぐ窓の外で響くうるさい程の潮騒。

ぼんやりと天井に目を移す。
そこでは、これから変わり行く生活を見つめる恐怖が無気味な黒い塊となって、目の前でジッと私の顔を睨んでいるような気がした。

生暖かい水滴が目の脇を伝って耳に入る。
頬に触れるスヤスヤとした小さな寝息に、また熱い雫が沸き上り、今度は次々にこぼれ出して止まらなくなった。

 

 結局殆ど眠れないまま、太陽が昇って部屋の中が薄明るくなって来ると、重い頭でベッドから起き出し、ノロノロと帰り支度に取り掛かった。

朝食の席では、お猿をとても気にいった様子のお母さんから、もう一泊泊まっていったらどうかと強く誘われた。

『今度はいつ来るの?』

そう言って何度も聞いて来る真直ぐな瞳。

『これではまるで、私がクレイグの彼女か何かで彼のご両親を訪ねた様子ではないか。いったい彼は今回の訪問のことを、ご両親に何と告げていたのだろう?』

自意識の過剰さも手伝って、また胸に嫌な思いが走った。

しかしそんな思いの一方で、小さな苛つきが私を叱る。
初めて会ったお猿と私をこんなに優しい瞳で包み込んでくれたクレイグのお父さんとお母さん。

『皆、あったかでいい人たちばかりなのだ。私の方が、まだ精神的にバタバタピリピリしていて、それを素直に受け入れる準備が整っていない。』

車庫の軒先きで荷物をトラックに積み終えると、見送りに出て来てくれた老夫婦と、最後にギュッとハグを交わした。
何だかとても疲れていた‥。

 

 帰りのフリーウエイでは、もうひっきり無しに隣から話し掛けて来る英語の言葉もあまり耳に入って来なかった。とにかく早く解放されて、お猿と二人になりたかった。

クレイグの家でカーメルから運んで来た荷物を解き終えてアパートメントまで帰ってくると、荷物を運ぶのを手伝うと言う彼の申し出を丁寧に断り、大きなカーシートと旅行鞄を両腕に抱え、その上にお猿の手を引きながら、どうにかこうにかエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターが動き出して、またお猿と二人、その見慣れた小さな空間の中で息を吸い込んだとき、それまでピリピリしていた神経がほぐれて行くのを感じた。

「ただいま!」

部屋のドアを開けながら、お腹の底からほっとした。
そこでは、カーメルの豪華さからは程遠い、日々の生活に馴染んだ家具たちが、『お帰り』と私達の帰りを待っていてくれた。

ヨチヨチ、お猿がぎこちない動きでブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ドア, 開いたドア, ドアノブ, 部屋, ただいま, 安堵 部屋の中に駆け込んで行く。『自分の家』に帰って来たのが分かるのか、そこでニッコリ嬉しそうに笑うと、早速、玩具箱からお気に入りのトラックを引っ張りだして、それにまたがり遊び始めた。そんな彼女を眺めながら、荷物を解くのは後回しにして、私はソファに身体を投げ出した。

無邪気に遊ぶお猿の顔を見ていると、再来月からクレイグの家で始まる生活に大きな不安が沸き上がる。
小さなお猿を連れた、全くの赤の他人との共同生活のスタート。しかも、その相手というのは男である。ああ‥。何だかこのおまけの『大きな一つ』には、考えれば考える程頭が禿げて来るようだ。

まあしかし、そんな不安に見悶えしながらも、『全ては考え過ぎなのかもしれない』と後ろから背中を押し出す自分がいる。
今ここで立ち止まって考え込んだ所で、何が変わるわけでもない。
とにかく前に進まなければ、時間のドアの向こうにある世界を手に掴む事は出来ない。

出来る限りの逃げ道は用意しながら、ゆっくりとでも前に進める足は止めずにいよう。
そうすれば、きっとそこから何かが見えてくる。

 


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[2012/04/19 09:26] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード21

 新しい年が明けた。
アメリカの『ニュー・イヤーズ・デー』


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日本のように、『元旦』『お正月』といった厳かな響きはそこには無い。
おせち料理も無し。 お年始回りも無し。お年玉も、もちろん無し。
ハローウインにサンクスギビング、クリスマス。アメリカ人は一年のフィナーレをお祭り騒ぎで最高に盛り上げた後、新しい年の始まりを、また新たな舞台の幕開けとして静かにゆっくり過ごす。

まあ、基本的にお祭り大好きのアメリカ人、街ではそれなりに大小イベントは開かれて、中でも、毎年ニューヨークで繰り広げられる恒例のニューイヤーズ・パレードは、テレビでアメリカ全土に中継される。
しかしそれでも日本にいた頃、大晦日からこの『お正月』の三賀日にかけて、紅白だ年賀状だ初日の出だパーティーだなどと盛り上がりまくっていた私にとって、こちらで迎えるこんなひっそりとした新年の幕開けには、何か大切な忘れ物をして入り口のドアを開けているような気分がしてしまう。

 

 さて、希望に満ちた『新年』の響きとは裏腹に、言わずもがな今の私の生活の中には、『引っ越し』という大きな課題がどっしり横たわり続けている。アパートメントにも退去通知を出して引っ越しへのカウントダウンがスタートしてしまった今、もう後戻りはできない。最近ではやけに、クレイグの態度に親密性が増して来た。

色んな葛藤にひとり悶々とする日々に堪り兼ねて、ここ暫く、それとなく周りの友人たちにも話を聞いてみた。しかし、返って来る答えは男女どれも似たようなもので、『別に条件良ければいいんじゃない?男でも女でも。結局はその人間次第だしね。』

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こうした、全く他人の異性と部屋をシェアするという感覚。日本ではまだ、普通の生活を送る限り、あまり馴染みのない物であるが、このアメリカでは、女性が強いからなのか人々が合理性を優先して生きているからなのか、そう取り立てて珍しい物でもないらしい。‥うーん。

確かに『条件』だけで言うと、このクレイグの話、今の私が見つけられる物件としては夢のような話だ。
ダウンタウンまでバス一本で一時間以内。その上、庭付き一件屋の間借りの家賃が月$600でOK。
何よりも、まだ正式な永住権もおりていないシングルマムの私に、そううるさい条件を付ける事もなく部屋を貸してくれるなんて申し出は、他ではそうそうお目にかかれる物ではない。

それに加えて、彼の子供好きな点も非常に有り難い。

『二十年の結婚生活を通して亡くなったワイフとの間には、一度も子供は出来なかったんだ。』

以前お猿と戯れながら、クレイグがそんな事を言っていた。そして、ぽっかり空いた心の穴を埋めるように、彼はお猿の事をとてもよく可愛がってくれる。

今までこのルームメイト探しでは、いつも小さなベビーの事がネックになって来た。
いくら、普段アメリカ人がベビーに優しいからといって、実際自分の生活の中に他人のベビーが入って来るという事になると、途端に話は変わってしまう。 クレイグのように、むしろ積極的にシングルマムを受け入れてくれようなんて人は、それ程多くないのが現実だ。
近くに身内もない外国暮しのシングルマムにとって、やはり何かあった時、ベビーの事を相談できる人が側にいるのといないのとでは精神的にも雲泥の差がある。

そういえば、以前、夜中にお猿が高い熱を出してパニックに陥った事があった。
救急車を呼ぼうにも無料では来てくれないこのアメリカ、考えなしに呼んでしまうと、後から目が飛び出る程の請求書が送られて来る。
自分でタクシーを拾って病院に連れて行こうにも、ごろつきや売春婦たちがうろつく夜中のダウンタウンに、女性一人で小さなベビーを抱いて外に出て行こうなんてことは、全く自殺行為である。

育児もまだド素人ママの状態で気ばかりが焦る中、お猿はフーフー真っ赤な顔で苦しみ続け、今にもそのか細い息が止まってしまいそうな恐怖に体が震えて来る。
もう、涙が止まらない程にパニくりながらとにかく必死で戸棚を掻き回していると、そこにベビー用のタイルノールが残っているのを見つけた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 薬, タイルノール, ベビー, 子供の病気, 常備薬, ベビー熱冷まし
箱には熱冷ましの成分も入っていると書いてある。
祈る気持ちで、急いでスポイドにクスリを取って小さな口に流し込んだ。

それからしばらくすると、彼女の熱は嘘のように下がった。

恐怖の想い出が、今でも時折頭を横切る。

別に、こう書いてクレイグの事を、生活の中で当てにしようなどと思ってるわけではないのだけれど、しかし、何を具体的にする事はなくても、このアメリカ生活をよく知る人が同居人として自分の生活の中にいてくれるというのは、何となく心強いものだと思う。

 

 そんな事を考えて行くと、確かにこの『条件』の中には無視の出来ないありがたい要素が沢山ある。
しかし、これほどいい条件に対しても、この『人間次第』の部分になると、どうしても後から頭を擡げる疑問たちを打ち消す事が出来ない。

クレイグも一応『アメリカ人にしては』、一貫した誠実な態度で話もよく聞いてくれる。
基本的に、『直接自分が深くプライベートに関わって行く』といった前提が無ければ、彼も十分『いい人』の部類に入っているのだと思う。
だが、人の距離というのは近くなる程、そこから相手に対する色んな葛藤が生まれて来る。同時にそれが、お互いの関係のあり方に感情的な混乱をもたらし始めることなるのではないだろうか。

カーメルで過ごした時間以来、クレイグの態度にも何となく馴れ馴れしさが増して来た。生活に対する口出しも始まり『これからの共同生活の中ではヤレ男友だちは絶対連れて来てはダメだ』とか『外泊する時には連絡を入れろ』だとか‥。これでは単なるハウスメートを越えた規制が出て来たような感がしないでもない。

それに加えて実用的な所でも、度々疑問が顔を出す。

例えば光熱費シェアの件。

少し前に、カリフォルニアでは電気の料金が上がってしまった。
寒がりの私にとって、このサンフランシスコの生活では、パンツをはくのと同じくらいにヒーターの存在は欠かせない。しかしクレイグの生活スタイルの中では、そのヒーターにかかる電気代さえとても気にくわない物らしい。会う度にそれを持ち出されては『引っ越して来てもなるべくヒーターはつけちゃダメ』などとチクチク言われる始末である。

人様の『ポリシー』についてどうこう言うつもりはないのだけれど、基本的に彼は、お金にとてもシビアな男。
外ではイタリア仕立てのスーツを着こみ、メルセデスなんて運転しているわりに、いつも細かい事を言って来る。

誰かと生活を分け合うのなら、お互いの都合に多少なりとも目を瞑る部分があるというのは理解出来る。しかし、今一つ私の中でしっくり来てくれないこの疑問は、いったい何なのだろう?

