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イントロダクション
 サンクスギビングのターキーレシピの話題でアメリカ中が盛り上がる頃、今まで予想だにしなかった『第二の人生』という物を、たった一人、突然に、サンフランシスコのダウンタウンの外れでスタートさせるハメとブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 坂井浩子, ひろこ, hiroko sakai, hiroko, なった。

連れはまだ、産まれて七ヶ月のムシのような『お猿』‥失礼、ベビー、一人と半っきりである。


 日本にいた頃の私といえば、もう三十才を過ぎるまで、自爆霊よろしく産まれ育った福岡にとりついて、海外旅行のパスポートさえ取ることも無い生活を送っていた。 それなのに、今さらこの冗談のような話のスタートだ。まるで、バーチャルリアリティーの世界をライブで見ている心境だ。

まあ、考えてみれば、これまでの私の人生、大なり小なり、どこを切っても似たようなブラックジョークの連続だった。

何ぶんもともと整理整頓大苦手のやりっぱなし人間だったりする。
今まで、人生の整理についても無頓着にやって来た『つけ』が、ここで一気に開花したのだと思えば、この冗談の成りゆきも、自業自得で納得出来ないことはない。

「そら見たことか」と笑う日本の母親の顔が、目の前に浮かんで来るようだ。


 そもそも、何でよりによって、こんな間抜けすぎて、かえって人様に話しまくらずにはいられない素敵な人生のシナリオの白羽の矢が、この私になど当たってしまったのだろう?
出来る事なら、丁度季節もいい頃だし、商店街の年末クジの『ハワイの旅一週間御招待』くらいに置き換えてくれるととても有り難い。

‥しかし、いつまでこんな無駄話で逃避していても仕方がない。
ここらでそろそろ話の幕を開く事にしよう。

 

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 まず、月並みなスタートではあるけれど、何故今私がこんな所でこんな事をやっているのか?

その答えは、『アメリカ人と結婚したから』‥である。

ここまではよかった。うん。

しかし、たまたま結婚しちゃったこのアメリカ男というのが、何と、今流行りのアビューシブなヤツだったりしたわけで、私の初のアメリカンライフ『ドメスティックバイオレンス』などという、最先端の横文字環境の中で封を切られる事となった。

 

 あ、ここで、誤解の無いように申し上げておくけれども、私には決して変な趣味があったりするわけではない。

この『前夫』、今でこそ顔を見る度に、ヘビと何とかの三竦みよろしく妙な感情に取りつかされる男だけど、結婚前には全くの別人だった。
白人男の至れり尽くせりのサービスぶりで、『世界でこれ程優しくて、ロマンティックな男はいないわ』などと、今考えると、背中が痒すぎてひっくり返らずにはいられない錯覚を信じさせてくれるジェントルマンのはずだった。

‥その結果がこれである。

まあ、巷では、こんな間抜けな話などいくらだってありふれてたりするのだけれど、しかしそうは言っても、まさか、これ程の男の豹変振りを目の当たりにする機会が、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, 迷える子羊よりにもよってこの自分の身の上に降り掛かる事になろうとは‥。

神の公平さというのも、時にはありがた過ぎてはた迷惑なものである。

まあそれも、結局迷える小羊を、神が正しい方向へと導くべく、人生の有り難いお勉強とやらを与えて下さっているのだと思えば、少しは謙虚にこの状態を受け止める事が出来るのかもしれない。

何しろ、時々ガツンとやらねば、空の彼方にまでも舞い上がりかねないヤツなのだから。

 

 そんなわけで、渡米後最初の一年間は、サンフランシスコの東のヘイワードで、毎日みっちり『我慢大会』のトレーニングを積むような時間が過ぎて行った。

全く、アメリカ人というのは何をするのも半端じゃなくて、夕食のテーブルをひっくり返すも、漏れなくフルジェスチャー入り馬耳雑言のおまけ付き。
『よくあんなパワーが出せるなあ』なんて、ただただ感心させられる毎日だったりしたのだけど。