往生際の悪さを笑われるのを覚悟で言えば、こうした疑問と葛藤に耐えきれなくなって、正直また、他を当たり直す事を考えた。

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実際、ジャパンタウンのスーパーの掲示板に足を運んだりもしたのだけれど、しかし、今まで長いことリサーチを続けてずっとこれという物が無かったものが、今直ぐここで次の何かが見つかるなんて‥。そんな魔法は残念ながら、ハリウッド映画のクライマックスシーンの中にしか存在していないようである。

そうしている間にもクレイグからは、毎日のように長ーいラブレターもどきのメールが送られて来る。そしてそれを無視していると、今度は文面が厭味や皮肉に変わって来る。

 

 今日は久し振りに、あや子さんから電話をもらった。
彼女はもうサンフランシスコ生活八年目の、ベテランシングルマムである。

「そりゃあねえ。あんた、今でこそ、ここの生活にもすっかり馴染んじゃって平和に暮しているけどねえ。やっぱり過去の時間の中には、引っ越しのトラブルなんて、そりゃあ切って売る程あったわよ。」

カラカラ笑うたくましい声が、受話器の向こうから響いて来る。

「誰かと部屋をシェアしようなんて思ってるんだったら、やっぱり多少の問題は目をつむらなきゃあねえ。私だって、昔ヒスパニックでシングルマムのルームメイトを見つけてムーブインしたのはいいけれど、次の日からごっそり、鞄から色んな物が消え始めちゃったの。結局それから二週間も経たずに、小さなベビー連れて夜逃げ同然、部屋を移ったりした事もあったわねえ。」

そんなとんでもない体験でさえも笑い飛ばせる彼女の軌跡に強さを感じる。
何年か先には、私もこうして笑いながら、今の状況を誰かに話していたりするのだろうか?

「まあね、色んな事は起こって来るけど、今こうして平和に生きてるって事がなによりの幸せな結果だって言えるんじゃないの。あんたもどうにかなるもんよ。」

明るい声に励まされ、少し勇気も湧いて来た。

しかし最後に『御愁傷さま』とでも言うように、あや子さんがぽつりと呟いた。

「でも、生理的に受け付けない人と一緒に暮らすなんて、やっぱりこれから大変だよねえ。」

重い気持ちに引き戻される。

 

 受話器を置くと、また薄暗い空間に一人になった。
後悔とも不安ともつかない恐怖が、グルグル頭の中を回り始める。

今ここにある巨大な不安も、実際に引っ越しをして新しい生活が始まれば、『取越苦労』と笑える時がやって来たりもするのだろうか?

いったい自分はどこに向かっているのだろう‥。

 


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[2012/04/21 14:31] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード22

 引っ越しが、とうとうあと二日後に迫った。


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今日は夕方、クレイグが私のアパートメントにやって来た。

彼が働く連邦裁判所の建物は、私のアパートメントからたった三 ブロックの所にある。それで先週からぼちぼちと、こうして仕事の帰りに立ち寄っては小さな荷物を彼の車で家に持ち帰ってくれている。

こんなことも、最終的な引っ越しの日に一度に大きな荷物の運搬の必要がないといえば助かる所なのだけど、こうして頻繁に彼に助けを借り過ぎるのも、あまり居心地のいい物ではない。
出来れば自分だけで済ませたいというのが本音だったりするのだけれど、なかなか押しの強いクレイグに対して角を立てずに断わる言葉が見つからない。

部屋の中を見渡すと、もう生活で見慣れた物たちは殆ど段ボール箱の中に仕舞い込まれ、すっかり引っ越しの用意が整った。
ドアが少し神経質にノックされて、セカセカとクレイグが入って来る。
作業中の箱に腰かけて、当たり障りのない話を交わしながらコーヒーを飲み終えると、早速、壁の片面に積まれた箱たちをキャリアに積む作業に取りかかった。

 

 がらんとした剥き出しの部屋が、今日は二人の距離に妙にギクシャクした空気を漂わせている。
息の詰るような空間の中、無邪気に遊ぶブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベビーお猿の笑い声だけが響いている。

『少し荷物を車に移したら、クレイグもまた帰って行く。余計な事は考えずに、この少しの時間だけ笑顔で乗り切ろう。』

そう思って気分を切り替えた矢先、キャリアのバランスを測りながら、クレイグが軽い調子で話しを始めた。

「昨日ママから電話があって、君によろしくって言ってたよ。カーメルっていい所だろう?」

自慢げなアクセントが鼻に付く横顔に、つい『一緒に行った人が違ってたら、もっと素敵だったのに。』なんて、意地悪な返事が頭に浮かんだ。

いけない、いけない‥。

もちろんそんなことはオクビにも出さずに、ただ当たり障のない笑顔で黙っていると、また彼は満足そうに話を続けた。

「ママは君とベビーのことがとっても気に入ったみたいでねえ。『いっそ、彼女が娘になってくれたらいいのに。クレイグ、あなたとは年もぴったりよ』なんて冗談も言ってたよ。アハハ。」

『アハハじゃないよ!』

私の無言の不快感など全く感じ取る気配もなく、さらにペラペラと話は続く。

「ママたちはこれから暫くの間、バカンスでメキシコに行くんだ。そこで彼らに何かあったらどうなると思う?」

冗談のようにそう言うと、次の瞬間『サプラーイズ!』とでも言いたげに含み笑いを浮かべながら、私に向かってウインクをした。

「あのカーメルの家の相続人は僕なんだよ。彼らの財産も殆どが僕に来るようになってるんだ。」

「‥‥‥‥‥‥‥。」

一瞬、そのあまりに脈略のない話に、私はリアクションに困った。

それだから、いったいどうしたと言うのだろう?『自分は今でこそ庶民的な暮らしをしているけれど、親の財産を継いだ後にはリッチな生活が待っているよ。』とでも言いたいのだろうか?そしてそんな『餌』を目の前にちらつかせながら、私に何かの期待でもしているのだろうか?

自意識過剰だと笑われてもいい。とにかく何かが間違っている。
普段は家で使うペーパータオルでさえも、プラチナか何かで出来ているようにケチ臭い事ばかり言う彼が、こんな風に突然、人の懐で自分を飾るような事を言って来る神経も嫌らしい。

最後のボックスを積み終えて廊下に出た後も、クレイグはまだそんな事を楽しそうに話し続けていた。
私はゾワゾワと背中に上ってくる嫌悪感を必死で押さえながら、それから後は、ただもう無表情で黙々と仕事を続けた。

 

 一杯に箱を積んだキャリアを押してエントランスまで下りて行くと、それまでペラペラ、ずーっと一人で喋り通しだったクレイグが、ふと声のトーンを落とした。そしてお猿の胸からヒョイとウサギの縫いぐるみを摘み取ると、それで腹話術の人形を操るように、

「君は、家に引っ越して来るのに全然嬉しそうに見えないねえ。」

と、少々皮肉めいた調子で言った。

ハッとして自分を省みる。

『いけない、いけない。大人にならなければ。何はともあれこのクレイグは、これから一つ屋根の下で共同生活を共にして行く相手なのだから。』

そう思い直して急いで笑顔の欠片を寄せ集めると、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ウサギのぬいぐるみ, うさぎ, ぬいぐるみ辛うじて顔に微笑みを作り上げ、

「うーん、ここ暫くは少し疲れててね。それにやっぱり、一年を過ごしたこのアパートメントを離れるのには色んな思い出が残っているし。ごめん、ちょっとセンティメンタル入っちゃったかな?」

にっこり笑ってそれだけ言うと、後はまた彼の視線から逃れるように背中を向けてキャリアーの荷物を下ろしにかかった。

私の答えにクレイグも、一応は納得してくれた様子だった。
彼に対するよそよそしさも、『今まで暮したアパートメントを離れる淋しさに、今はただ落ち込んだ様子を見せているだけだ』とでも解釈してくれたようだった。

それから後は、もう二人で言葉を交すこともなくただ黙々と仕事を片付けた。

 

 荷物を積んだ黒いメルセデスがエントランスを離れるのを見送った後は、一人、ドアの横でマイペースに遊んでいたお猿を引っ付かむように抱き上げて、急いで部屋にかけ戻った。

部屋のドアを開けると、中にはやけに空っぽの空間が残っていた。
ドアが閉り『パタン』と乾いた音が響く。
もう殆どの荷物が引き払われてしまった部屋に入って行きながら、お猿をベビーベッドに下ろすと、そのままネコのように手足を丸めてソファの端っこに蹲った。

 

 柔らかなソファに体を沈ませて、それからどれくらいの時間を過ごしたのだろう‥。
空っぽの空間に、ぽんっと投げ捨てられた自分の抜け殻がいる。
目は大きく見開いているのに、その前にある物たちは全くまとまった映像を造らない。

ひとつ‥ふたつ‥‥。
頬にあてた手の甲に、生暖かい雫が伝い始めた。

‥とその時、

静まり返った部屋の中に、突然電話のベルが鳴り響いた。

予期せず耳に飛び込んで来た刺激に、反射的にソファから飛び上がる。体中の毛穴がチリチリ逆立つのを感じながら、五回目のベルで受話器を取った。

「ハイ、ハニー。」

聞き慣れた、少し掠れた優しい声が受話器の向こうから響いて来る。
そののんびりとした声の調子に、ピンと張り詰めていた糸がふわっと弛み、胸の奥に閉じ込めていた沢山の思いが堰を切って外に流れ出して来た。

「ハニー?」

ドキドキと強い鼓動を刻む心臓を押さえながら、平気な声を整えてクリスの声に答えようとする。しかし頑張れば頑張る程、胸が詰って次の言葉が出て来ない。

「どうしたの?何かあったの?‥ねえ、どうしたの?」

この引っ越しの一件については、実を言うと、これまでクリスとはあまり詳しい話をしたことがなかった。殺人的に忙しい彼の毎日のスケジュールを考えると、こういった自分の生活のごたごたに彼を巻き込んで負担をかけるのは避けたかった。
クレイグの事も大まかな話はしていたものの、込み入った感情のやり取りや自分の中に沸き上がる疑問については全く話していなかった。

電話に出るなり泣き出した私に、クリスは一つ一つ、話の糸口を掴むように質問を投げ掛けて来た。包み込むように。なだめるように。
そんな彼の柔らかな声がまた涙を誘って来る。

質問に答えながら、順序立てて事情を説明しようと頑張ってはみるのだけど、動転した頭の中では話があちこちに飛びまくブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 電話る。

しばらく混沌としたやりとりを交わす内に、クリスも大体の状況が掴めたようだった。話に一区切りついた後は、いつになくきっぱりした口調で、

「この話はもう、キャンセルにしたほうがいいね。」

と静かに言った。

「でも、もうアパートメントのオフィスには今月末の退去通知も出してるし、今さらキャンセルは出来ないでしょう?クレイグのとこに行くのをキャンセルしたら行く所がなくなってしまう。それに荷物も‥」

「シッ‥。いいから僕に任せて。」

感情的にしゃくりあげる私の言葉を、クリスはなだめるように遮った。そして、アパートメントのマネジャーの電話番号を確認すると、さっさと電話を切ってしまった。

 