しかし、そんな暢気な事を言ってられるのも、まだまだ旅行者気分の抜け切らない、外国生活初心者マークの頃だけだ。
毎日目の前で展開されるスリルとサスペンスに満ち溢れた時間の中、次第に『このままいたら殺されるかなあ?』なんて思いに駆られ始め、それでついに、茹だるような真夏のある日、トランク一つと、小さなカーシートに詰め込んだ、まだ産まれて四ヶ月しか経っていない『お猿』だけを両手に抱えて、さっさとここ、サンフランシスコにあるアジアン・ウーマンズ・シェルターにまで逃げ出して来たわけである。

シェルターでの生活は、中にいる避難居住者たちの安全を考えて、厳しい秘密主義が貫かれている。
十年間一緒に仕事をしているというブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ドメスティックバイオレンス, シェルター, 生きる強さ, 家庭内暴力, アメリカで子育て弁護士事務所にさえも、そのロケーションは知らされてはいない。
私もここで、その詳細を書くのはやめておこう。

しかし、ただ一つだけ言っておきたいことは、そんな組織のパワーという物は偉大な物だ。
こんな外国生活、増してや、全く新米ホヤホヤ、ビギナー組ママさんの私でも、シェルターでお世話になる事が出来た三ヶ月の間に、サンフランシスコに合法的に滞在するビザ、親権の裁判の手配、これから言葉さえもろくに通じない、初めての外国生活に、ベビーとたった二人で放り出される準備を整えてくれた。

 

 今日は、お世話になったシェルターを出て、いよいよ小さなベビーと二人っきり、この遠い外国のダウンタウンで新しい暮らしを始める日だった。
午後も遅い時間、ボランティアに助けられて、この小さなアパートメントへと移って来た。

引っ越しは、別にこれといった荷物も無く簡単に済んだ。
一通りの仕事をし終えると、手伝ってくれた皆は、次の仕事に向けて忙しそうに帰って行った。
三ヶ月間、家族のように助けてくれた彼女達も、もう、これからはお互いに連絡を取り合う事も無い。

 

 周りから人の影が消えてしまうと、何もかもが見知らぬ空間の中、たった一人、ポツンと置き去りにされた心細さが襲って来た。

家具も無いがらんとした白い箱。

『こんな所で何をやっているんだろう?』

不安とも恐怖とも、何とも形容し難い感情の塊が身体の中を突き上げて来る。
家族も友達も、知ってる人たちは皆、遠い遠い場所にいる。
明日からは、この不思議の街で、たった一人の生活が始ってしまう。

暗い路地の片隅に、一人ぼっちで取り残された捨て犬の心細さが身体中に滲みて来るような気がした。

 ‥とその時、

「ファイヤエ~~~‥」

静まり返った部屋の中に、突然生の抜けた音が響いた。
思わず目が走る。
そこには、小さなベビーチェアの中で、手足を大の字に広げたお猿がぐっすり眠りこんでいた。

さっきまで、珍しそうにあちこちを指差しながらはしゃいでいた彼女も、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, ベビーいつの間にかコトンと寝入ってしまったようだ。

『ヘイ!大丈夫だよ。私がここにいるよ。』

微笑みがふっと顔に浮かぶ。
荷物を整理する手を休め、プクプクしたホッペをつっ突いてみる。

気分が少し軽くなった。

 

 色々思い悩んだ所で、時間は同じように過ぎて行く。

とにかく今は立ち止まらずに、恐る恐るでも目の前のドアを開け続けて行こう。そこで待ってる何かは、これから先の『お楽しみ』。明日からはまた新しい一日が始る。

この小さな腕が私に向かって開く限り、何だか頑張れそうな気がした。

 


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テーマ:海外生活エッセイ - ジャンル:日記

[2012/03/19 13:21] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(10) | page top↑
エピソード1
 アパートメントの部屋がようやく人の住める状態に整って、少しづつ新しい生活のリズムも回り出すかと思えた頃、ドーンと震度七級のホーム・シックが襲って来た。


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自分でも、かなり阿呆な姿を曝しているなあとは思うのだけれど、もう、何を見ても、ホームタウンの福岡を想い涙涙に暮れる毎日。
耳に入る英語にさえも、胃が拒否反応を示しムカムカ。

サンフランシスコにこれといって怨みがあるわけじゃないけれど、実際もう、外の景色を見るのもノー・サンクスといった気分である。

 

しばらくそうして、ただひたすらに気分が落ち込む日々を送っていると、ワシントンのサチコさんからEメールが届いた。

『ネットの友達募集の掲示板に、アドをのっけてみたら?』

 

 サチコさんとは、まだヘイワード生活を送っていた頃に、ネットの中の、外国在住日本人関連のサイトを通して知り合った。その頃の彼女はまだ佐世保にいて、ネイビーにいるアメリカ人の元旦那と、日本とアメリカを行ったり来りして暮らしていた。

不思議な事に、その頃から私達二人の境遇は、驚く程似たような経過を辿って来た。
そして、私がサンフランシスコのシェルターに逃げ出した頃、彼女も三人の子供を連れて、ワシントンまで逃げ出して来た。
それからこの半年間というものは、お互いに、つかず離れずメールの交換を続けている。

ワシントンで、新しい生活に右往左往する彼女の様子が、私がサンフランシスコで送る時間と不思議な程にだぶって来る。どちらも、誕生日がたった二日しか違わない魚座組さんである。こんな運命の類似性を見ていると、『案外星占いも侮れない』なんて、ひしひしと感じてしまう今日この頃だったりする。

「私も最初こっちに来てから、友達の勧めでネットにアドを出してみたの。
最初は日本人の感覚で、『ちょっとネットで友達募集だなんて怪しいかなあ』なんて思ったりもしたんだけど、やっぱり見知らぬ土地で、しかも、子供三人も抱えて、一から人に会って行くってのは大変な事でしょう?
でも、いざ思い切って、そこから色んな人たちと話を始めたら、『自分の位置』っていうものが分かり出した。 こっちでは日本と違って、ネットで出会うって感覚も、もっとカジュアルに定着してるみたいだし。
とにかく、見渡す限り何にも見えない大海原に、一人でポツンと浮かぶような心細さからは解放された感じですよ。」

ここ暫く止まっていた時間の中に、『あと一人の私』の声が響いて来た。

 

 それから二、三日悩んだ末、私もその掲示板に、初めて『友達募集のアド』なる物をのっけてみる事にした。
正直言って、これはかなりの大冒険。
『何人か返事を貰ったら、その中から気が合った人二、三人見つけて友達になれればいいかなあ‥‥』なんて、我ながら最初は、そんな『謙虚さ』を全面に押し出しながらの小さなドキドキのスタートだった。

 

 ところが実際フタを開けてみると、その反響の凄さには驚いた。

とにかくアドを載せた日の夕方からは、『来るわ来るわレスポンス!』ってな感じで、それこそ怒涛のように返事のメールが押し寄せて来た。

まだ日本にいる頃冗談のように、『日本女性は、こちらでは物凄くモテまくる』という話を聞いていた。しかし、実際もう三十も半ばの子持ち昆布女に、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, マリリンモンロー, 外国人とのロマンスこれ程までに情熱を注げるサンフランシスカン男たちのパワー‥‥。それは一体、何をもって湧き出て来たりするのだろう?

マクドナルドのハンバーガーやスターバックスのコーヒーには、恋の媚薬でも入っていたりするのかしら?

ついでに言うと、彼らの辞書には『謙虚』といった文字などは皆無のようだ。殆どの手紙に、'i am handsome'だとか 'attractive!' 'good looking!'など、しっかり『自分で』書いてある。

百歩譲って彼らの言うことが本当だとしよう。

それじゃあまるで、このサンフランシスコ中が、絶世の美男子だらけという事になってしまうのではないか。

ちなみにこのattractiveという単語、魅力的な人を形容するのにこちらではよく耳にする言葉だ。
しかし、いったい彼らが書く自分のattractive度具合というのは、誰から見たattractiveなのだろう?『自分自身』からなのか『友達』からなのか、はたまた『女性』からなのか、それともたんに『お母さん』からなのか‥。
それによってもこのattractive度、随分違った物になって来ると思うのだけれど。

この次、またこういうアドを出す機会が来るとすれば、ここの所、はっきり明記するようにお願いするのを忘れないようにしよう。

 

 サチコさんがくれたアドバイスメールの中には、これまでの、彼女自身の体験談が幾つか書いてあった。

十年前のスリムな写真を送って来て、いざ待ち合わせ場所に行ってみると、とんでもないおデブがそこにいた。驚いた当のサチコさん、さっさと人違いのふりを決め込んでそこから飛ぶようにして逃げ帰って来た。
‥とか、その他にも、ガソリン代も払えなくて、待ち合わせ場所まで来る事が出来なかったスタービング・アーティストの話‥。
そこまで貧乏しているんだったら、友達捜す前に仕事さがせよ!