 半時間程経って、また電話のベルが鳴った。

受話器をとると、その向こうから、さっき電話を切った同じトーンのクリスの声が聞こえて来た。

「今、君のアパートメントのマネジャーと話してみたんだ。」

そう切り出して、小さく二つ咳払いをする。

「彼が言うには、今の部屋は、もう残念ながら次が決まっているそうだ。でも、二月の中頃に別の部屋が空く事になっている。少し小さな部屋になるけど、その分家賃も低くなるそうだよ。君に相談無しで悪いとは思ったんだけど、もうその部屋を押さえたよ。それで二月の中旬には、また君はそのアパートメントに戻れる事になる。
さてそこで、今月末にアパートを出てから一月の間、どこにステイするかって事だけど‥。」

クリスはそこで息をつくと、少し迷って言葉を捜すように間をおいた。

「‥僕の所に来てもらう事を考えたんだ。」

突然のその彼の言葉に、一瞬、心臓が大きく波打つ。

私の反応を見るように、クリスは言葉にポーズを置く。しかし私の頭の中には、このあまりに唐突な台詞に返す言葉は直ぐには浮んで来ない。

私の沈黙を感じると、クリスはまた穏やかに話し始めた。

「でも、ティブロンはどうしても車が無いと不便な場所だからね。僕はこんな風で殆ど仕事で家にいる事もないし、車を運転しない君にとっては、丘の上からじゃあ、毎日のベビーのデイケアの足さえ確保出来ない事になる。まあ、車の運転なんて練習さえして慣れてしまえば後はどうにでもなる物なんだけど。でも今回の話はあまりに急で、そんなことやってる暇もないし、君は君で今の所、自分のペースで生活出来る環境が必要だろう?
そんな事を考えていたら、僕のコンドから車で十分くらいの所なんだけど、丁度、ティブロンのフェリー乗り場の横に小さなホテルがあるのを思い出したんだ。 そこからは、サンフランシスコまでフェリー一本で往復出来るし、ホテルの周りにはスーパーからコインランドリーまで、生活に必要なものは全部揃ってる。
そのホテルを二月の一ヶ月間リザーブしたよ。これも相談無しで悪かったんだけど‥。三月が君の誕生日だろう?そのティブロンでの一ヶ月の時間を、君へのバースデープレゼントにするってアイデアはどう?」

「‥‥‥‥。」

何だかあまりに突然な話の展開に、一瞬言葉を失った。
まるで、魔法の杖がひと振りされたよう!

これまで自分がわけの分からない英語でノロノロやって来て、動けば動く程ドツボにはまって身動きがとれなくなって行くような状況を繰り返していた所に、クリスがさっと杖を振ると、一瞬にして運命のベクトルの向きが変わってしまった。

呆気に取られてすっかり止まっていた涙が、また栓が切れたように溢れて来た。
胸の中に重く冷たく凍り付いていた塊が、目からどんどん溶け出して、外に流れて消えて行くような気がした。

『クレイグの所に行かずに済む!』

すっかりベソをかいて泣きじゃくる私の声が明るく変わったのを確認すると、小さな子供を宥めるようにクリスが言った。

「引っ越しの日曜日には、僕もクリニックの休みをとって君と一緒にいるようにするよ。さあもう泣かないで。大丈夫だよ。」

今ではもうすっかりお決まりの挨拶になったクリスと交す『アイ・ラブ・ユー』の言葉が、今日は特別に大切な物に感じられる。

心が溶け出し満たされて行く‥。

 

 受話器を置くと、沸き上って来る喜びに顔が自然にほころんだ。
退屈したお猿はベビーベッドの中で、もう大の字になって眠り込んでいる。

ゆっくりソファから体を起こし、平和な寝顔を覗き込む。

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リスのようにぷっと膨らんだほっぺを人さし指でチョンチョンと突つくと、『邪魔しないで』とでも言うように小さな口がムニャムニャ動いて、それから一瞬薄目を開けたかと思うと、また彼女は小さな寝息をたてて夢の世界に戻って行った。

引っ越しまで秒読みに入った二日前。
空気が変わった。

明るい光が見えて来た!

 


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[2012/04/22 07:40] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード23

 日曜日の朝早く、クリスが大きなトラックを運転してアパートメントまで来てくれた。

本来なら、いよいよ今日は、クレイグの家へとムーブインする予定になっていた。
しかし今ではその状況もすっかり変わり、今日はクレイグにその事情を説明し、既に彼の家に移している殆ど全部の私の荷物をクリスと二人で引き取りに行く。


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 フリーウエイに車が入ると、緊張で体が少し震えた。クレイグの顔が頭に浮かびずーんと気分が重く沈む。
急に黙り込んだ私を見て、『大丈夫だよ』と横からクリスがウインクをくれた。

「君は何も話さなくっていいからね。僕が話す。第三者の僕が話したほうが、感情的にもこじれなくっていいと思うんだ。‥あ、もちろん君がそれでかまわなければの話だけどね。 」

かまうもなにも、そうしてくれるとどんなに助かるだろう。
でも、そんな風にクリスばかりに尻拭いを頼んでいいのかしら?

心の中で暴れまわる葛藤を押さえ込むように膝の上で握り締めた手の上に、大きな手がふわっと重なった。

「僕は英語は得意なんだ。」

心がふっと軽くなる。

 

 いよいよクレイグの家に到着すると、クリスはトラックを注意深くガレージの前にとめた。そして車を降りた後は、最初は私が前に立って玄関のステップを上って行った。

いざドアの前に立つと、胃がひっくり返りそうな緊張にこのまま真直ぐ回れ右をしてダウンタウンに引き返したい衝動に駆られた。でもすぐうしろにはクリスがいてくれる。大きく息を吸い込むと、爆弾のスイッチ‥じゃなくて、玄関の呼び鈴を一気に押した。

少しの沈黙の後、目の前のドアがさっと開いた。
中には『ウエルカム!』と大きく両手を広げたクレイグが立っていた。心なしか、顔にはまるで『もうどこにも行く所が無いだろう』と言わんばかりの勝ち誇った笑顔が浮んでいるようにも見える。
そんな彼も、直ぐに私の後ろに立っているクリスに気がついた。
満面の笑顔が一瞬曇る。
覚悟は決めて来たものの、そうして強張る彼の顔を見ると、また胃が飛び跳ねて暴れ出した。

脳みそが鷲掴みにされるようなプレッシャーを感じながら、もはや口を出てくる挨拶の言葉さえも自分で何を言っているのかわからない。そうこうしていると、後ろから肩が柔らかく掴まれ、私の体は大きな背中の後ろに引っ張られた。
目の前で、早口の英語が飛び交い始める。
まるで、今まで吹替えで見ていたアメリカ映画の音声スイッチが、急に英語のオリジナル版に切り替わってしまったようだ。いつも近くに感じるクリスが、今はクレイグ相手に『分からない言葉』を話している。急に彼が見知らぬ異邦人になってしまったような不安に、小さく胸がざわめいた。

「彼女の幸せが一番なんだから、自分は状況がどう変わろうとノー・プロブレムだ。かえってこれから彼女の生活がどうなって行くのかが心配だね。」

何が起っているのかよく分らないままクリスの背中ごしに会話の成り行きを見ていると、突然クレイグが声を張り上げ強く吐き捨てるように言うのが分かった。
驚いて声の方向へ目を向ける。
そこでは忌ま忌ましそうに引き攣った瞳が私の顔を睨んでいた。
刺すような視線に思わず体がブルっと震え、後ろからぎゅっとクリスの手を握ると、『心配しないで』と言うように、柔らかな手がポンポンと腕をたたいた。

話がすむと、あとはクリスと二人でただテキパキと持ち帰る荷物をトラックの荷台に積み込んだ。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベッドルーム, お洒落なベッドルーム, キルトベッドカバー

私が移る予定だった部屋は、もうすっかり新しい住人の為に用意が整えられていた。

ベッドにはちゃんと新しいキルトのベッドカバーがかけてある。窓にも柔らかな生成のカーテンが吊るされ、ドレッサーの上には、その日からすぐに生活が始められるように、ティッシュやコットン、タオルなどが可愛らしくセットしてあった。

『クレイグも彼なりに、私の新しい生活に心を砕いていてくれたのだ。』

一瞬ズンと重い物が心に落ちた。自分の未熟さがもたらしたこの結末に、何だかとても申し訳なく、そして悲しくなった。
掴み所のない感情の枝葉が織り成す迷路に落ち込んで、こんな風に人を巻き込みながらその人の気持ちを踏み躙るようなお粗末な解決の仕方しか出来なかった自分の未熟さに腹がたった。

しかし、どちらにしてもクレイグの中にあった色んな期待を考えると、これから共にビジネスライクな共同生活を送って行くのは到底無理な話だっただろう。
全ての荷物をトラックに積み終えると、複雑な思いを抱えながら彼の家を後にした。

 

 ダウンタウンのアパートメントに戻ると、それから最終的に契約の期限が切れるまでの約一週間、段ボール箱の山に埋もれながらそこでの最後の時間を過ごした。
そして一月の最終日、いよいよホテル暮しをするのに必要な荷物以外はストレージに預け、ティブロンのホテルにチェックインした。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ティブロン,  ティブロン ホテル, ロッジ, マリーン, 観光, ベイエリア

ホテルに移った最初の夜は、さすがに見慣れぬ空間の中で自分が迷子になったような心細さに襲われた。

今まで過ごして来た生活の欠片が一つも無い空間。
綺麗にコーディネートされた化粧水のボトルは他所々しく、キッチンの蛍光灯の明りには妙な苛立ちが沸き起こる。

しかし、幸か不幸か、元気を持て余すお猿が一緒にいては、いつまでもそんな塩で萎んだ蛞蝓のように落ち込んでばかりはいられない
気持ちも落ち着いた次の日からは、とにかく彼女の手を引いて、ホテルの周りの探索を始めることにした。

 

 ティブロン生活一日目の朝。
ホテルから一歩足を踏み出すと、まずは目の中にポーンと、どこまでも続く青空が飛び込んで来た。緑の丘に咲き誇った満開の桜が、遠くの風景に柔らかなアクセントを添えている。

潮の匂いの混じった空気を胸いっぱいに吸い込んで、『うーん』っと大きくノビをする。『かちっ』とスイッチがオンになる。
今まで燻っていた憂鬱が、頭の上にどこまでも広がる澄み渡った空の中にすっかり昇華されて行くような気がした。

ティブロンの街は、これまで何度かクリスと一緒に歩いた事があった。しかし、こんな風に一人で歩いてみるのはこれが初めての経験だ。
よく知っていたつもりのメインストリートの表情が、今日は何だか違って見える。

 

 スペイン語で『鮫』という意味を持った土地。

大昔、まだアメリカが『古き良き時代』であった頃、東から引かれて来た鉄道の最終点がここに置かれ、人々が街をつくった。今もそのレトロな街並には、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ティブロン, マリーン, ショップ, レトロ, ベイエリア ショップ, お洒落な店まるで西部劇のセットからそっくり抜け出して来たような、昔のままの雰囲気が静かに残されている。

開拓時代の建物を象った店の入り口では、人の形をした馬どめのリングがお客さんを出迎えている。

ついその先の角からは、ボンネットを被ったご婦人たちが、華やかに微笑みながら馬車を下りて来る幻をみる。

ここにはそんな時間を前に進める事など忘れてしまったかのようなのんびりとした風景が、美しい海を背景に佇んでいる。


船着き場までやって来ると、海に臨んだこんもりとした緑の丘に、絵本の挿し絵を見るように、可愛い家たちが引っ掛かるようにして建っているのが一望できた。
柔らかな芝生の絨毯が敷き詰められた海岸線のベンチでは、おじいちゃんが鳥たちと日なたボッコを楽しんでいる。時折、ヨチヨチ歩きのベビーを連れたママたちが、日溜まりの小道をゆっくりゆっくり通り過ぎて行く。

ティブロンという土地は、マリーンの中でも、昔から変わらない素朴な時間の流れの中で、人々がのんびりと海をみながら暮らす場所なのだ。

小さな新しいテリトリーの散歩を楽しんだ後は、今度は大通り沿いの石畳の歩道をゆっくり歩いて戻って来た。

途中、スーパー、銀行、郵便局、それにコインランドリーも見つけた。 生活に必要な物は全部歩いて三分以内の距離にある。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ヨットハーバー, ヨット, マスト, 海, マリーン, ティブロン, サルサリート, ベイエリア, サンフランシスコ湾, レジャーホテルの部屋には大きな冷蔵庫付きのミニキッチンもあって、クリスの計らいに感謝した。

案外最初の不安のわりには、ここでは普通に暮らすように時間を過ごしていけそうだ。

 

 今また一つ、私の人生に隠されていた物語のドアが開く。

このティブロンでの一ヶ月という時間の中、これからはダウンタウンの暮らしのように小さな箱に閉じこもってばかりはいられない。
生活に必要な物はほとんどホテルの外にある。ホテルの中では毎日色んな人たちと話しを交わす。
今までいた場所から外に出て、否応無しに自分を前に押し出して行かなければいけないステージの上に立った。

まずはとにかく、今日はぐっすり眠る事にしよう。

明日からはまた、何が始まって行くのだろう。
足を前に踏み出し続けている限り、全ては前に進んで行く。

 


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[2012/04/23 13:43] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード24

 Time flies.
ティブロンに来てから、もうあっという間に二週間が過ぎた。

子猫のように体を縮めて怯えていた初日の不安はどこへやら、今ではすっかり、このメイドサービス付きのホテル暮らしに甘やかされて、どっぷり伸びきった私がいる。


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シーツは毎日、ピーンと糊の効いた清潔な物と取り替えてくれる。お猿が床に散らばした紙屑も、昼には魔法のようにきれいに掃除されている。
ああ、幸せ‥。
これではダウンタウンのアパートメントに戻る時には大変だ。うーん‥。

 

 まあ、今でこそ偉そうにそんな暢気なことも言ってられるのだけれど、やっぱり最初のうちは大変だった。

ホテル暮らしの状態では、洗濯をするのにもいちいち大荷物を抱え、大通りを渡った所にあるコインランドリーまで行かなければいけない。
初めて使うその巨大なランドリーマシンの使い方がよく分らずに、機械にくっ付いている『英語』の取り扱い説明を、辞書を片手に端から読んでみたりもした。

またホテルの部屋で、家にいるのと同じ気分でパンツ一丁姿のまま昼寝をしていたら、留守だと思ったメイドが急にどかどか入って来て、掃除をしようといきなり布団をひっぺがした‥。

こんな『恥ずかしくて口にするのもためらわれるような失敗を並べろ』と言われたら、自慢じゃないけど、百科事典のシリーズ分くらいは軽く本棚に並んでしまう。
優雅なホテル生活も、裏を返せばこんな間抜けなハプニングの連続だったりするのは私の場合だけだろうか?

しかし、『慣れ』というのは頼もしい物で、最初はストレスの源でしかなかった毎日の不器用な驚きたちも、時間の経過とともに、いつしか新しい生活に振り掛けられるスパイスとして楽しみ始めた自分がいる。

 

 さて、ティブロン生活の始まりで慣れるのに大変だったことの一つに、お猿のデイケアへの送り迎えがあった。それには何とフェリーを使って、毎日ティブロンからサンフランシスコまで湾を渡って二往復する事になった。

観光気分ならいざ知らず、この初めてのフェリー体験、最初はなかなか勝手が掴めずに苦労した。
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最初は船に乗るチケットさえもどこで手に入れたらいいのかさっぱり分らなかった。

船の時間も朝と夕方の便だけしかなく、午後の最終便に乗り遅れたりしようものなら‥、それはもう、想像したくもないような大変な事になってしまう。

しかし、そんな事も慣れるにつれて、このサンフランシスコ湾のクルーズは、毎日の楽しみに変わって行った。

 

 毎朝早い時間、姫林檎を一つ手にもたせたお猿をストローラーにのせてホテルの部屋を出る。大通りを渡り、まだ人の姿も疎らな石畳の歩道まで出て来ると、そこからはゆっくり、小さな手を引きながら、船着き場まで歩いて行く。途中、大きな犬を連れてジョギングをして行く人たちが、ヨチヨチ歩きのお猿を見て、『ハイ!』と爽やかな挨拶を投げ掛けてくれる。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 子供, 女の子, ハト

船着き場までやって来ると、フェリーの到着を待ちながら、お猿と二人芝生のベンチに腰かけて、そこらに群がる人懐っこい鳥たちにポケットのビスケットを振る舞う。

カモメが群れ飛ぶ早朝の波止場にはまだ人の姿もなく、停泊する沢山のヨットのマストたちが、カコーンカコーン‥と澄み切ったサウンドを奏でている。

 

 一時間に一度、フェリーが船着き場に入って来る。
その船の到着の時間が近付くにつれて、ゲートの周りにも人が集まって来る。

このティブロンのフェリー乗り場、朝には、そののんびりとした田舎の風景には似合わない、シックなキャリアスタイルに身を固めた人たちが列を作る。
午前中にここを出航するフェリーの便は、湾を渡ると、サンフランシスコのビジネスの中心地であるファイナンシャル・ディストリクトのフェリー・ステーションに入って行く。その金融街で働く人たちが、このフェリーを、ティブロンからの通勤の足に使っているというわけなのだ。

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そんな乗客で埋まったフェリーのキャピンは、まるでアメリカ・キャリア社会の縮図を見ているよう。

しかし、その中に見るこの我が身の姿といったら‥。

仮住まいのホテル暮らしに持って来たヨレヨレのジーンズに、着古しの真っ赤なGAPのトレーナー。
仕上げにはワイルドなお猿が大五郎状態でくっ付いて‥。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フェリー

二人が放つオーラには、ただでさえベビー連れなんて、増してやアジア系なんて殆ど皆無の船内では、心なしか、周りの乗客の頭の上に『?』のマークが飛んでいる。

‥まあだからと言って、別にこのフェリーの中で婿捜しをしているわけではないのだから、お天道様は許してくださるにちがいない。

 

 フェリーがティブロンの小さな船着き場を出航すると、それからサンフランシスコまでは二十分程の航海が楽しめる。

青く深く広がる海原の面に、バシャバシャと二本真っ白な飛沫の尻尾を描きながら、船は悠然とサンフランシスコ湾の中を進んで行く。
遠くの方には、マリーンとシティーを陸路で結ぶゴールデンゲートブリッジが、頭を霧の中に隠しながら、オレンジ色の美しい姿を海の上に浮かび上がらせている。
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ブリッジが後ろに小さくなると、今度は荒んだアルカトラス刑務所の廃虚が残る小さな島が見えてくる。
あの、アル・カポネも収容されていたという、昔、沢山の憎しみや哀しみがぎゅっと詰って動いていた過去の空間のすぐ横を、今はこうして、幸福な人たちを乗せたフェリーがのんびりと行き過ぎる。

そんな航海を楽しみながらサンフランシスコに到着すると、そこからはチャイナタウンの坂を抜けるバスに乗り、お猿のデイケアまでたどり着く。

彼女を預けた後はまたフェリーに引き返す。
しかしティブロンまで戻るフェリーに乗るのには、今度は今来たファイナンシャル・ディストリクトのフェリー乗り場ではなくて、それより北の、フィシャーマンズ・ワーフのフェリー乗り場へ向わなければいけない。
サンフランシスコからティブロンに戻るフェリーは、朝はフィッシャーマンズワーフ、夕方はファイナンシャル・ディストリクトから出ているのだから、間違いないようにしなければまたとんでもない事になってしまう。

 

 フィシャーマンズワーフからティブロンに向かうフェリーも、やはり一時間に一本の割合で港を離れる。
最近ではフェリーの出航を待つ間、港に面したバーガーショップで軽い朝食を取るのが日課となった。

シックスティーズのダイナーの雰囲気をそのまま残したバーガーショップ。
観光客で毎日賑わうフィッシャーマンズワーフの中心にありながら、朝はその中途半端な時間の為か、いつ行ってもお客さんで混雑している事がない。
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何日か続けて通う内に、もう中のスタッフたちとはすっかり友達になった。

ドアを入って席に着くと、何を言う前から、ぱりっと白いシャツに蝶ネクタイを締めて、腰にはピシッと長細いエプロンを巻いたウエイターのジェフがコーヒーをテーブルに運んでくれる。

「おはよう。天気いいね。」

「うーん、でもまあ、あんまり毎日代わり映えしないね。今日は何か特別にする事でもあるの?」

何でもない平凡な会話の裏側が、居心地のよい一日の始まりで満たされる。

オープンキッチンのカウンターの中では、コックのエリアスが毎朝飽きずに玉子とベーコンを焼いている。ベーコンがカリカリに焼ける匂いが、寝ぼけ眼の胃袋にカウンターパンチを効かせてくれる。
出来上がったお皿をジェフにバトンタッチした後は、次は私のお皿を作る番。
注文のビルを確認すると、彼は私に目線を向けて戯けた様子でスペイン語で何か言った。
最近では、注文した料理に添えて、お皿の片隅にプチトマトやソーセージといった可愛い『おまけ』が付いて来るようになった。

船に乗り込む時間が近付くと、観光客の流れに乗りながら、防波堤に沿ってゲートまでゆっくり歩いて行く。列に加わり搭乗開始を待つ間、時々日本語が耳に飛び込んで来る。懐かしいサウンドに目が走り、ジッとその顔を眺めてしまう。
そこにある空気の中に日本を探す。

彼らは日本のどこから来たのだろう?そしてまた、どこに帰って行くのだろう?
私もいつかはお猿を連れて自由に日本に帰れる時が来るのだろうか‥?