何だかもう、笑ってよいのか真剣に聞いておくべきなのか‥。この冗談のような『先輩』のアドバイスを参考にしながら、これから自分なりに、この新しく手に入れたおもちゃ箱の中身をのぞいて行こう。

どんなものが隠れてるのか、それは後でのお楽しみ。

 


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[2012/03/19 13:47] | エピソード | トラックバック:(0) | コメント:(0) | page top↑
エピソード2
 今日から十二月が始る。
サンフランシスコの街はクリスマスに向けて、もうすっかりお色直しを済ませている。

アメリカに来てから初めて一人で過ごすクリスマス。
日本で過ごした賑やかな季節の思い出が、過去の時間に埋もれて行く。


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 今日はお猿をデイケアまでお迎えに行く途中、ちょっと寄り道をして、ビーチまでやって来た。

最近、救いようのなく気分が落ちこんでしまう時には、ただひたすら海を見に行く。

日本庭園や美術館、乗馬クラブなどを、すっぽりその森の中に覆い隠すゴールデン・ゲート・パークの横を走り抜け、ミュニ・バスが終点に近付くと、目の前には突然、銀色に輝く一面の波が飛び込んで来る。
海鳥たちが飛び交う蜂蜜色の砂浜では、銀色に染まった逆光を浴びて、そこを行く人々のシルエットがゆっくりゆっくり動いている。

潮っぽい風に体を抱かれながら、海岸線を見下ろすコンクリートの壁に腰を掛けて時間を過ごす。
雄々とよせる波しぶきの中に、ちっぽけな自分が溶けて行く。

 

 いつものように海岸線の壁によじ登ると、『今年ももう終わりだね』とでも言うように、海から冷たい潮風が顔にぶつかって来た。
スエットのフードを被り直し、波打ち際に目を向ける。 そこでは、ヨチヨチ歩きのベビーがママに手を引かれながら、ぎこちない動きで大きな犬たちと遊んでいた。

思わず口の端が弛む。
その、まるで緩んだゼンマイが仕込まれたような頼り無い動きを見ていると、ふいにお猿の笑い声が、耳のすぐ横で聞こえたような気がした。

いつもは、絶えることなく、人が行き交うオーシャンビーチの砂浜。
今日は、風の冷たさのせいか、海岸線にはこの親子以外の人の姿は見えない。
ただ眩しく輝く波だけが、強く柔らかく、ボレロのように同じリズムを刻みながら、静かに日の暮れの海の風景を描いている。

「ふふふ‥。」

微笑みが、ふとこぼれてきた。
私にも、今では無条件で自分を必要とする小さな存在がいてくれる。
凍えた身体が、中からほんわりあったかくなった。

大きな波が、遠くからゆっくりと寄せて来て、あたり一面、透き通る水のベールで覆った後、また海に向かってゆっくりと引いて行く。
パチパチ弾ける白い泡が、心の引き出しを開けて行く。
空に透ける水平線。時間の記憶が蘇える。

 

 お猿の誕生。
この世界の中で、自分が一番ではなくなった日。

昨日の事のように感じるのに、また、遠い昔のようにも感じてしまう。
彼女がこの世に産まれた日、私は命の神秘を知った。

昨日まで、ウンともスンとも全く気配のなかった物が、全く予定日ぴったりの朝、突然バスルームで破水した。
ショックな気分に浸る暇もなくそのまま病院に駆け込むと、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, オーシャンビーチ, ビーチ, 海,海岸, 出産, 海外で出産, アメリカで出産, ベビーもう、そのたった二時間後には、産まれ立てホヤホヤの小さな小さな『ヤツ』の体は、私の腕に抱かれていた。

この几帳面な性格といい、せっかちな誕生の仕方といい、まるでそこには、これからの彼女の人生が語られているようではないか。

何しろ、ドクターに痲酔をうってもらってから、そのもう十分後には、さっさとママのお腹から出て来ていた。へたをすると、無痛分娩の痲酔も間に合わない所だったのだから、そう考えると、今さらながら『ちょっと恐い』‥。

ちなみに、この痲酔を使った出産というのは、まだまだ日本では『危険だ不自然だ』と、あまり諸民権のあるものではないようだけど、ここアメリカでは、もう大部分の出産が、普通にこの痲酔を使った無痛分娩で行われる。
もちろんこれは、本人の希望を確認した上の事ではある。

まあ、何を隠そう私自身、妊娠当時はその頃流行りの『水中出産』なる物に甘いロマンを求めていた口ではあった。しかし、ヘイワードの『ど』田舎で、ラマーズ法など洒落たものをやってくれる病院を捜すのは難しい。結局最後には、『元夫』フレッドの言うことに従って、しぶしぶ痲酔を使った出産をOKする事になった。

しかし、一旦陣痛が来てみると、この時ばかりは最初で最後、フレッドと、その田舎の選択肢の無さには、心から感謝する事になった。
とにかくあの陣痛の痛みといったら‥、ただ一言、『痛かった』で済ませてしまえるような代物ではない。敢えて、その『痛さ具合』を今ここで言えと言われたら、
『十年分の生理痛が一度に腰を襲い、まるでそこからティラノザウルスに下半身をもぎ取られて行くような物凄い痛み。』
‥とにかくそれまでの人生の中、想像しようもなかった程の『猛烈』なる苦しみだったと言ってもまだ足りない。

別に、世の中の妊婦さんたちを脅かすつもりでこんな事を書いているのではないのだけれど、それが正直な所、言わずにおけない私の本音だったりする。

『痲酔無しのお産なんて、痲酔無しで外科手術を受け身体を切り刻まれているのと同じである。』

これは、出産を経験した女性なら誰でも、二つ返事で同感して頂ける意見だと確信する。‥‥イタタタ。

 

 所でなぜ、無痛分娩で出産をする筈だった私が、こんな陣痛体験などさせて頂く羽目となったのだろう?それはまた、ここアメリカでのお約束、病院に着いて分娩室に運び込まれた後、そこからは当然のように、痲酔のドクターが遅れたからだ。
お陰様でこの私、幸か不幸か、この有り難い貴重な人生経験とやらを、選択の余地無くしばしの間満喫させて頂く事となった。

大昔、『ご先祖様』が、神からの言い付けを破ってリンゴを食べたその罰に架せられたという陣痛の苦しみ。しかし、これではあまりにも、ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, オーシャンビーチ, ビーチ, 海,海岸, 出産, 海外で出産, アメリカで出産, ゴジラ, 怪獣理不尽な話と言えるのではないのだろうか?
何故、そんな顔も存じ上げない遠い過去の『親戚』の罪が、今だこうして私の上に廻って来たりなどするのだろう?
固い分娩台にのぼり、ひたすら火を噴く怪獣のように叫びまくりながら、お馬鹿な疑問が頭の中をさまよった。

暫く置いて、ようやく痲酔のドクターが部屋に駆け込んで来てくれた。

「あ、ごめん。」

そんなお間抜けな台詞にも怒りを返す余裕はない。とにかく百本でも二百本でも、早く痲酔をうってくれ!

 

 それからすぐに、海老のように丸めた背中に、ズーンと痲酔の針がうたれた。そうした途端にあら不思議。針が抜かれるのを待つまでもなく、それまでの痛みは嘘のように薄らぎ、下半身からは、やけにポカポカ、少しラリったような、何とも言えない好い気持ちが満ちて来た。
『地獄から天国に一気に引き上げられた気分。』
まさに、地獄に仏とはこういった事を言うのだと、妙に実感させられた瞬間だった。

痲酔を終えると、その後はもう、それまでの痛みや苦しみは魔法のように消え去った。それまでただの煩い騒音でしかなかったナースたちの英語の指示も、余裕で耳に入って来た。

痲酔に使う薬には、笑気ガスでも入っていたりするのだろうか?
ポカポカ下半身に感じるいい気持ちには、何だかもう、笑い出したくなってきてしまう。

しかし、そうは言ってもお腹の中では、何やら『巨大な物体』が、途中、何度も止りながら、下へ降りて来るのが分かってしまう。
それも、よくある例えの『便秘でなかなか出なくって、とっても苦労のあの感じ』。
失礼。