胃の底がクッと小さくへこむ。

 

 夕方、またお猿をサンフランシスコに迎えに行く時間には、ティブロンのフェリー乗り場はその表情をガラリと変えている。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, フェリー, ティブロン, サンフランシスコ湾,  海上交通, 船
午後の船着き場には、フェリーに乗る人たちに交じって、サンフランシスコから帰って来る家族を出迎える人たちも集まって来る。

少し早めに仕事から帰って来たパパが船を降りてくるのを見つけるや否や、やんちゃなチビたちが一斉にゲートに駆け寄って行く。

またこの子供たちというのが、まるでもう、すっぽりそのまま子供向けのファッション誌から抜け出たように可愛いらしい。

イッチョ前にストリート風に着崩たダボダボのスエットシャツからは、小鹿のように弾ける細長い手足がニョッキリ付き出している。クリクリふわふわの金色の巻き毛の下からのぞく天使のような悪戯盛りの瞳には、つい目が吸い寄せられて行く。

体をよじ登る子供たちにモミクチャにされながら、パパとママは、柔らかな午後の光の中で百年分のハグを交わす。
うーん‥、これはもうまるで、完璧な程に美しいファミリー映画のワンシーンを見ているよう。

‥しかしここで一つ、私の胸には大きな疑問がわき起こる。

こんなロマンティックな風景の中で『何を無粋な』と叱られるのを覚悟で言ってしまうと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 坂井浩子, ひろこ, hiroko sakai, hiroko, ファッション,  ボーグ, モデル, ファッションモデル, セレブ, スーパーモデル, 美しさの秘密,はたして、この非現実な程に洗練されたママたちの美しさはいったいどこから来るのだろう?
毎日、こんなにヤンチャな子供たちに『揉まれて』いるはずであるのにも関わらず、お肌はツルツル、しかもそのスラッと白くて細い腕には、まるで『一度もベビーなど抱いた事はありませんことよ。オッホッホ!』なんて余裕で微笑んでいるかのように、どこにも余分な筋肉など付いていない。

自慢じゃあないが私など、お猿を産んでからというものは、毎日米袋といい勝負をする重たいヤツを腕に持ち運び、夜中は夜中で何度もミルクに起こされて、暫くは寝るのも忘れて女を捨てきったような生活を送っていた。
おまけに小さな脳みその成長につれて、今度はそれに、なんとも独創的な悪戯が加わってくる。
そんな毎日の忍耐修行のお陰様で、今では額にもうっすらと皺が一本刻まれたような始末である。

似たような状況の中で、このブートキャンプ‥じゃくて、育児の苦労を潜り抜けて来た筈の彼女達、いったいどこに、そんな瑞々しさが沸いて来る余裕の源があったりするのだろう?

 

 とまあ、最初は七不思議だったその謎も、しばらくティブロンでの生活を送る間にその手の内が見えて来た。

ここティブロンでは頻繁に、ヒスパニックの女性たちが、何だか『どう見てもそういう遺伝は不思議だぞ』状態の明るいブロンドの子供たちを連れて歩いているのを見かける。
最初のうちは単純に、『いやにティブロンという場所は、昼間はヒスパニックの主婦が多いなあ』なんて思っていた。
『白人の女性は皆キャリア思考を持って、昼間はシティーへ働きに行ってしまうのだろう。やはりヒスパニックの女性たちの方が、キャリアよりも家族の繋がりを大切にしているものなのかしら?そんな所にも人種の差が出て面白い物だなあ。』
‥なんて、自分なりに勝手な解釈を作り上げて納得していた。

しかし、程なくそれは、全く的外れな勘違いであるということに気がついた。
実はこの子供連れのヒスパニックの女性達、何を隠そうその実体は、お金持ちのお子様のお世話をする『ナニー』だったのである。

お陰様で全ての謎は、水戸黄門の印籠の前に落着した。。
あのフェリー乗り場で見るママたちの美しさを支えていた秘密兵器は、こういったナニーたちの存在だった!

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日頃のワイルドなチビたちの世話はナニーやメイドたちに任せ、自身はエリート夫の社交の華を勤めるべく、アートや文化を慈しみフィットネスに励む毎日。
‥失礼しました。

まだまだ世界は自分の知らないことで満ちている。

 

 自分の顔を鏡に映してみる。
そこには、今まで私が歩いた時間のすべてが描き出されているような気がする。

あり余るお金に囲まれて、美味しい物だけを食べながら優雅に生きて行けることに憧れたりもするけれど、私は私、お猿のたった一人の母親として、毎日彼女が繰り広げていく様々な表情を、ひとつひとつ、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 手, 愛, 母性, 母親と子供の手, 幸せ, 幸福, 家族, シングルマザー, 愛情, 親子, 子育て, 母一緒にこの手に感じていける距離というのが、自分にとっての丁度いい幸せ具合だと思う。

十人十色。自分の世界は、自分が一番心地よく過ごせる色で塗って行こう。
そうして時間を広げていく限り、たとえちっぽけな世界でも、その中では決して自分を見失って迷子になったりする事はない。

毎日海を渡る。

全ての生命が海から産まれて来たように、今、私の時間もリセットされて、このティブロンの深い海からまた新しい枝葉がのびて行けばいい。

 


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[2012/04/25 08:23] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード25

 朝一番、電話のベルで目が覚めた。


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まだ夢の中に片足を残した状態のまま受話器を取ると、痺れた頭に張り切ったクリスの声が響いて来た。

「ハッピー・バレンタインズ・デイ、スイートハート!‥ごめん、起こした?」

突然飛び込んで来たテンションの高い声に不意をつかれ、頭の中でノロノロと言葉が纏まらない。そんな私の返事など待ってる暇もないといった風に、クリスがせっかちに言葉を続けて来る。

「今、クリニックに向かう車の中で、あんまりゆっくり話せないんだ。でも、今日は一日病院に入ってバタバタしそうだから、電話かけられる時に早めに君をつかまえておこうと思ってね。今日夕方会える?バレンタインのお祝をしようよ。」

‥バレンタインズ・デイ?
ああそう言えば、今日はもう二月の十四日。
最近の目紛しい生活の中では、そんな物を気にする事さえ忘れていた。
クリスもここ二、三日、難しい急患が入って病院に缶詰めが続いているとこぼしていた。 でも、ちゃんと気にしていてくれたんだ!
頭の中にかかった霧が一気に晴れて行く。

「今日は絶対!誰が何と言っても病院を五時に抜けて来る。どこかでいいワインでも開けて美味しい物を食べよう。」

ちょっと芝居がかった言い回しで、クリスが言葉を続けている。こんなに朝早くから、よくもそんなに飛ばしていられるものだ。

「いいよそんなに頑張らなくっても。最近あんまり寝てないんでしょう?今日は私がホテルの部屋で何か用意する。お猿もいるし、レストランなんかに出て行くよりはお互いリラックス出来ていいんじゃない?」

「そう?‥うん、そう言ってくれると有り難いな。六時にはティブロンまで戻って来れると思う。今晩はペイジャーもスイッチをオフ!君とゆっくり時間を過ごすんだ。あ、今ゴールデンゲート・ブリッジ越える所。電波悪くなるからこれで切るね。」

子供のように浮き浮きとした声でせっかちに用件を伝え終わると、クリスはさっさと電話を切った。‥まったくいつもながら忙しないヤツ。
時計を見ると、そろそろ七時のアラームが鳴り響く時間になっていた。

『バレンタイン・デーなんて気にしていてくれたんだ。』

ひとりでに緩んでくる頬を、両側から指で軽くつねる。
普段のクリスの殺人的なスケジュールを考えると、これはもう奇跡に近いような気がした。

この恋人たちの日『バレンタインズ・デイ』、欧米では日本のそれとは反対に、男性が女性に愛を告げる日となっている。サンフランシスコのキャンディー・ショップ、今日はどこも、朝から男性陣がつくる長い列で一杯に混合っている。

 

 夕方、日が暮れ始めた頃、お猿をピックアップしてファイナンシャル・ディストリクトのフェリー乗り場まで戻って来ると、いつもは静かなその桟橋が、今日はまるでお花畑にいるように沢山の花束で埋まっていた。 ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベイブリッジ夜景, フェリーステーション夜景, 夜景, 湾夜景

フェリーを待って列をつくる男性たちの腕の中には、大きな花束やチョコレートのお包みが大切そうに抱えられている。
海を渡って家に帰ると、それぞれにロマンティックなバレンタイン・ディナーが待っているのかな?

色とりどりに輝くイルミネーションのライトが鮮やかに、暗い海の上にベイブリッジを浮かび上がらせている。
建ち並ぶ高層ビルの窓々には無数の琥珀色の光の粒がちりばめられ、ほうっとため息を誘っている。

サンフランシスコの街中が煌めきながら、恋人たちの優しい時間を祝福してくれている。

 

 フェリーがティブロンの船着き場に着く頃には、もうすっかり日は落ちていた。
下船する乗客の流れに加わって桟橋に降り立つと、薄暗いゲートの片隅に、クリスの立っている影が見えた。

ドキンと心臓が強くうつ。

彼の腕には、桟橋から漏れるオレンジの灯に照らされて、街中のフラワーショップから買い占めて来たような巨大な薔薇の花束がずっしりと抱えられていた。

普段ならば、ちょっと近付くのも躊躇われるような、このドラマティック過ぎる光景。
しかし、今日一日、サンフランシスコ中の男性達の花とキャンディーにかける情熱に当てられてしまった後では、こんな風に私を待っていてくれた存在にたまらない愛おしさを感じた。

込み上げて来る照れ笑いを押さえながら、ゆっくりと桟橋を渡って行く。そしてゲートの前まで来た所で、そのまま磁石に吸い付くようにブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, バラの花束, ブーケ, 薔薇クリスの体を抱きしめた。

'happy valentain's day, sweetheart.'

むせ返る薔薇の匂いに息が詰まる‥。

 

 「マミー‥。セ‥チャ、ウキャキャ!」

‥と、そんなロマンティックな気分も束の間、今までストローラーの中で静かに座っていたお猿がグイッとクリスの足を引っ張った。突然聞こえた奇妙な音に、キスを交わしながら同時に吹き出してしまう。
二人一緒に見下ろされた顔を見て、お猿は嬉しそうに小さな腕をバタつかせると、後は満足したように、言葉にならない音で何かおしゃべりを始めた。

クリスの瞳が優しく笑う。

'this is for you. young lady.'

ロマンティックにそう言って、花束から薔薇を一本抜き取ると、それをお猿の手に渡した。

'and this is for you, mommy'

気軽な調子でぽんと花束を私の腕に渡すと、クリスはストローラーのハンドルを握りホテルに向かって歩きだした。

花束は驚く程重かった。

すっかり日も落ちた船着き場。
フェリーが最後の乗客を乗せて桟橋を離れて行く。
海岸線は静寂に包まれ、ただ、暗い海に張り出したイタリアンレストランのデッキから流れるざわめきが、夜の港に気だるい活気を漂わせている。

海から吹く風はまだ冷たい。横を歩くクリスの腕にぎゅっと頬を埋める。そうして大きな胸の柔らかな温もりと腕いっぱいの薔薇の香りに包まれながら、ゆっくりゆっくりホテルに向かって歩いて行った。

 

 ホテルに着いて部屋のドアを開けると、今度は私が幸せのピックリをあげる番。

「ああ、いい匂いだ。」
クリスが鼻をヒクヒクさせながらドアを閉める。

部屋の中は、今日一日の私の奮闘のにおいで満ちている。お猿のお迎えにサンフランシスコへ向かう前にセットを済ませたテーブルが、美味しい物で埋まって行く。

コーンとマッシュルーム入りのトマトソースでブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ディナーテーブル, ロマンティックなディナー, キャンドルライト, レストラン, 記念日, 特別の日, お祝い, ロマンス, 恋人コトコト煮込んだ素晴らしく柔らかなチキンのお皿の横には、野菜をたっぷり加えたカントリー風シチューが湯気をたてる。

そんな洋風料理の隙間には、アスパラをサラッとお醤油でソテーしてカツブシをふりかけた日本の一皿。

チーズは二、三種取り混ぜて、色合いのアクセントに山盛りのフルーツを真ん中に置いて、クリス持参のシャンパンのコルクをポンと空けると、早速ディナーがスタートした。

人工的な明りは消して、部屋中をキャンドルの灯でいっぱいにする。
薔薇の香りに包まれた空間に流れる静かなシャンソン。
柔らかな会話。クリスとお猿の笑い声‥。

この優しい時間が永遠に続けばいい。

 

 「マリーンの方に移る気はないの?」

ワインのボトルも終わりに近づき、丁度空っぽになったお皿にお代わりのチキンをサーブしようと席を立ったのと同時に、すっかりリラックスした様子のクリスがそんな事を聞いて来た。

「僕達の付き合いって、君がティブロンに来てから随分楽になったような気がするんだ。あんまり現実的な話で悪いんだけど、やっぱり、ゴールデンゲート・ブリッジ越えたダウンタウンで会うのとマリーンで会うのとじゃあ気分的にすごく違うよね。」

「‥‥‥。」

唐突な話の切り出しに、返す言葉が直ぐに出ない。そのまま大鍋のチキンを突きながら少し言葉を考えてみた。

マリーンで暮らす。
正直、今までの生活の中で、そんな事を考えてみる機会は全くなかった。
漠然と『マリーンはいい所だなあ』と思う事はあっても、実際自分がそこに住むということになると、これはまた全然別の話だ。
夢を見るのは簡単だけど、現実問題、このティブロンやそのお隣のミル・バレー、もう超高級住宅地のエリアになっていて、庶民には逆立ちしても手は出ない。‥と思う。

しかしクリスの言うことも一理ある。
『恋に距離は関係ない』なんていうのは、時間とエナジーを持て余していた学生時代のファンタシー。実際社会の中に組み込まれれば、それなりに色んな制約が産まれて来る。

ダウンタウンにいる頃は、忙しいスケジュールの隙間を縫うようにして、ゆっくり二人で時間を持てるのも月に何度かあればいいといった状態だった、しかしこのティブロンに来てからは、車で2、3分という距離が朝の早いクリスを安心させるのか、仕事の帰りに夜遅くでもちょくちょくホテルに立ち寄って、リラックスした時間を過ごして行くようになった。
シフトの具合で時間が合えば、朝、船着き場に車を置いて一緒にフェリーでサンフランシスコまで渡る。そしてまた帰りはフェリーステーションで待ち合わせをして、一緒にティブロンまで帰って来る。
今まで二人の間にはなかった新しい時間の接点たちが、自然に顔をのぞかせて来た。

それに加えて、今、私の中にもマリーンに対する憧れが少しづつ膨らみつつある。
いつかはこの時間を忘れた美しい土地で、穏やかに海を見ながら暮らせたらどんなに素敵なことだろう。

マリーンの中でも、一番サンフランシスコ寄りのサルサリートの方に場所を捜せば、まだ可能性も全くゼロではないような気がする。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, サルサリート, ボートハウス, アーティストライフ, ヨットハーバー, マリーン, アーティストの生活

サルサリートは若いアーティストたちが集まる街。
海岸沿いのストリートには沢山のギャラリーが顔を並べ、週末になると、ちょくちょくアート・フェスティバルなども開かれていたりする。

あんまりお金を持たないアーティストたちでも、船着き場の一角にボートを改造した家を造り、またそれらが集まって独特のクリエイティブなアーティスト集落を形成していたりする。

「ちょっと考えてみる。今すぐってわけにはいかないけど。ビザの手続きとかコートだとかで、まだダウンタウンにいた方が便利な事が色々あるからね。でも考えてみるよ。マリーンに来るなら車の運転も練習しなきゃあ。」

私の言葉を聞いて、大きく切ったチキンの一切れをモングと口に放り込むと、クリスは嬉しそうにニッコリ笑った。

 

 食事が済むと、後片付けをする私の横でしばらく興奮してはしゃいでいたお猿が急にコトンと寝入ってしまった。クリスがひょいと、その平和な身体を抱き上げてベビーベッドに運んで行く。
軽い旋律を奏でていたシャンソンが、クリスのお気に入りのブルースに変わった。
気だるいスローなエレキギターの音に、空気の色が変わって行く。

‥と、洗い物をする私の体が、後ろからふわっと抱き上げられた。

「ちょっと‥、まだお皿残ってるんだよ。」

そんな言葉など聞かないふりで、泡だらけの手が髪をつかむのも構わず、クリスはそのままベッドルームまで歩いて行くと、まるでクッションでも置くようにして私を小さなベッドの隅っこに座らせた
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しなやかな長い腕が、まるで迷子になるのを恐れる小さな子供のようにぎゅっと私の体を掴んでいる。
外ではERのドクターとして疲れ知らずに走り回るクリスが、二人っきりになった途端、こうして赤ん坊のように甘えて来る。

何とも言えない愛おしさがじんわり胸に滲みて来た。

重たい体を腕の中に抱き包みながら、静かに頭を撫でてみる。
柔らかな髪が指に絡み、そしてすぐにサラサラと解けて行った。

 

 五分もすると、もう眠っているのかリラックスしているのか‥、まだ、私の腰にしっかりと両腕をまわして目を瞑ったままのクリスから、クークー安らかな息が聞こえ始めた。そんな様子を見守りながら、別にこれといってする事のない私は、指にあたる柔らかなブロンドの髪で小さな三つ編みを編み始めた。

『フフフ‥。』

そういえばこの明るい髪、ここ最近ではすっかりお猿の『被害』に曝されている。

クリスが食事に寄る日には、夕方三人でホテルの横のスーパーにお買い物に行く。そんな時のお猿のお気に入りはクリスの肩車。
背の高い彼がお猿を肩に乗せると、彼女はクリスの髪を『手綱』代わりにムンズと掴み、そこから見える高い目線がとてもお気に入りのご様子。
時々あんまり興奮して、肩の上で髪の毛をぶんぶんに引っ張りまわしたりするものだから、その度にクリスは、『もうちょっと加減して掴んでくれよぉ!髪の毛無くなったらママからも嫌われちゃうだろう!?』なんて、まだ言葉も話さないお猿に冗談とも本気とも分からない泣き声で頼んでいる。
二人の顔が頭に浮び、思わず『クック』とお腹が笑った。

クリスがふっと片目をあける。
『どうしたの?』とでも言うように眠たそうに頭に手をやると、彼はそこでニヤリと笑った。

'bad girl'

ゆっくり体を起こしながらパタパタと軽く頭を払うと、その不思議な色の三つ編みは、すぐにサラサラと解けて行った。

何度か髪を掻き揚げて頭を元通りに整えた後、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 薔薇クリスは両腕で私の肩をぐいっと掴んだ。

むせ返るような薔薇の香りを嗅ぎながら、大きな体が覆い包むように重なって来る。

私の中に、またクリスを感じ始める。
欠け落ちた体の半分が一つにくっつき、全ての隙間が満たされていく‥。

 

 二月の真ん中にあるバレンタイン・デー。
ティブロンで過ごす時間も、もう半分終わってしまう。

過去と未来の幕間を漂よう時間の中で、沢山の扉が開いて行く

 


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[2012/04/27 08:12] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(2) | page top↑
エピソード26

 ティブロンで過ごす最後の週末。
この週末は、お猿はビジテーションでヘイワードの方に行ってしまう。


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コーヒーを啜りながらお猿の用意を整えていると、誰かがドアをノックする音が聞こえた。九時十五分前。フレッドのお迎えだったら、彼とは九時にロビーで会う事になっている。

『誰だろう?』

のぞき穴の向こうには、フレッドの妹のアイリーンが立っていた。
全く思わぬサプライズ!
ドアを開けるや否や、私の体は胸に抱いたお猿ごと大きなハグで包まれた。

「元気そうだね、よかった。色々あって大変だったね。」

変わらない人慣つっこい笑顔に、懐かしさが込み上げて来る。

「今、丁度コーヒーが入ったとこ。飲んでく?」

「うんまあ‥あんまりゆっくりもしてられないんだけどね。ベビー、ヘイワードに送ったら、またその足でサン・ホゼまで行かなきゃいけないから。
あ、今日はフレッドが急に仕事入ったって事で、急きょ私が代わりにピックアップに来たってわけ。‥うん、やっぱりコーヒー一杯だけ頂いていこうかな。」

相変わらず少し神経質な音を響かせながら、次々と言葉が彼女の口を飛び出して来る。

「ああ、そうそう忘れないうちに。これフレッドから預かって来たんだけど。何だろうね。まあ封がしてあるから後でゆっくり中見てみて。」

そう言って鞄からオレンジの封筒を取り出すと、ぽんっとテーブルの上に投げ置いた。

 

 フレッドの三兄弟の中では末っ子になるこのアイリーン。年が同じだという事もあって、ヘイワードの暮らしの中では唯一、言葉のバリアを感じる事もなく一緒に時間を過ごせた相手だった。
慣れない生活の中で四苦八苦する『義姉』を気遣って、時々ふらりと立ち寄っては、お互い特別に何をするわけでもなくベビーと遊んでコーヒーを飲んで‥。そんな気楽なつき合いが出来る彼女が好きだった。

今ではこうして穏やかな顔を見せている彼女も、若かりし頃はドラッグなどの問題で、家と刑務所を行ったり来りしていたという。そんな過去にあった凄まじい苦しみの軌跡を残すように、今でもその左腕には、大きく掻き割った傷跡が残っている。
仕事も未だ気分次第で転々と落ち着かないアウトローな彼女だったりするのだけど、そんな固い殻の内側には、とても脆い、繊細な優しさが隠れている。

以前、まだ十七、十八才の若い頃に、彼女も一度結婚していた事があったと話してくれた。しかし、その結婚生活というのがとてもひどい経験だったらしく、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 女性の横顔, 窓, ブロンド, 哀しみ, 涙, 感情, 美しい女性, 絶望, 希望その後はずっと一人で通している。

『このアメリカってとこは、男はみんな下衆野郎ばかりだからね。もし、この先また誰かと結婚する事があったとしても、もう愛情なんて期待しないよ。ただ、キッドの種と生活の保証をしてくれて暴力振わないヤツだったら、もうそれで儲け物だと思わなくちゃ‥。愛だとか恋だとか甘ったるい事言ってるうちは、まだ実際の生活なんて見えてやしない。』

優しくベビーを腕に抱いて、窓の外に遠い何かを見つめながらぽつりぽつりと言葉をこぼす静かな横顔が、今でも胸に残っている。
落ち着いた瞳の中にある悲しさが、彼女が過去に潜り抜けた時間の欠片を映していた。