その身体の中に感じる大きさに、『やっぱりこれが痲酔無しだったら、とてもこんなふうに冷静に構えてなんかいられないよなあ‥。』なんて暢気な事を考えながら、人生初の大仕事はいよいよクライマックスに突入した。

ついにベビーが出て来た瞬間。
そこに初めて見た我が子の姿は‥、何だか大きなカエルが大の字逆さまで、『へーン!!』っとドクターの手からぶら下がっているような感じだった。
ホヤホヤと湯気があがるグニャグニャした身体のあちこちには、まだ白い脂肪の膜がくっ付いている。ヘソからのびるヘソノウの、そのネオン管よろしい鮮やかな蛍光グリーンの美しさといったら‥。思わずナースに、『そのヘソノウごと記念に欲しい』などとお願いしそうになった。

 

 まあ、何はともあれこうして無事に、五体満足の姿でお腹から出て来てくれた『お猿さん』。産まれた時の体重は、たった五パウンド二オンスの、アメリカ社会の中ではとても小さなベビーだった。
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こうしてまるでひと事のように迎えた『お猿さん』との初顔合わせ。私としては、もう少しか細く震えるような、可憐なベビーの姿を期待してたりしたのだけれど‥。まあ、この自分が母親である事実を考えると、彼女にもそれなりの言い分はあるだろう。

 

 さて、以前の私は、女であればベビーをもったその瞬間から、本能的に母親になれるのだと信じていた。
しかし、実際それを体験して言える事は、ベビーがお腹から出て来る瞬間なんて、そんなドラマのシーンにあるように、大袈裟な感動で涙してる体力なんぞさらさら残ったりしてる物ではない。ただただヘトヘトに『ヘーッ‥‥』と気が抜けて、とにかく後は、ゆっくり大の字で休ませて頂きたいだけである。うーん‥。
憧れていた、『ベビーが産まれた瞬間、人生が変わっちゃう程の感動!』なんて物は、もう、どっかの想像力の有り余ったタフな女性たちに勝手に任せておきなさいという感じ。

しかし、こんな初心者マークのビシバシ入った母親でも、初めてベビーを腕の中に抱いた瞬間から、毎日毎日、数時間刻みでミルクをあげてオシメを替えて、泣くのをあやしてお風呂に入れて‥。そうやって、自分の体から産まれて来た小さな小さな存在を、大事に大事に守りながら一緒に時間を重ねて行く内、いつしかゆっくり歩くように、掛け替えのない絆が刻まれ始めた。
まだ、ムシのようにちっぽけなこのチビ助けが、いつも笑っていられるように。そしてまた、それが励みとなって、明日を頑張る力が沸いて来るように。

人は親になる事を、ずっと時間をかけて学んで行くのだと思う。素質の違いはあれど、生まれついてのベテランママなぞどこにもいない。
そんな事が、お猿を持って初めて分かった。

こんな大切な時間も、いつしか記憶のアルバムに埋もれ、これまでゆっくり思い出す事も無かった。 今、私がこうして一人のベビーのママをしているだなんて、未だに世界のミステリーである。

 

 海岸線にはいつの間にか、また人の姿が見えて来た。
さっきの母子のシルエットは、すっかり消えてなくなっていた。ブログ, エッセイ, シングルマザー, 海外生活, 人気のブログ, 話題のエッセイ, カリフォルニア生活, アメリカ生活, ノンフィクション, 現代画家, 人気, アーティスト, サンフランシスコ, フェースブック話題の人, 話題の人, 海外の日本人アーティスト, オーシャンビーチ, ビーチ, 海,海岸, 出産, 海外で出産, アメリカで出産, ビーチ, 海岸, 犬, 砂浜, オーシャンビーチ

オーシャンビーチのかける魔法。
パッと瞬きをした隙間から、不思議な幻をのぞき見た。

人はここで、大きな海に抱かれながら、束の間の休息を過ごしまた日常に戻って行く。

そろそろ日も暮れて来る。お猿を迎えに行くとしよう。

 

 『今日』という時間に何が起ころうとも、また、『明日』という新しいドアが開かれるのを待っている。
恐れずに進んで行こう。 大きな物に包まれながら。そして、腕の中にある小さな物を、大切に大切に守りながら。

 


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