 

 アイリーンと二人、キッチンのテーブルに陣取って、長い空白の中にあったお互いのストーリーを語り出すと、いつの間にか時間は飛ぶように過ぎていた。
すっかり冷めてしまったコーヒーのカップにお代わりを注ごうと私が席を立ったのを合図に、彼女は思い出したようにバタバタと帰り支度に取り掛かった。

「また、今度改めてゆっくり会いに来るから。あ、これ私の携帯の番号。何かあったらこっちに電話して。」

ベビーのバックを肩に担ぎ、小さなノートの切れ端を私の手に渡しながら片腕で軽くハグをくれると、彼女はそれまで大人しくテーブルの足元で遊んでいたお猿の手を取った。

アイリーンに手を引かれドアを出て行きながら、お猿が少し不安な顔で私の方を振り返る。 『いってらっしゃい』と無言の笑顔で見送って、二人が出て行くドアを閉めた。

 

 一人になると急に部屋が淋しくなった。

キッチンに戻り、すっかり冷たくなったコーヒーを啜る。テーブルの上にはオレンジの事務封筒が残っていた。

『なんだろう?』

コーヒーをもう一口ぐいっと口に含むと、嫌な予感を押さえながら、早速そのフレッドから託されたという『お土産』の封を開けてみた。

中から出て来たのは、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 封筒, コーヒー, テーブル, 書類, 手紙もう今では見慣れたコートの書類一式だった。
一瞬分けが分らずに、その物々しい紙の束に目を通してみる。ここまで来れば、これはもうりっぱな嫌がらせだ。

『いったいフレッドは、今度は何がしたいというのだろう?』

動転する頭で、そこにびっしりと英語で書き並べられた項目を読み進んで行くうち、 もはや呆れて空いた口が塞がらない気分になった。

『今や定住地を持たず、ホームレスのように滞在先を転々とする生活を送っている女性には、ベビーの母親としての資格は無い。ドラッグやアルコホリックの問題もまだ疑わしい事であるし、父親として、そんな人間にベビーを託しているのはとても心配だ。それに対して、自分にはちゃんとした仕事があり、ベビーにとっての責任感溢れる父親である。こうして状況を対比してみると、自分こそが子供の親権を持つ者に相応しい‥うんぬん、かんぬん‥。』

そんな事が今回もまた、ご丁寧に毎度ドラマティックな作り話も加えながら、何ページにも渡って書いてある。

責任感溢れる父親‥?
言っては悪いが、『へそが茶を沸かす』という言葉がこれほど相応しいジョークにはそうそうお目にかかる事もないだろう。

確かに収入の面『だけ』で言えば、フレッドはシリコンバレーのエンジニアとして、なかなかいい給料を稼いでいる。
しかし実際の生活では、稼ぐのを上回って子供のように考えなしにお金を使ってしまう彼の悪癖に苦しめられて、家計はいつも火の車だった。

葱の根っこまでかじるような生活の中、私が妊娠期間中に買えた物といったら、$20のマタニティー・ジーンズが一本だけ。無茶苦茶なクレジットのヒストリーのおかげで銀行からも閉め出しをくらい、結婚生活を送る銀行の口座でさえも、私の名前との共同口座でやっと開けたような状態だった。
コートで決められたベビーの養育費負担、チャイルドサポートにしても、最初の頃には全く払ってくれる気配がなく、結局はまたコートで、毎月給料から直接天引される処置を取られてしまったような男である。

いったい、これのどこから『責任感』などという立派な言葉が飛び出して来たりするのだろう?
全くフレッドの冗談のセンスにはいつも感心させられる。

今回の引っ越しについては、ビジテーションのピックアップの関係などもあって、前々からフレッドには全て状況を説明していた。急な家賃の値上がりからこのティブロン生活に至った過程まで、何か状況が変わる度に、その都度概要を伝えていた。
それがあの狸には、ベビーの親権をとる絶好のチャンスに映ったようだ。

カリフォルニアの法律では、親権を保持する条件の中に、『子供に安定して安全な生活を与える事が出来る定住地を持っていること』という項目がある。
結局フレッドは、私のこのホテルでの仮住まいの状況を利用して話を作り替える事によって、親権を取る恰好の口実が出来上がるとでも思ったのだろう。
そんなお目出度い短絡思考には、もうほとほとうんざりだ。

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これまでフレッドはこのティブロンにやって来ても、『なんて素敵な場所なんだ』なんて、上機嫌のお上りさんよろしくはしゃいだ様子を見せていた。ホテル暮しについても、特別何かを質問したり文句を言って来たりする事もなく、私も全てがうまく行っている物だと疑いの欠片も持つ事がなかった。

それが、今日のこの『爆弾』である。
それも自分はこそこそと陰に隠れて、この『果たし状』を、何も知らない妹に託すこずるさ‥。こちらのほうが情けない。

 

 フレッドのクリエイティブな才能に溢れる馬鹿げた書類を読み進む内、胸の中には、怒りとも悲しみともつかない強い感情が突き上げて来た。

今までコートが持上がる度に、沢山の人たちを巻き込みながら、ミーティングに時間を費やし、面倒な行程を一つ一つ乗り越えて来た。そうして今、やっと親権の行方も決まりビジテーションのスケジュールも整理されて、これからはもう、コートやフレッドに掻き回されることもなく新しい生活の基板づくりに集中出来ると安心した矢先、それがまた、こんな蛭のようにしつこくて気紛れな彼の策略で、理不尽にもコートまで引っ張り戻されてしまう。
また、一から弁護士とのミーティングに振り回され、ミディエーションでヘイワードまで引っ張り出され、そんなごたごたが繰り返されて行く。

『いったいいつまで、あんな男に私の生活が振り回され続けなきゃいけないのだろう‥?』

混み入った思いがごちゃごちゃに交差してぶつかり合い、突き上げて来る収集のつけようのない感情に、胃が掻きむしられる思いがした。

『今度のコートでは、もしかしたらベビーを取り上げられてしまうかもしれない。』

思わず両腕で自分の体を抱きしめる。
まるでそこにある何か無気味な力が、私から全てを根こそぎに剥ぎ取って行くような恐怖を感じた。

 

 それからどのくらい時間が流れただろう‥。
シーンと静まり返った部屋の中に、静かに携帯電話の呼び出しのメロディーが流れ始めた。

ギクリと心臓に電気が走り、身体中の毛穴が総毛立つ。

『フレッドだったらどうしよう‥!』

凍り付くような緊張を感じながら表示されたコールIDを確認すると、そこにはクリスの番号があった。点滅するアンサーボタンに触れながら、いくつか咳払いをして声を整える。そしてひとつ深呼吸をすると、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, セルラー, 電話, 携帯電話その後思い切ってボタンを押した。

「ハイ、ハニー。」

週末フレッドと会う時間の後、クリスはよく電話をくれる。
ベビーの受け渡しで否応無しにフレッドに会わなければいけない私の動揺を、彼なりに気にしてくれているようだ。

張り詰めた神経の隙間に柔らかい声が響いて来る。
返事をしようと軽く息を吸い込んだ途端、こみ上げた涙にむせ込んだ。
平静を頑張る程、しゃくりあげる嗚咽で言葉が出ない。

「今、どこにいるの?」

「‥‥‥‥。」

「ホテルだろう?今からそっちに行くからね。今日は夜勤で仕事のシフトが午後からなんだ。」

「‥‥うん‥。」

 

 十五分後、クリスが合い鍵を使って部屋の中に入って来た。

枕を抱えてうずくまった体が、大きな腕の中にすっぽりと包まれる。
嗅ぎなれたコロンの香りに、心がふわっと安心した。

「さあ、何が起きたのか説明して。」

私が少し落ち着いたのを確認すると、クリスは静かに聞いて来た。
たくましい肩に頬を預けたまま、手にした書類を彼に渡す。
受け取った書類の束を見て、クリスはいつになく真剣な表情でその全部のページに目を通すと、
「これはひどいね。」
大きなため息をつきながら、小さく唸るように呟いた。

しかしそう言った次の瞬間、彼の青い瞳はニッと笑い、不安げに顔を見つめる私の鼻を人指し指でピンと弾くと、『こんなものは紙屑と一緒だよ』と言わんばかりにブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ホテルの部屋, お洒落な部屋, インテリア書類の束をベッドにポンと放り投げた。

「でもフレッドも馬鹿だよなあ。こんなことしたって自分の首を絞めるだけなのに。考えてもご覧よ。大体こんな事いったい誰が信じるの?君がアルコホリックだとかドラッグ中毒だとか‥。おまけにホームレスまでくっ付いて、もうここまで来ると立派なジョークさ!誰が見たって嘘だってことが分るだろう?」

そう言いながら、肩にまわした片方の手でクシャクシャと私の髪を掻き回すと、重たい空気を吹き飛ばすように軽いテンポで話を続けた。

「実際君は、今まで何ヶ月もシェルターでの生活を潜って来てるわけだし、それが判事に対しても、君がまともな人間だって事の立派な証明になってるさ。もし仮にそんな問題を抱えてる人間だったら、シェルターの前に、矯正のプログラムの方に送られてるよ。フレッドもこんなことばっかり繰り返してると、まったく『自分は嘘つきです』って大声で吹聴しているようなもんだよな。」

「ふふふ‥。」

テンポの軽い気楽な声に、心が解放されて行く。
ピリピリ神経を突いていた物たちがゆっくり外に溶け出して、つい今しがたまで涙でふやけ落ちそうだった顔に、また笑顔が浮かんで来た。

私の笑顔が戻ったのを見て、クリスはもう一度私の髪をクシャッと掴み、頭に軽くキスをすると、ベッドから立ち上がってキッチンへ行き、コーヒーメーカーの中に残っていた一人分のコーヒーを二つのカップに注ぎ分けて戻って来た。

「さあ、仕事を済ませよう。」

それから後は、ローヤーに電話を入れシェルターの方にも連絡をとった。感情の渦の中でこんがらがって滅茶苦茶に絡まった糸たちが、スルスルと解け出し、また時間が流れ始めた。

そうして全ての『応急処置』が済んだ後は、ただクリスとベッドの上に並んで座り、繭に包まれるように時間を過ごした。
不安を根こそぎ摘み取るように、クルクル動くブルーの瞳が冗談を並べて行く。 ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ピノキオ, ピノキオの鼻, カボチャのピノキオ, ハローイン, カボチャ

「フレッドの鼻があんなに大きいのは、きっとジェベット爺さんの呪いだよ。嘘つく度に、ニョキニョキニョキニョキのびちゃうんだ。コートが終わる頃にはもうすっかり鼻がつっかえて、コートルームから出れなくなったらいったいどうするつもりだろう?それを考えると心配で、夜もゆっくり寝てられやしない。」

幸せなクスクス笑いが、重たい気分を吹き飛ばす。
力強い腕にしっかり体を抱き支えられながら、また明日を生きる勇気が沸いて来る。

 

 「さて、嵐もおさまった様子だね。」

穏やかに微笑む私の頬にキスをしながら、クリスはゆっくりと身体を起こし静かにベッドの上からおりた。

「後でまた電話するよ。ちゃんとランチを食べて、今日はリラックスしてるといい。ベビーもいないし天気もいいし、僕が君と入れ代わりたいくらいだ。哀れな僕は、これから明日の朝まで仕事。ああ、いいなあ。船出したいなあ‥」

気だるそうにネクタイを正しながら鏡に向かってブツブツそう呟くと、鏡の中の悪戯な瞳がニヤリと笑った。その後は素早く私の耳にキスをして、クリスはバタバタ部屋のドアを開けた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ドア

後ろ姿を見送りながら、口の中で小さく『ありがとう』と呟く。

パタンとドアが閉められた後も、そこから外を歩いていくクリスを感じながら、しばらくドアを見つめていた。

 

 ダウンタウンに戻ると、早速また、フレッドとの第二ラウンドが始まってしまう。
でも私はもう一人じゃない。
今では色んな人たちが、私の時間を見ていてくれる。

友達がいる。シェルターのスタッフがいる。
今まで出会って来た沢山の人たちが私の存在を知っている。もう、ヘイワードでひとりぼっちで泣いていた、孤独でちっぽけな私じゃないんだ。

『ふふふ。』

胸にポッとくすぐったい火が灯った。

「ありがとう。」

ドアを見つめながら、今度は少し大きな声で呟いた。

 


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[2012/04/29 03:51] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード27

 二月もあと何日かで終わる日、ティブロンでの生活にさよならを告げて、またダウンタウンのアパートメントに帰って来た。


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 今度の部屋は、以前のストリップシアター『ミッチェル・ブラザーズ』のネオンが煌めく大通りに面した側ではなく、ちょっと怪しげなゲイ関係のショップが並ぶポークストリートを見下ろす建物の裏側になった。

部屋の広さも狭くなり、日当たりも少し悪くなった。
しかし、そんな事も気にならない程、何より家賃が遥かに安くなるのは有り難い。

建物の裏側になるというのもそう悪い事ばかりではないようだ。
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しかし,戻って来た建物は同じだというのに、前とは全く違った部屋で生活が始まってしまうのは、実際おかしな気分である。
以前の暮しの中にあった習慣が抜けきれずに、ロビーではつい当たり前の顔をして、今ではもう人様の物となった部屋のポストにカギを突っ込んでみたりする。
エレベーターを降りる階にもいちいち混乱するありさまで、何だか毎日がパラレルワールドの中にいるようだ。

まあ、今はまだ、何もかもがバラバラで落ち着かないこの状態も、時間と共に、飛び出したあちらこちが削られて行き、また新しい生活の形が作られて行くのだろう。

 

 そうして、最初は混乱の連続で再開したダウンタウンの生活も、部屋にある段ボールの山が整理されるのに従って、以前ここにあった通りの時間が、少しだけ形を変えて、また同じように流れ出した。

フレッドとのコート・バトルも再開した。移民局のビザのプロセスも相変わらずで、指紋登録だ、労働許可証の更新手続きだと、毎日何だと追われる時間が過ぎて行く。

毎朝、お猿の『遊ぼうコール』で目が覚める。 ベッドを抜け出した後は時間と追いかけっこをするように、バタバタ二人分の用意を整え部屋を出る。
エントランスのロビーでは、もうすっかり親しくなった新しいガードマンのアレックスと挨拶を交わし、それからお猿をデイケアまで送って行く。
トムとヒワイダとその子供たち。彼らのいつもの朝の笑顔が、一日の始まりを楽しく元気にしてくれる。

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夕方仕事を終えた後は、またデイケアからお猿をピックアップして、スーパーの袋を山ほどぶら下げたストローラーのハンドルを押しながら、ゆっくりポーク・ストリートを帰ってくる。

ごちゃごちゃと忙しい街並。
人々の活気。
ティブロンで過ごした束の間の時間が過去の想い出に変わって行く‥。

 

 今日は、最後の段ボールを片づけた後、やっとその後ろから出て来たコンピューターを接続した。
久し振りにゆっくり中を開いて見て行くうちに、未整理のまま、今までやりっぱなしに放っておいた日本の母親や友人たちに書いたEメールが、山のように出て来てしまった。

モニターの中、あちこちに散らばる手紙たちに、宝もの捜しを楽しむようにわくわくしながら目を通して行く。時間を忘れて、夢中で日付け順に並べて行く内に、そこには思いがけず、自分さえもが忘れていた時間の記録がくっきりフィードバックされて残っていた。

『色んなことがあったなあ‥』

メールに残された時間をたどりながら、様々な『今』が鮮やかに目の前に蘇ってくる。幸せに微笑んだ時間。恐怖に震えて過ごした時間。不安で泣いていた時間。愛に満たされた時間‥。
そこにある沢山の物語を読み進みながら、ほろ苦い思いに包まれる。

 

 サンフランシスコに来てからの二年半という時間の中で、私は今まで生きて来た百年分の勉強をしたような気がする。

日本にいた頃は当然のように,その自分が生まれ育った社会の中にある生活がずっと続いて行く物だと思っていた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 注目のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 時計, 時間, 歴史, 生活, 時の流れ, 思いで, 文字盤, 忍耐, 希望
しかし、それが突然、唐突に、全く異質の場所に放り込まれ、今度は言葉さえもおぼつかない状況の中で、目の前にいる相手が怒っているのか、喜んでいるのか、何かを要求しているのか、単に話しているだけなのか‥、そんな基本的な事でさえも自分の勘だけを頼りとしながら、たった一人で切るしかなかったゼロからのスタート。

神のお計らいとはよく為された物で、それでも私には、毎日守って行かなければならない小さな存在が与えられていた。 手探りの混乱の中で自分自身もみくちゃにされながら、それがどれだけ私を強く、忍耐強くしてくれたことだろう。
自分のためには乗り切れないことでも、自分が守る物のためなら乗り切れる。

 

 人生を生きて行く強さというのは、いったいどこから来るのだろう?

それは私にとって、『時間という物は点ではなくて、線で繋がっている』ということが理解できたことだったと思う。

時間は常に流れている。
私たちは、常に移り変わって行く流れにのりながら、その時々に自分の船が遭遇する物たちに右往左往しているだけなのだ。
川の流れの中に石を投げ込むと水は濁る。 しかし、水が流れ続けて行く限り濁りはだんだん薄まって、また澄んだ流れが戻ってくる。要は、どれだけ水が濁ったときに、未来を信じて、その流れの中で泳ぎ続けて行ける知恵と強さを持っていられるかが大切なのだと思う。

こんな簡単なことが、なぜ今まで分からなかったのだろう?

 

 どんな人の人生にも、苦しい時がある。悲しい時がある。

一時の『嵐』の中に閉じ込められて、全てのものから目を背け、ただ闇雲の中でもがき苦しんでいる間は、その自分で止めた『点』でしかない時間に全ての可能性を閉じ込めて、絶望し、嵐はいずれ通り過ぎてしまう事を思い出す気力さえ失ってしまう。

だが、時間は流れて行く。

『もうダメだ』なんて思ったとしても、そんな思いは、流れ続ける『時間』のフィルターにかけられて、次に季節が変わる頃には、案外ぶ厚い小説の、たった何行かのエピソードに変わっていたりするものだ。

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しかし、その暗闇を這いずり回った痛さや苦しみの記憶が、出口を抜ける頃には予想以上に大きならくだの瘤となって、これから歩いて行く道々で必要な知恵や勇気を与えてくれる。
そして次の瞬間には、今度は驚く程幸せなドアが、思いがけず目の前でパッと開いたりもするのだから人生は面白い。

『自信』という文字は、自分を信じると書く。

自分が乗り越えた困難や苦労の中で学んだ知恵や勇気が、未来に向かう時間の中で、自分を信じる強さを作って行ってくれる。

そんな風に考えると、これからもまだ困難がテンコ盛りであろう人生にも、一人で立ち向かって行くのがそれ程恐くなくなって来る。

人生という物はそれほど捨てた物でもないと思う。
そこから学んで行く物たちが、未来の勇気を作って行く。

 

 私はサンフランシスコで、掛け替えのない物を手に入れた。

これから一緒に時間を生きて行く小さな存在が、私に大きな勇気をくれる。
自分の為には頑張れなくても、このちっぽけな宝物を守る為にはどんな事でも出来そうな気がする。

一年後の自分は想像出来なくても、一年後の娘の事は想像する。
その為には、一年後の私がいなければ一年後の彼女はいないのだから。

これからもサンフランシスコで暮して行く。

毎日開けるドアの中には、まだまだ思いもよらないストーリーが沢山隠れていたりするのだろう。

 

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 今日、バスの窓からこんな言葉が見えた。

"today is the first day of the rest of your life"

「今日は、今から生きて行く人生の最初の日。」

全ては私が年老いた時、『ああ、あの時はこんなだったねえ‥。』なんて、笑って話せる時が来たら素敵だなと思う。

 

 また明日、サンフランシスコで目が覚める。

today is the first day of the rest of your life.

 

〜 完 〜

 


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[2012/04/30 13:25] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
あとがき

約一ヶ月半の間、おつきあいいただきましてありがとうございました。

この『サンフランシスコからコンニチワ』は、わたしがサンフランシスコで生活を始めた頃、最初の2年間ほどの間に起こった出来事を、日本の母親や友人に当てたメールをたどりながらストーリーにしたものです。

わたしのウエブサイト、 ☞"Hiroko Sakai Fine Art Gallery" を新しいデザインにリモデルしたときにメニューの中に加えておいたものを、今回、このFC2の他のページで ☞ブログを書き始めたのをきっかけに、このエッセイもこちらに加えさせて頂きました次第です。

 

サンフランシスコで生活を始めてから、もう10年以上もたってしまったんですね。

このエッセイの中では、まだちっぽけな赤ん坊だった『お猿』も、今では華のティーンエージャー。呼び名も『チビピグ』に更新し、毎日この猛獣使いの生活に右往左往させられています。
彼女の虎の子ぶりは、 ☞”ティーンエージャーは13さいから”の方でチェックしてくださいね。

『フレッド』こと、ミスター裸の王様も相変わらずの馬鹿者ぶりで、最近のエピソードはこちらの ☞”アメリカってなんだか面倒くさい‥”でお楽しみいただけます。

さて、この『クリス』とのその後の展開もよく質問が来るところですが、これはまた次の機会のお楽しみにとっておきたいと思います。

 

この10年間という時間の間には、本当にたくさんのことがありました。
今はチビピグとの生活と、このエッセイの時間から2年ほどたって再開した ☞アートに全力投球の毎日です。

この『サンフランシスコからコンニチワ』の続編は、また時間を見つけて追々書いていけたらと思います。

 

これからもどうぞ、わたしのブログ ☞"Life is Beautiful" の方で、引き続きおつきあいのほどよろしくお願いいたします。

 

ひろこ

 


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[2012/04/30 15:14] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(4) | page top↑
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